上 下
44 / 62

44話 僕のハーミリアを守るために②

しおりを挟む

 一分でも早くリアのもとに帰るため、最短でマジックエンペラーを目指したいので余計なことをしている暇はないのだ。

「ええ、条件などはありますか?」
「あ……いえ、ここまで自力で来られた方なら大丈夫ですが、マジックエンペラーの試験は特殊で事前にこちらの書類に署名をいただくことになっています」

 受け取った書類には、試験中になにが起きても自己責任で、万が一死んだとしても魔法連盟は責任を負わないと書かれていた。そんなことなら問題ないと、サラサラと署名する。

「では、これでお願いします。今すぐ試験を受けさせてほしい」
「は、はい……少々お待ちください」

 受付の女性が案内してくれたのは、王城の地下にある試験専用の部屋だ。少し待っていると、転移魔法でひとりの魔道士が現れた。濃紫のローブを羽織り、不機嫌そうに口元を曲げている。フードの下からは真紅の瞳が覗いている。

「マジックエンペラーの試験を受けたいのはお前か?」
「はい、ライオネル・タックスと申します」
「ったく、オレの安眠の邪魔しやがって。タイミング選べよ!」
「それは申し訳ありません。ですが僕も急いでますので」
「ああ? んなこと知るか! とにかく、これから特殊な結界の中に送ってやるから、そこから自力で出てこい! 転移魔法使わないと出てこれないからな! いいな!?」
「はい、お願いします」

 試験を受けさせてくれるなら問題ないと同意した次の瞬間、真っ白な光に包まれ思わず目をつぶる。
 光が収まったようなので恐る恐る目を開けると、鬱蒼と木が生い茂る森の中にいた。

「ここは魔境の森だ。魔物がわんさか湧いて、超強力な結界の中だから物理的な方法で外に出られない。ここから出る方法はひとつ転移魔法を使うことだ」
「なるほど、では転移魔法を使えれば合格ということですね」
「あ、ああ……わかってると思うけど、転移魔法は全属性を鍛え上げて尚且つ鍛錬しないと使えない。使えなければいつか魔物の餌になる。死ぬかもしれない危険な試験だ」

 さっきまで機嫌の悪そうだった試験官は、慌てた様子で注意事項を説明してくれた。意外と心配性な人なのかもしれない。

「問題ありません、では早速鍛錬を始めます」
「おい、お前……ライオネルと言ったか。なんでいきなりこんな危ねえ試験受けた?」
「……この世の誰よりも愛しい人を守るためです」
「はっ、女のためか! そんな奴は初めてだ、面白え。ライオネル、必ず生きて戻ってこいよ」
「もちろんです。彼女のそばにいたいですから」

 そうして試験官が転移魔法で姿を消した後、名前を聞き忘れたと思った。

「まあ、戻れば合格だと言っていたし、なんとかなるか」

 それから僕はひたすら襲いかかる魔物を倒して、食料は自給自足で魔物を倒しては火魔法で炙って食し、木の実や果実を採取して餓えを凌いだ。
 こうして不得手な火属性を徹底的に鍛え上げてまずは上級の炎属性の魔法を使えるようにした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた私が幸せになるまで

風見ゆうみ
恋愛
私、レティアは5歳の時に拉致され、私と似た公爵家の令嬢の身代わりをさせられる事になった。 身代わりの理由は公爵令嬢の婚約者が魔道士の息子だったから。 魔道士を嫌う公爵家は私を身代わりにし、大魔道士の息子、レイブンと会わせた。 私と彼は年を重ねるにつれ、婚約者だからではなく、お互いに恋心を持つ様になっていき、順調にいけば、私は彼と結婚して自由になれるはずだった。 そんなある日、本物の令嬢、レティシア様がレイブンを見たいと言い出した。 そして、入れ替わるはずだったはずの夜会に本人が出席する事になり、その夜会で、レティシア様はレイブンを好きになってしまう。 レイブンと結婚したいというレティシア様と、それを拒む公爵夫妻。 このままではレイブンと結婚できないと、私が邪魔になったレティシア様は、公爵夫妻に内緒で、私を治安の悪い貧民街に捨てた。 ※身代わりのレティアが自由を勝ち取り、レイブンと幸せになるまでのお話です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※話が合わない場合は、コメントは残さずに閉じてくださいませ。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

【完結】地味・ボンヤリの伯爵令嬢、俺様系王子様と一緒に魔女討伐に抜擢される

buchi
恋愛
親同士が決めた婚約者を勝ち気で派手な妹にとられた呑気でぼんやりのローザ。姉妹なら、どっちでもいいよねと言い出す親。王立フェアラム学園に入学し婚活に励むべきところを、ダラダラしてるだけのローザが突然、「膨大な魔法力の持ち主です! 魔女退治をお願いしたい、王太子殿下とご一緒に!」周りに押されて、無理矢理、魔女退治に出かける羽目に。俺様系王子のラブを生暖かく見守る有能側近、ゴーイングマイウェイの王弟殿下、妄想系脇役魔女が出ます。約10万字。63話。定番のハッピーエンド。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

公爵令嬢は皇太子の婚約者の地位から逃げ出して、酒場の娘からやり直すことにしました

もぐすけ
恋愛
公爵家の令嬢ルイーゼ・アードレーは皇太子の婚約者だったが、「逃がし屋」を名乗る組織に拉致され、王宮から連れ去られてしまう。「逃がし屋」から皇太子の女癖の悪さを聞かされたルイーゼは、皇太子に愛想を尽かし、そのまま逃亡生活を始める。 「逃がし屋」は単にルイーゼを逃すだけではなく、社会復帰も支援するフルサービスぶり。ルイーゼはまずは酒場の娘から始めた。

【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです

早奈恵
恋愛
 ざまぁも有ります。  クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。  理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。  詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。  二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。 国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。 「もう無理、もう耐えられない!!」 イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。 「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。 そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。 猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。 表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。 溺愛してくる魔法使いのリュオン。 彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる―― ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...