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3話 婚約破棄されたので便乗しました①
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この日は王族が主催するパーティーが開かれるため、アマリリスたちは会場である王城の大ホールへやってきた。
魔法灯の灯りを受けて、キラキラと輝くクリスタルのシャンデリアの光がホールに降り注ぎ、参加者たちの華やかな装いを引き立たせている。
ダンスフロアではいろとりどりのドレスが花咲くように開いて、花びらが舞うようにひらりと揺れた。
管楽器が奏でるワルツを聴きながら、貴族たちは談笑や人脈を作るために腹の探り合いをしている。
そこへ突如、叫び声が上がった。
「アマリリス! お前のような悪女とは今日で最後だ! この場で婚約破棄して私はロベリアと婚約する!!」
今までのざわめきはぴたりとやんで、ワルツの音楽だけが我関せずと流れていた。
声を上げたのはバックマン公爵家嫡男ダーレンで、アマリリスの婚約者だ。その腕には従妹のロベリアが寄り添っている。
ロベリアはダーレンの腕にしがみつき青い瞳を潤ませ、アマリリスに怯えた様子で震えていた。シャンデリアの光を受けてキラキラと輝く金髪が、より儚げに見せている。
このパーティーに参加する前にはアマリリスにドレスの着付けを手伝えだの、果実水が飲みたいからすぐ持ってこいだのと命令していたのは微塵も感じさせない。
アマリリスはダーレンが発した言葉を吟味した。
ダーレンとはアマリリスが十歳の時に婚約を結んだが、伯父一家がやってきてからまともに会うこともできなかった。公爵夫人には三カ月に一度お茶会に呼ばれて会っていたが、ダーレンとは年に一度会うかどうかだ。
なんの感慨も感情も起きないので、この場はどうするのがベストなのかと計算する。
(ここで婚約破棄……そろそろかと思っていたけれど予想より早かったわね。仕方ない、もうアレを実行するのがよさそうだわ)
ほんの数秒で今後の方針を決めたアマリリスは、にっこりと微笑み優雅にカーテシーをした。
「承知しました。それでは失礼いたします」
「なっ! お前! それだけか!?」
くるりと踵を返してさっさと退出しようとしたアマリリスを、ダーレンが慌てて引き止める。心底不思議そうな顔でアマリリスが振り返った。
「他になにかございますか?」
「お前の悪行をここでつまびらかにして、処罰を受けるのだ!!」
そう言ってダーレンは次々と悪行を並べていく。
アマリリスは聞くのも面倒だったがなんとかこらえ、頭の中ではこれから自分がすべきことを考えていた。
(まずは手早く荷物をまとめて図書室の鍵を返さないと。書き置きを残して、それからケヴィンたちにひと言伝えて——ああ、それにしても、まだ話が続くのかしら)
ダーレンがアマリリスの悪行だと挙げ連ねているのは、すべてロベリアがやってきたことだ。
アマリリスのドレスを裂いたり、形見の装飾品を奪ったり、身の回りの世話をさせたり、使用人をいじめたのも、全部ロベリアがやっていた。
ダーレンが送ってきたドレスだって、アマリリスがお下がりとしてあげたのではなくすべてロベリアに横取りされたのだ。むしろアマリリスが公爵夫人のお茶会で着るドレスがロベリアのお古だった。
さらにダーレンをロベリアの婚約者にしたかった伯父夫妻は、愚痴と称してアマリリスの悪い噂を流していった。
見目のいいロベリアが社交デビューしてからは、一緒にパーティーに参加して近づいてくる男を排除しろと命令されたので、彼女の眼鏡に適わない貴族男性たちを追い払っていた。
ロベリアは見目のいい高位貴族しか相手にしない。そして私からいつも虐げられ、好意を寄せてくれた貴族たちも姉に奪われると、ありもしない事実を告げて高位貴族の男性を落としていた。
今では妹の社交を邪魔するくせに男を次々に乗り換え、素行が悪く侯爵夫妻にも手に追えないなど、事実無根の噂が広まりすっかり悪女認定されている。
まさしくアマリリスの花ような真っ赤な髪に、射貫くような琥珀色の瞳が噂に拍車をかけていた。
だけどいくら悪女だと言われても気にならない。気にしたところで理不尽な現実は変わらないのだ。
そんなことで泣くようなか弱い心は、とうの昔に掃いて捨てた。
それに、伯父夫妻の狙い通りダーレンがロベリアと婚約を結ぶと言っているのだ。
あの泥舟から逃げ出すなら今しかないと、アマリリスは理解している。もたもたしていたら、エミリオに手籠にされてしまうだろう。
(でも公爵夫人には気に入られていたから、完膚なきまでにそこを崩しておかないと面倒なことになりかねないわ。それなら、ちょうど注目を集めているし、ここで便乗して一発やらかしておくのがベストかしら)
いまだに喚き散らしているダーレンの言葉を遮って、周りにもよく聞こえるように大きめの声で名を呼んだ。
「ダーレン様」
魔法灯の灯りを受けて、キラキラと輝くクリスタルのシャンデリアの光がホールに降り注ぎ、参加者たちの華やかな装いを引き立たせている。
ダンスフロアではいろとりどりのドレスが花咲くように開いて、花びらが舞うようにひらりと揺れた。
管楽器が奏でるワルツを聴きながら、貴族たちは談笑や人脈を作るために腹の探り合いをしている。
そこへ突如、叫び声が上がった。
「アマリリス! お前のような悪女とは今日で最後だ! この場で婚約破棄して私はロベリアと婚約する!!」
今までのざわめきはぴたりとやんで、ワルツの音楽だけが我関せずと流れていた。
声を上げたのはバックマン公爵家嫡男ダーレンで、アマリリスの婚約者だ。その腕には従妹のロベリアが寄り添っている。
ロベリアはダーレンの腕にしがみつき青い瞳を潤ませ、アマリリスに怯えた様子で震えていた。シャンデリアの光を受けてキラキラと輝く金髪が、より儚げに見せている。
このパーティーに参加する前にはアマリリスにドレスの着付けを手伝えだの、果実水が飲みたいからすぐ持ってこいだのと命令していたのは微塵も感じさせない。
アマリリスはダーレンが発した言葉を吟味した。
ダーレンとはアマリリスが十歳の時に婚約を結んだが、伯父一家がやってきてからまともに会うこともできなかった。公爵夫人には三カ月に一度お茶会に呼ばれて会っていたが、ダーレンとは年に一度会うかどうかだ。
なんの感慨も感情も起きないので、この場はどうするのがベストなのかと計算する。
(ここで婚約破棄……そろそろかと思っていたけれど予想より早かったわね。仕方ない、もうアレを実行するのがよさそうだわ)
ほんの数秒で今後の方針を決めたアマリリスは、にっこりと微笑み優雅にカーテシーをした。
「承知しました。それでは失礼いたします」
「なっ! お前! それだけか!?」
くるりと踵を返してさっさと退出しようとしたアマリリスを、ダーレンが慌てて引き止める。心底不思議そうな顔でアマリリスが振り返った。
「他になにかございますか?」
「お前の悪行をここでつまびらかにして、処罰を受けるのだ!!」
そう言ってダーレンは次々と悪行を並べていく。
アマリリスは聞くのも面倒だったがなんとかこらえ、頭の中ではこれから自分がすべきことを考えていた。
(まずは手早く荷物をまとめて図書室の鍵を返さないと。書き置きを残して、それからケヴィンたちにひと言伝えて——ああ、それにしても、まだ話が続くのかしら)
ダーレンがアマリリスの悪行だと挙げ連ねているのは、すべてロベリアがやってきたことだ。
アマリリスのドレスを裂いたり、形見の装飾品を奪ったり、身の回りの世話をさせたり、使用人をいじめたのも、全部ロベリアがやっていた。
ダーレンが送ってきたドレスだって、アマリリスがお下がりとしてあげたのではなくすべてロベリアに横取りされたのだ。むしろアマリリスが公爵夫人のお茶会で着るドレスがロベリアのお古だった。
さらにダーレンをロベリアの婚約者にしたかった伯父夫妻は、愚痴と称してアマリリスの悪い噂を流していった。
見目のいいロベリアが社交デビューしてからは、一緒にパーティーに参加して近づいてくる男を排除しろと命令されたので、彼女の眼鏡に適わない貴族男性たちを追い払っていた。
ロベリアは見目のいい高位貴族しか相手にしない。そして私からいつも虐げられ、好意を寄せてくれた貴族たちも姉に奪われると、ありもしない事実を告げて高位貴族の男性を落としていた。
今では妹の社交を邪魔するくせに男を次々に乗り換え、素行が悪く侯爵夫妻にも手に追えないなど、事実無根の噂が広まりすっかり悪女認定されている。
まさしくアマリリスの花ような真っ赤な髪に、射貫くような琥珀色の瞳が噂に拍車をかけていた。
だけどいくら悪女だと言われても気にならない。気にしたところで理不尽な現実は変わらないのだ。
そんなことで泣くようなか弱い心は、とうの昔に掃いて捨てた。
それに、伯父夫妻の狙い通りダーレンがロベリアと婚約を結ぶと言っているのだ。
あの泥舟から逃げ出すなら今しかないと、アマリリスは理解している。もたもたしていたら、エミリオに手籠にされてしまうだろう。
(でも公爵夫人には気に入られていたから、完膚なきまでにそこを崩しておかないと面倒なことになりかねないわ。それなら、ちょうど注目を集めているし、ここで便乗して一発やらかしておくのがベストかしら)
いまだに喚き散らしているダーレンの言葉を遮って、周りにもよく聞こえるように大きめの声で名を呼んだ。
「ダーレン様」
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