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7話 王城へ連行されました②
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王城に着くとアマリリスと腕を引いてきた騎士だけになり、「こちらです」と騎士が左斜め前を歩きはじめる。
この騎士は王太子殿下の専属だと打ち明け、手荒なことをして申し訳なかったと何度も謝罪された。そのまま黙ってついていくと、ダークブラウンの重厚な扉が開かれ、騎士は躊躇なく足を進めていく。
「それでは、こちらにおかけになってお待ちいただけますか?」
「はい……」
アマリリスがソファーにかけるとすぐに侍従がやってきて、お茶とお菓子を用意してくれた。足元にボストンバッグを置いてお菓子をつまんだら、あまりのおいしさに手が止まらなくなってしまう。
そんなタイミングでドアがノックされ、先ほどの騎士が戻ってきた。
「お待たせいたしました。国王陛下とルシアン殿下がお越しです」
騎士の言葉の後に続いて姿を現したのは、眉間に皺を寄せた国王と、嬉しそうな顔で微笑む王太子ルシアン殿下だった。
ルシアン殿下は母親譲りの美しく艶のある金髪に、王族の証であるロイヤルパープルの瞳を細めていた。そのあまりにも整った容姿は見るものを陶然とさせる。
耳の上で短く切られた髪は動きに合わせてサラサラと揺れていた。目尻が優しく下がり口元は弧を描いていて、とても機嫌がいいように見える。
一方、国王陛下はライトブラウンのクセのある髪を後ろへ流し、眉をひそめて難しい顔をしていた。
深く刻まれた眉間の皺は国王ゆえのものなのか、悪女であるアマリリスが原因なのか。口角が下がり明らかに不機嫌な様子だ。
ひとまず不敬のないよう、淑女として優雅に立ち上がりカーテシーをした。
「我がフレデルトの揺るぎなき太陽。我がフレデルトの若き獅子。このように謁見させていただき恐悦至極に存じます。アマリリス・クレバリーでございます」
「ああ、堅苦しい挨拶はよい。そこへかけてくれ」
「寛大なお言葉ありがとうございます。それでは失礼いたします」
国王陛下とルシアン殿下がソファーにかけたのを確認してから、私もゆっくりと腰を下ろす。侍従が新しく三人分のお茶とお菓子を用意すると、国王陛下が口を開いた。
「まずは先ほどのパーティーでの振る舞い、私もルシアンも目にしておった」
「それは大変お見苦しいものをお見せして、誠に申し訳ございませんでした」
やはりパーティーを騒がした罪で処罰が下されるのだと、アマリリスは落胆した。
(それにしても対応が速すぎるわ。国外追放以外だと、生涯修道院暮らしかしら? それとも危険な鉱山での採掘のお仕事かしら?)
そんなアマリリスをよそに国王は言葉を続ける。
「そこで其方に頼みがある。王太子ルシアンの教育係になってほしい」
「……私、稀代の悪女と呼ばれていますので、なにかの間違いでは?」
あまりにも突拍子のないことだったので、アマリリスは思わず素で返してしまった。
「いや、その悪女っぷりを見込んでの頼みだ。実はルシアンは優秀ではあるのだが、少々素直すぎるところがあるのだ。貴族同士の嫌味や言葉の裏を読み取るのが苦手でな」
「さようでございますか」
それは確かに王族としては弱点になってしまうだろう。臣下が腹の中でなにを考えているのか、まったくわからないのではいつ足元を掬われるかわかったものではない。
そこで今度はルシアンが口を開いた。
「そんな頼りない僕に嫌気が差したみたいで、婚約者に三年間も浮気されていたんだ。先月婚約破棄したばかりで、これからは騙されることなく貴族たちをまとめていきたい。だからアマリリス嬢のような腹黒さを学ぶ必要があると考えた」
「なるほど」
ということは、アマリリスの悪女っぷりが思わぬ方向で認められたということか。これは喜んでいいのか、悲しんでいいのか悩むところである。
「どうか僕の教育係になってもらえないだろうか?」
困ったように眉尻を下げるルシアン殿下は、うっかりイエスと言ってしまいそうなほど麗しく庇護欲をそそる。
「申し訳ございませんが、私ではお役に立てないかと存じます。なにせ悪女のふりをしていただけですので」
アマリリスはすんでのところでこらえて、はっきりとお断りした。
「それは知っているよ。本当に悪女だったらお願いできないからね。アマリリス嬢は前クレバリー侯爵夫妻の第三子で、その頭脳を生かし帳簿と屋敷を管理、伯父一家から虐げられ、今回の騒動を機に隣国へ向かう途中だったと調べがついている」
あっさりと裏事情を看破され、にっこりと微笑んだルシアン殿下に心が揺さぶられた。
いったい、いつの間にそこまで調べたのか、さすが王族だとアマリリスは感心する。しかし王太子の教育係など、それで頷くほど簡単な話ではない。
「これだけの調査力がおありでしたら、私など不要でございましょう?」
「いや、そんなことはないよ。貴族全員を細かく調査しているわけではないし、他国の使者や王侯貴族となれば容易に調査も進まないだろう。そんな時に相手の腹の中を読み取り的確に急所をつき、不要となれば容赦なく切り捨てるアマリリス嬢の判断能力が役に立つと思うんだ」
褒められてるのか貶されてるのかわからないが、ルシアンがニコニコしているので、アマリリスは好意的に受け止めることにした。
「アマリリス嬢。そういうわけで教育係を頼んだ。これは王命である」
どちらにしろ、国王の鶴のひと声でアマリリスの命運は決まったのだった。
この騎士は王太子殿下の専属だと打ち明け、手荒なことをして申し訳なかったと何度も謝罪された。そのまま黙ってついていくと、ダークブラウンの重厚な扉が開かれ、騎士は躊躇なく足を進めていく。
「それでは、こちらにおかけになってお待ちいただけますか?」
「はい……」
アマリリスがソファーにかけるとすぐに侍従がやってきて、お茶とお菓子を用意してくれた。足元にボストンバッグを置いてお菓子をつまんだら、あまりのおいしさに手が止まらなくなってしまう。
そんなタイミングでドアがノックされ、先ほどの騎士が戻ってきた。
「お待たせいたしました。国王陛下とルシアン殿下がお越しです」
騎士の言葉の後に続いて姿を現したのは、眉間に皺を寄せた国王と、嬉しそうな顔で微笑む王太子ルシアン殿下だった。
ルシアン殿下は母親譲りの美しく艶のある金髪に、王族の証であるロイヤルパープルの瞳を細めていた。そのあまりにも整った容姿は見るものを陶然とさせる。
耳の上で短く切られた髪は動きに合わせてサラサラと揺れていた。目尻が優しく下がり口元は弧を描いていて、とても機嫌がいいように見える。
一方、国王陛下はライトブラウンのクセのある髪を後ろへ流し、眉をひそめて難しい顔をしていた。
深く刻まれた眉間の皺は国王ゆえのものなのか、悪女であるアマリリスが原因なのか。口角が下がり明らかに不機嫌な様子だ。
ひとまず不敬のないよう、淑女として優雅に立ち上がりカーテシーをした。
「我がフレデルトの揺るぎなき太陽。我がフレデルトの若き獅子。このように謁見させていただき恐悦至極に存じます。アマリリス・クレバリーでございます」
「ああ、堅苦しい挨拶はよい。そこへかけてくれ」
「寛大なお言葉ありがとうございます。それでは失礼いたします」
国王陛下とルシアン殿下がソファーにかけたのを確認してから、私もゆっくりと腰を下ろす。侍従が新しく三人分のお茶とお菓子を用意すると、国王陛下が口を開いた。
「まずは先ほどのパーティーでの振る舞い、私もルシアンも目にしておった」
「それは大変お見苦しいものをお見せして、誠に申し訳ございませんでした」
やはりパーティーを騒がした罪で処罰が下されるのだと、アマリリスは落胆した。
(それにしても対応が速すぎるわ。国外追放以外だと、生涯修道院暮らしかしら? それとも危険な鉱山での採掘のお仕事かしら?)
そんなアマリリスをよそに国王は言葉を続ける。
「そこで其方に頼みがある。王太子ルシアンの教育係になってほしい」
「……私、稀代の悪女と呼ばれていますので、なにかの間違いでは?」
あまりにも突拍子のないことだったので、アマリリスは思わず素で返してしまった。
「いや、その悪女っぷりを見込んでの頼みだ。実はルシアンは優秀ではあるのだが、少々素直すぎるところがあるのだ。貴族同士の嫌味や言葉の裏を読み取るのが苦手でな」
「さようでございますか」
それは確かに王族としては弱点になってしまうだろう。臣下が腹の中でなにを考えているのか、まったくわからないのではいつ足元を掬われるかわかったものではない。
そこで今度はルシアンが口を開いた。
「そんな頼りない僕に嫌気が差したみたいで、婚約者に三年間も浮気されていたんだ。先月婚約破棄したばかりで、これからは騙されることなく貴族たちをまとめていきたい。だからアマリリス嬢のような腹黒さを学ぶ必要があると考えた」
「なるほど」
ということは、アマリリスの悪女っぷりが思わぬ方向で認められたということか。これは喜んでいいのか、悲しんでいいのか悩むところである。
「どうか僕の教育係になってもらえないだろうか?」
困ったように眉尻を下げるルシアン殿下は、うっかりイエスと言ってしまいそうなほど麗しく庇護欲をそそる。
「申し訳ございませんが、私ではお役に立てないかと存じます。なにせ悪女のふりをしていただけですので」
アマリリスはすんでのところでこらえて、はっきりとお断りした。
「それは知っているよ。本当に悪女だったらお願いできないからね。アマリリス嬢は前クレバリー侯爵夫妻の第三子で、その頭脳を生かし帳簿と屋敷を管理、伯父一家から虐げられ、今回の騒動を機に隣国へ向かう途中だったと調べがついている」
あっさりと裏事情を看破され、にっこりと微笑んだルシアン殿下に心が揺さぶられた。
いったい、いつの間にそこまで調べたのか、さすが王族だとアマリリスは感心する。しかし王太子の教育係など、それで頷くほど簡単な話ではない。
「これだけの調査力がおありでしたら、私など不要でございましょう?」
「いや、そんなことはないよ。貴族全員を細かく調査しているわけではないし、他国の使者や王侯貴族となれば容易に調査も進まないだろう。そんな時に相手の腹の中を読み取り的確に急所をつき、不要となれば容赦なく切り捨てるアマリリス嬢の判断能力が役に立つと思うんだ」
褒められてるのか貶されてるのかわからないが、ルシアンがニコニコしているので、アマリリスは好意的に受け止めることにした。
「アマリリス嬢。そういうわけで教育係を頼んだ。これは王命である」
どちらにしろ、国王の鶴のひと声でアマリリスの命運は決まったのだった。
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