上 下
49 / 62

49話 ライオネル様が容赦ありませんわ!!②

しおりを挟む

「マリアン、お前にはふたつの選択肢がある。最北の地にある修道院で命尽きるまで神に仕えるか、海の向こうにあるシュラバン王国の第十五妃として嫁ぐか。好きな方を選べ」

 最北の地にある修道院は主に罪を犯した女性が送られる場所で、この国で最も過酷な環境の中にある。半数は逃げ出すが、山を越える際に魔物に食われるか、飢えや寒さで命を落とすか、そんな場所だ。

 もうひとつのシュラバン王国は一夫多妻制で、今の国王には十四人の妃がいる。でも相次いで妃が亡くなるため入れ替わりが激しく、王妃だけでも二度は代わっていた。一度嫁げば二度と帰ってくることはない、黒い噂の絶えない嫁ぎ先だ。
 どちらにしても生き地獄のような環境だ。

「……シュラバンに、嫁ぎます……」

 それでもマリアン様が選んだのは、王族としての暮らしだった。消え入りそうな声だったけど、しっかりとそう答えた。

「わかった。ではマリアンはシュラバンに嫁ぐまでの間、西の塔にて謹慎を命じる。……連れていけ」

 ほんの一瞬、王太子殿下の瞳が悲しげに揺れたように見えた。
 でもこれで終わった。クリストファー殿下も、さすがにおとなしくしている。

 わたくしの前に濃紫のローブを羽織ったライル様がやってきて、そっとその腕に包み込まれた。

「これですべて片付いた。やっとリアとの時間を過ごせる」
「ライル様……! わたくしの実家の領地まで守ってくださりありがとうございます!」
「リアの大切な人たちがいるのだから当然だ。これからも僕が守るよ」

 わたくしは込み上げる気持ちをそのまま言葉に変えた。なにも飾らずにただ、わたくしの心の声を伝える。

「ライル様……愛してますわ」
「っ!!」

 ライル様は言葉に詰まって、みるみる頬を染め耳まで赤くしていた。
 こんなライル様は初めて見る。
 
 そういえば、こんなにストレートにわたくしの気持ちを言葉にするのは、ライル様が泣いて縋ってきた日以来かもしれない。
 好意は前面に押し出していたので、うっかりしていた。

「リア……すまない、ちょっと嬉しすぎて……」
「ふふ、こんなライル様もかわいらしくて素敵ですわ」
「僕はリアには格好いいとか、強いとか言われたい」
「もちろんライル様はカッコよくて、魔法の腕も世界屈指でお強いですわ」

 ますます顔を赤くするライル様にさらに愛しさが込み上げて、もっとわたくしの言葉で心を乱してほしくなる。

「リア、もう……これ以上は……」
「ダメです。わたくしのこのあふれる気持ちをお伝えしないと気が済みませんわ」
「いや、でも」
「わたくし、ライル様が隣にいなくてずっと寂しかったのです。これからは決してそばから離れないで?」
「も、もちろんだ!」
「ふふ、わたくしのすべてを捧げてライル様を愛しますわ」
「す、すべて……!?」

 ライル様はピシリと固まってしまった。なにかおかしなことを言っただろうか?
 わたくしを抱きしめるライル様の腕に力がこもる。

「僕もリアを愛してる。世界で一番、誰よりもリアだけを愛してる」
「ライル様……」

 鋭いアイスブルーの瞳は、激情の炎を灯してわたくしを射貫くように見つめている。
 いつもの甘くとろけるような瞳とは違う、獲物を狙うような視線に目が逸らせない。

 わたくしの火照った頬にライル様の手のひらが添えられる。少しだけひんやりして心地いい。

「リア、僕の女神」

 掠れるような熱のこもった声に、そっと瞳を閉じる。
 そして、ライル様の柔らかな唇が、わたくしの唇に優しく触れた。


しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

処理中です...