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13話 アマリリスの本気②
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バツが悪くなったバックマン公爵夫人は、アマリリスとルシアンを庭園へと先導する。会場に入るとルシアンは貴族たちに囲まれ、擦り寄る言葉を浴びせられた。一方アマリリスには、侮蔑の視線を送ってくるのだから器用なものだ。
「それにしても、どうして稀代の悪女が婚約者候補になどなっているのかしら?」
「そうよね、ルシアン殿下のパートナーなど悪女にこなせるわけがないでしょう」
「クレバリー侯爵からはなにも聞いておらんぞ。どうやってルシアン殿下を誑かしたのだ?」
遠慮のない悪意がアマリリスに向けられる。ルシアンがアマリリスに騙されていると決めつけ、果敢に攻めてくる勇気は認めたいが、ルシアンの前でパートナーを貶めるのは悪手だ。今回は勉強も兼ねているので大歓迎ではあるが。
アマリリスは困ったように眉を八の字に下げて、優雅に儚く微笑みを浮かべる。
「実は、従妹であるロベリアとダーレン様は密かに心を通わせていたのですが、私の存在があったため結ばれることができなかったのです。そこで一計を案じ、悪女のふりをして身を引いたのです」
「そんなでたらめを……!」
「信じられないわ」
アマリリスの発言を信じがたい貴族たちに、わずかな動揺が広がる。実際に今日のアマリリスの立ち居振る舞いは完璧で、悪女の素振りは微塵も感じられないからだ。
「それは本当だよ。しっかりと調査した結果、間違いない事実だ。僕も婚約破棄したばかりだったけど、アマリリス嬢の献身に心を打たれて婚約者候補にと打診したんだ」
ルシアンがベストタイミングで援護射撃を打ってくれる。王族の調査で間違いないと言われれば、認めざるを得ないし事実で違いない。アマリリスだって、なにひとつ嘘はついていない。
「……それが事実なの?」
ポツリと聞こえた声は、バックマン公爵夫人のものだ。
頬が隆起して口角が下がり、眉を寄せている。読み取れる感情は強い後悔。ずっとかわいがってきた息子の婚約者を信じきれなかった自分に対する怒り。アマリリスの状況を理解してやれなかった悔しさ。
高潔なバックマン公爵夫人だからこそ、ここで罪悪感を煽れば完全に味方になるとアマリリスは読む。
「はい。バックマン公爵夫人を騙すようでずっと心苦しかったのですが……やっと本当のことを言えました。たとえどんなに蔑まれようと、お慕いしたダーレン様とロベリアには幸せになってもらいたかったのです。どうかあのふたりをお認めください」
「ああ、アマリリス……! 貴女はなんて健気なの……!」
アマリリスの完全勝利が確定した瞬間だった。
それでも嫌味を言ってくる貴族がすぐにいなくなるわけではない。
しかしアマリリスの悪女が演技であったことが広まれば、真実を見抜いた王太子としてルシアンの評判は上がるだろう。伯父の立ち回り次第ではクレバリー侯爵家の評判も下がるし、ダーレンとロベリアについては不貞の噂がついてまわる。
その後も嫌味を言ってくる貴族たちをあしらい、ルシアンに嫌みと切り返し方を実践で見せていく。素直すぎるが飲み込みの早いルシアンなら、今日のお茶会からもなにか学び取っているだろう。
(ふふ……これでいいわ)
アマリリスには才能があった。
もともと三兄弟の中でも桁違いに頭脳明晰で口が達者な上、抜群の行動力があり、目的のためには手段を選ばない冷酷さも持っている。そんな悪女としての才能があった。
誰をも魅了する美しい容姿もあいまって、儚げに微笑みを浮かべれば妖精だと、傲慢に振る舞えば稀代の悪女として名を馳せる。
最初からアマリリスへの態度が変わらないのはルシアンだけだったが、彼も非凡な才能の持ち主だ。貴族の事細かな情報をすべて把握し、瞬時に必要な計算ができる。国中の貴族令嬢を魅了する美貌で、いつも朗らかに微笑んでいた。
きっとルシアンが腹黒教育を終えれば、誰よりも国を豊かに導く王になることだろう。
(さっさと教育係のお役目を果たして、使用人たちの受け皿と兄様たちを探しましょう)
アマリリスはその決意を胸に、ルシアンと帰路に就いた。そして翌日からマンツーマンで教育をする計画を立てたのだった。
「それにしても、どうして稀代の悪女が婚約者候補になどなっているのかしら?」
「そうよね、ルシアン殿下のパートナーなど悪女にこなせるわけがないでしょう」
「クレバリー侯爵からはなにも聞いておらんぞ。どうやってルシアン殿下を誑かしたのだ?」
遠慮のない悪意がアマリリスに向けられる。ルシアンがアマリリスに騙されていると決めつけ、果敢に攻めてくる勇気は認めたいが、ルシアンの前でパートナーを貶めるのは悪手だ。今回は勉強も兼ねているので大歓迎ではあるが。
アマリリスは困ったように眉を八の字に下げて、優雅に儚く微笑みを浮かべる。
「実は、従妹であるロベリアとダーレン様は密かに心を通わせていたのですが、私の存在があったため結ばれることができなかったのです。そこで一計を案じ、悪女のふりをして身を引いたのです」
「そんなでたらめを……!」
「信じられないわ」
アマリリスの発言を信じがたい貴族たちに、わずかな動揺が広がる。実際に今日のアマリリスの立ち居振る舞いは完璧で、悪女の素振りは微塵も感じられないからだ。
「それは本当だよ。しっかりと調査した結果、間違いない事実だ。僕も婚約破棄したばかりだったけど、アマリリス嬢の献身に心を打たれて婚約者候補にと打診したんだ」
ルシアンがベストタイミングで援護射撃を打ってくれる。王族の調査で間違いないと言われれば、認めざるを得ないし事実で違いない。アマリリスだって、なにひとつ嘘はついていない。
「……それが事実なの?」
ポツリと聞こえた声は、バックマン公爵夫人のものだ。
頬が隆起して口角が下がり、眉を寄せている。読み取れる感情は強い後悔。ずっとかわいがってきた息子の婚約者を信じきれなかった自分に対する怒り。アマリリスの状況を理解してやれなかった悔しさ。
高潔なバックマン公爵夫人だからこそ、ここで罪悪感を煽れば完全に味方になるとアマリリスは読む。
「はい。バックマン公爵夫人を騙すようでずっと心苦しかったのですが……やっと本当のことを言えました。たとえどんなに蔑まれようと、お慕いしたダーレン様とロベリアには幸せになってもらいたかったのです。どうかあのふたりをお認めください」
「ああ、アマリリス……! 貴女はなんて健気なの……!」
アマリリスの完全勝利が確定した瞬間だった。
それでも嫌味を言ってくる貴族がすぐにいなくなるわけではない。
しかしアマリリスの悪女が演技であったことが広まれば、真実を見抜いた王太子としてルシアンの評判は上がるだろう。伯父の立ち回り次第ではクレバリー侯爵家の評判も下がるし、ダーレンとロベリアについては不貞の噂がついてまわる。
その後も嫌味を言ってくる貴族たちをあしらい、ルシアンに嫌みと切り返し方を実践で見せていく。素直すぎるが飲み込みの早いルシアンなら、今日のお茶会からもなにか学び取っているだろう。
(ふふ……これでいいわ)
アマリリスには才能があった。
もともと三兄弟の中でも桁違いに頭脳明晰で口が達者な上、抜群の行動力があり、目的のためには手段を選ばない冷酷さも持っている。そんな悪女としての才能があった。
誰をも魅了する美しい容姿もあいまって、儚げに微笑みを浮かべれば妖精だと、傲慢に振る舞えば稀代の悪女として名を馳せる。
最初からアマリリスへの態度が変わらないのはルシアンだけだったが、彼も非凡な才能の持ち主だ。貴族の事細かな情報をすべて把握し、瞬時に必要な計算ができる。国中の貴族令嬢を魅了する美貌で、いつも朗らかに微笑んでいた。
きっとルシアンが腹黒教育を終えれば、誰よりも国を豊かに導く王になることだろう。
(さっさと教育係のお役目を果たして、使用人たちの受け皿と兄様たちを探しましょう)
アマリリスはその決意を胸に、ルシアンと帰路に就いた。そして翌日からマンツーマンで教育をする計画を立てたのだった。
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