56 / 62
56話 収穫祭でデートですわ!!④
しおりを挟む
「ライル様。この子は迷子のようですので騎士にお願いしたいのですが、よろしいですか?」
「ああ、もちろんだ。僕がこの子を連れていく。さあ、おいで。肩車をしてあげよう」
若干硬い表情でライル様が男の子をヒョイっと肩に乗せてしまった。
「うわっ! オレ、お姉ちゃんがいいのに!」
「ダメだ。あのお姉ちゃんは僕の婚約者だから、いくら子供でもこれ以上は許せない」
「えー! お姉ちゃんがいいよー!」
男の子がまた泣きそうになったので、なんとか気を逸らせないかと考えた。
「ねえ、貴方は魔道士って聞いたらどう思う?」
「え? 魔道士? うーん、かっこいいとおもう!」
「それなら、秘密を教えてあげるわ。このお兄さんは実は魔道士でとっっっっても強いのよ」
「そうなの!? すごい!」
「だからお兄さんのお話も聞いてくれるかしら?」
「わかった!」
力一杯ライル様の素晴らしさを簡潔に伝えたところ、ちゃんと理解してくれたようだ。なんとか話を聞いてくれるところまで持っていけた、よかった。
「ライル様、勝手に話してしまって申し訳ありません」
「いいんだ、お陰でこの子も落ち着いた。さすが僕のリアだ。では騎士に引き渡してくる。すぐそこに騎士がいるから、ここで待っていてくれるか?」
「わかりましたわ、それではお願いします」
男の子に手を振って、ライル様を待ってほんの数分後に見知らぬ方に声をかけられた。
「おい、お前。面白い格好をしているな。この祭りでは私のパートナーにしてやるから、ありがたく思え」
一瞬、なにを言っているのかよくわからなくて、首を傾げてしまう。声をかけてきたのは三人組の男性たちで、仮装はしておらず話し方からして貴族のようだった。
仮装のことを知らないし、この国の貴族ではないようなので、他国からの旅行者だろうか?
三人とも頬を赤らめて、ごくりと唾を飲み込んでいる。
「どなたか存じませんけれど、今は婚約者を待っておりますのでお断りいたしますわ」
貴族であれば、名乗りもしない無礼者。平民であっても、初対面でお前と呼ぶような方とは仲良くしたいとは思わない。冷めた目を向けてはっきりキッパリ明言した。
「なにっ!? 貴様なんて無礼なんだ! 私は帝国のウィンター伯爵だぞ!!」
「申し訳ありませんけれど、名乗りもされてませんし、レディに対する声かけではありませんでしたので仕方ないと思いますわ」
「ますます生意気な! 平民の分際で、このような口答えをするなど、この国の民の程度が知れるわ!」
「あら、申し遅れました。わたくしマルグレン伯爵が長女、ハーミリアと申します」
膝丈の黒いワンピースの裾を持ち、優雅に淑女のカーテシーをすると、ウィンター伯爵はポカンとしていた。
「伯爵家娘がなぜこのような格好をしているのだ? まあ、いい。それなら私のパートナーに相応しいな」
「ですからわたくしは婚約者を待っておりますので、お断りしましたわ」
帝国の男性はどうしてこうも人の話を聞かないのだろう。
「いいから、この国の貴族として私をもてなせ! それが貴族子女の役目だろう!」
「—— 僕の婚約者になにをしている」
「っ!?」
後ろから抱きしめるように、ライル様の腕がわたくしを包み込んだ。慣れ親しんだ温もりに安堵する。
「貴様、どこから現れた!?」
「転移魔法を使っただけだ。それより、僕の婚約者に話しかけるな」
絶対零度の怒りをまきちらすライル様も、今の衣装にすこぶるハマっていて素敵とうっとりしてしまう。
「て、転移魔法だと? そんな、あれはマジックエンペラーしか使えない世界最難魔法だぞ!?」
「リア、結界を張る。ここから動かないで」
ライル様がわたくしに手をかざすと、周りに侵入不可避の結界が施された。
そして次の瞬間には、ウィンター伯爵の背後に転移魔法で移動してその首元にあるタイだけを凍らせる。
ウィンター伯爵は「ひっ!」と短く悲鳴を上げてガタガタ震えはじめた。
「これで理解できたか? 誰の婚約者に無礼な真似を働いたのか」
「も、申し訳ございませんでしたーっ!!」
そう言ってウィンター伯爵たちは大広場から走り去っていった。ライル様に視線を戻すと、思いっ切り眉間にシワを寄せている。
「やっぱりダメだ、リアが可憐すぎてうじ虫が寄ってくる。リア、場所を変えてデートしないか?」
ライル様に褒められてソワソワしてしまうけれど、一緒にいられるならどこでもかまわないので頷いた。
そっと抱きしめられて転移した先は、キャンピングスクールで訪れた海岸だった。
「ああ、もちろんだ。僕がこの子を連れていく。さあ、おいで。肩車をしてあげよう」
若干硬い表情でライル様が男の子をヒョイっと肩に乗せてしまった。
「うわっ! オレ、お姉ちゃんがいいのに!」
「ダメだ。あのお姉ちゃんは僕の婚約者だから、いくら子供でもこれ以上は許せない」
「えー! お姉ちゃんがいいよー!」
男の子がまた泣きそうになったので、なんとか気を逸らせないかと考えた。
「ねえ、貴方は魔道士って聞いたらどう思う?」
「え? 魔道士? うーん、かっこいいとおもう!」
「それなら、秘密を教えてあげるわ。このお兄さんは実は魔道士でとっっっっても強いのよ」
「そうなの!? すごい!」
「だからお兄さんのお話も聞いてくれるかしら?」
「わかった!」
力一杯ライル様の素晴らしさを簡潔に伝えたところ、ちゃんと理解してくれたようだ。なんとか話を聞いてくれるところまで持っていけた、よかった。
「ライル様、勝手に話してしまって申し訳ありません」
「いいんだ、お陰でこの子も落ち着いた。さすが僕のリアだ。では騎士に引き渡してくる。すぐそこに騎士がいるから、ここで待っていてくれるか?」
「わかりましたわ、それではお願いします」
男の子に手を振って、ライル様を待ってほんの数分後に見知らぬ方に声をかけられた。
「おい、お前。面白い格好をしているな。この祭りでは私のパートナーにしてやるから、ありがたく思え」
一瞬、なにを言っているのかよくわからなくて、首を傾げてしまう。声をかけてきたのは三人組の男性たちで、仮装はしておらず話し方からして貴族のようだった。
仮装のことを知らないし、この国の貴族ではないようなので、他国からの旅行者だろうか?
三人とも頬を赤らめて、ごくりと唾を飲み込んでいる。
「どなたか存じませんけれど、今は婚約者を待っておりますのでお断りいたしますわ」
貴族であれば、名乗りもしない無礼者。平民であっても、初対面でお前と呼ぶような方とは仲良くしたいとは思わない。冷めた目を向けてはっきりキッパリ明言した。
「なにっ!? 貴様なんて無礼なんだ! 私は帝国のウィンター伯爵だぞ!!」
「申し訳ありませんけれど、名乗りもされてませんし、レディに対する声かけではありませんでしたので仕方ないと思いますわ」
「ますます生意気な! 平民の分際で、このような口答えをするなど、この国の民の程度が知れるわ!」
「あら、申し遅れました。わたくしマルグレン伯爵が長女、ハーミリアと申します」
膝丈の黒いワンピースの裾を持ち、優雅に淑女のカーテシーをすると、ウィンター伯爵はポカンとしていた。
「伯爵家娘がなぜこのような格好をしているのだ? まあ、いい。それなら私のパートナーに相応しいな」
「ですからわたくしは婚約者を待っておりますので、お断りしましたわ」
帝国の男性はどうしてこうも人の話を聞かないのだろう。
「いいから、この国の貴族として私をもてなせ! それが貴族子女の役目だろう!」
「—— 僕の婚約者になにをしている」
「っ!?」
後ろから抱きしめるように、ライル様の腕がわたくしを包み込んだ。慣れ親しんだ温もりに安堵する。
「貴様、どこから現れた!?」
「転移魔法を使っただけだ。それより、僕の婚約者に話しかけるな」
絶対零度の怒りをまきちらすライル様も、今の衣装にすこぶるハマっていて素敵とうっとりしてしまう。
「て、転移魔法だと? そんな、あれはマジックエンペラーしか使えない世界最難魔法だぞ!?」
「リア、結界を張る。ここから動かないで」
ライル様がわたくしに手をかざすと、周りに侵入不可避の結界が施された。
そして次の瞬間には、ウィンター伯爵の背後に転移魔法で移動してその首元にあるタイだけを凍らせる。
ウィンター伯爵は「ひっ!」と短く悲鳴を上げてガタガタ震えはじめた。
「これで理解できたか? 誰の婚約者に無礼な真似を働いたのか」
「も、申し訳ございませんでしたーっ!!」
そう言ってウィンター伯爵たちは大広場から走り去っていった。ライル様に視線を戻すと、思いっ切り眉間にシワを寄せている。
「やっぱりダメだ、リアが可憐すぎてうじ虫が寄ってくる。リア、場所を変えてデートしないか?」
ライル様に褒められてソワソワしてしまうけれど、一緒にいられるならどこでもかまわないので頷いた。
そっと抱きしめられて転移した先は、キャンピングスクールで訪れた海岸だった。
2
お気に入りに追加
2,748
あなたにおすすめの小説
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?
112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。
目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。
助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる