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23話 証を示せ②
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「我がフレデルトの若き獅子ルシアン王太子殿下、並びにアマリリス・クレバリー侯爵令嬢のご入場!!」
従者の高らかな宣言とラッパの音色と共に、アマリリスとルシアンは会場へ足を踏み入れる。いっせいに視線が集まり、さまざまな感情をぶつけられた。
(私が婚約者のように扱われるのが納得いかない貴族たちが約半数。三分の一がバックマン公爵夫人の派閥で好意的。残りは私が本当に婚約者となるのか様子見といったところね)
アマリリスはざっと貴族たちの表情を見て敵味方を把握する。ルシアンには相性がよく、かつなるべく敵意を持つ貴族に接してもらい、どのように転がすのか国王陛下に見てもらわなければならない。
「ルシアン様。今日は私がこれから申し上げる貴族たちに挨拶をしていただけますか?」
「わかった。誰から始める?」
「では——」
最初に声をかけたのは北方の領地を治めるミクリーク公爵だ。伝統を重んじる家門で王族に敬意を払う一方、アマリリスのような悪女の噂が立つ令嬢など、どうやっても認めたくない貴族で違いない。
「ミクリーク公爵、ご無沙汰していたね」
「我がフレデルトの若き獅子。ご無沙汰しておりました」
ミクリーク公爵は恭しくルシアンに礼をするが、アマリリスへ視線を向けることはない。存在すら認めないという風に拒絶の姿勢を見せた。
(ふふ、そうよねえ。悪女と名高い私が婚約者では、フレデルト王家にふさわしくないと思うわよね)
想定内の反応にアマリリスは余裕げに笑みを浮かべたままだ。
「それと、こちらは婚約者候補のアマリリス嬢だ」
「初めましてですな、クレバリー侯爵令嬢」
「お初にお目にかかります。アマリリス・クレバリーでございます。ミクリーク公爵におかれましてはご機嫌麗しゅう存じます」
アマリリスが完璧な淑女の礼をするが、ミクリーク公爵は口角を引き上げ左手で右手首を掴んでいる。ほんの一瞬だけ鼻に皺が寄ったことから、アマリリスに対する嫌悪や怒りの感情を必死に抑えているようだ。
(目元は笑っていないから愛想笑いね。ミクリーク公爵は忠心厚いお方だから、ルシアン様の前では歓迎したふりをして裏では粗探ししているというところかしら)
貴族たちが隠す本音は、アマリリスにかかれば言葉にしなくても暴かれてしまう。わずかな情報を拾い上げ正確に相手の感情を読み取っているのだ。
「リリスは本当に優秀でね、僕もたくさんのことを教わっているんだ。ああ、そうだ。この前参加したバックマン公爵のお茶会の話は聞いているかい?」
「バックマン公爵のお茶会ですね。ええ、ルシアン殿下がアマリリス嬢を大切にされていたと聞き及んでおります」
「それだけではないんだ。実は今までリリスはバックマン公爵家の嫡男と義妹が思い合っているのを知って、悪女の演技をしていただけなんだよ」
ルシアンの言葉にミクリーク公爵はわずかに瞠目して、すぐに真顔に戻る。驚きの表情が一瞬だったことから、ルシアンがここまでアマリリスを擁護すると思っていなかったのだろう。
(というか、公の場で私を愛称で呼ばないでいただきたいわ……! あらぬ誤解を招くし、なにより恥ずかしいじゃない……!!)
アマリリスがひっそりと羞恥に耐えていると、ミクリーク公爵はすぐに平静を装い穏やかな口調で反論してきた。
「……しかし、随分と悪女の演技が板についていたようですが?」
「リリスの本当の姿は僕が知っている。ではミクリーク公爵に尋ねるが、君はリリスをどれほど見てきた?」
「私はアマリリス嬢の噂を聞き、これまでの夜会での行動も目にしております」
「それだけ?」
「それだけ……と申しますと?」
従者の高らかな宣言とラッパの音色と共に、アマリリスとルシアンは会場へ足を踏み入れる。いっせいに視線が集まり、さまざまな感情をぶつけられた。
(私が婚約者のように扱われるのが納得いかない貴族たちが約半数。三分の一がバックマン公爵夫人の派閥で好意的。残りは私が本当に婚約者となるのか様子見といったところね)
アマリリスはざっと貴族たちの表情を見て敵味方を把握する。ルシアンには相性がよく、かつなるべく敵意を持つ貴族に接してもらい、どのように転がすのか国王陛下に見てもらわなければならない。
「ルシアン様。今日は私がこれから申し上げる貴族たちに挨拶をしていただけますか?」
「わかった。誰から始める?」
「では——」
最初に声をかけたのは北方の領地を治めるミクリーク公爵だ。伝統を重んじる家門で王族に敬意を払う一方、アマリリスのような悪女の噂が立つ令嬢など、どうやっても認めたくない貴族で違いない。
「ミクリーク公爵、ご無沙汰していたね」
「我がフレデルトの若き獅子。ご無沙汰しておりました」
ミクリーク公爵は恭しくルシアンに礼をするが、アマリリスへ視線を向けることはない。存在すら認めないという風に拒絶の姿勢を見せた。
(ふふ、そうよねえ。悪女と名高い私が婚約者では、フレデルト王家にふさわしくないと思うわよね)
想定内の反応にアマリリスは余裕げに笑みを浮かべたままだ。
「それと、こちらは婚約者候補のアマリリス嬢だ」
「初めましてですな、クレバリー侯爵令嬢」
「お初にお目にかかります。アマリリス・クレバリーでございます。ミクリーク公爵におかれましてはご機嫌麗しゅう存じます」
アマリリスが完璧な淑女の礼をするが、ミクリーク公爵は口角を引き上げ左手で右手首を掴んでいる。ほんの一瞬だけ鼻に皺が寄ったことから、アマリリスに対する嫌悪や怒りの感情を必死に抑えているようだ。
(目元は笑っていないから愛想笑いね。ミクリーク公爵は忠心厚いお方だから、ルシアン様の前では歓迎したふりをして裏では粗探ししているというところかしら)
貴族たちが隠す本音は、アマリリスにかかれば言葉にしなくても暴かれてしまう。わずかな情報を拾い上げ正確に相手の感情を読み取っているのだ。
「リリスは本当に優秀でね、僕もたくさんのことを教わっているんだ。ああ、そうだ。この前参加したバックマン公爵のお茶会の話は聞いているかい?」
「バックマン公爵のお茶会ですね。ええ、ルシアン殿下がアマリリス嬢を大切にされていたと聞き及んでおります」
「それだけではないんだ。実は今までリリスはバックマン公爵家の嫡男と義妹が思い合っているのを知って、悪女の演技をしていただけなんだよ」
ルシアンの言葉にミクリーク公爵はわずかに瞠目して、すぐに真顔に戻る。驚きの表情が一瞬だったことから、ルシアンがここまでアマリリスを擁護すると思っていなかったのだろう。
(というか、公の場で私を愛称で呼ばないでいただきたいわ……! あらぬ誤解を招くし、なにより恥ずかしいじゃない……!!)
アマリリスがひっそりと羞恥に耐えていると、ミクリーク公爵はすぐに平静を装い穏やかな口調で反論してきた。
「……しかし、随分と悪女の演技が板についていたようですが?」
「リリスの本当の姿は僕が知っている。ではミクリーク公爵に尋ねるが、君はリリスをどれほど見てきた?」
「私はアマリリス嬢の噂を聞き、これまでの夜会での行動も目にしております」
「それだけ?」
「それだけ……と申しますと?」
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