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46話 ライオネル様がブチ切れてますわ!!①

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「リア! 会いたかった、リア……!」
「ラ……ライ……ル様っ!!」

 ライル様に会えた感動で、涙が止まらない。言いたいことはたくさんあるのに、言葉が出てこない。

 ただただ、ライル様の腕の中に抱きしめられて、安堵と愛しさと恋しさとさまざまな感情があふれ出してきた。

「待たせてごめん。時間がかかってしまったから、リアに大変な思いをさせてしまった」
「大丈夫ですわ…ライル様はもちろん、ライル様を信じると決めたわたくし自身も、間違ってないと信じてましたもの」
「ふふ、リアらしい。でもそろそろ泣き止んでほしいな。こんな儚く壊れそうな姿を、これ以上他の人に見せたくない」

 そう言うと、額にライル様の柔らかな唇が降ってきた。

 今。今、なにをされましたの!? 今の感触はライル様の、く、く、く、く、唇ではございませんの——!?
 ええ、止まりましたとも!! わたくしの涙など、ビタッと止まりましたわっ!!

 涙が止まり落ち着いて周りを見れば、わたくしとライオネル様の周りには結界が貼られているようで、近衛騎士たちは透明の壁に阻まれて手が出せなようだった。

「ライル様、この濃紫のローブは気のせいでなければ、マジックエンペラーのものではございませんか?」
「ああ、そうなんだ。僕とリアの邪魔をする者がいるからマジックエンペラーになれば、誰もなにも言わなくなると思って認定試験を受けてきた」

 わたくしの言葉にライル様は、なんでもないことのように答えた。

「お待ちくださいませ。マジックエンペラーはそんなに簡単に取れる資格ではございませんわ。それをわたくしのために……?」
「当然だろう? 僕はリア以外を妻にするつもりは微塵もないのだから」

 あああああっ !! わたくしのライオネル様が尊すぎて、悶絶どころではないですわー!!
 ここにベッドがあったら、間違いなくダイブしてのたうち回ってますわ——!!

「ライオネル様、その女から離れてくださいませ!」

 そんなわたくしの幸せタイムをぶち壊したのは、マリアン様だ。一気に現実に引き戻される。そういえば、わたくしは平民になった挙句、騎士に捕らえられるところでしたわ。

「……お前、誰に向かって口を利いている?」

 聞いたことがないくらい、ライオネル様の声が冷たい。ここまで温度を感じないのは初めてだ。

「誰って……ライオネル様? 私と婚約するのに、他の女を抱きしめるなんてひどいわ!」
「僕はお前と婚約するなど、ひと言も言っていない」
「え? だって準備するっておっしゃったでしょう!」
「ああ、リアを守るための準備をするということだ。勘違いも甚だしい」
「んなっ、なんですってぇぇ!?」

 わたくしを腕に抱いたまま、ライル様がマリアン様にブチ切れている。こんなライル様を前にして、マリアン様は平気なのかしら!?

「いい加減、不敬が過ぎるな」
「——っ!?!?」

 ライル様が右手を壇上にかざすと、マリアン様は口を押さえて必死になにかを訴え始めた。

「耳障りだから口の中を凍らせただけだ。息はできるから死にはしない。これ以上騒ぐなら頭ごと凍らせる」

 その言葉にマリアン様が真っ青な顔で膝から崩れ落ちた。
 国王陛下も事態をうまく呑み込めていないのか、なにも言えずに呆然としている。

 わたくしもここまで怒り狂っているライル様を見たことがなくて、どうしたらいいのかわからない。

「ま、待て! そのローブがマジックエンペラーのものだという証明はあるのか!? 似たようなローブなどいくらでもあ——」

 国王陛下の言葉で夜会会場がみるみる氷に包まれていった。ライル様を中心に、天井まで氷が覆って、シャンデリアからは氷柱が伸びている。
 それは国王陛下の足元まで及び、膝の下まで凍りつかせた。



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