上 下
41 / 62

41話 わたくしは信じますわ!!①

しおりを挟む

 とうとうマリアン様から招待状を受け取った夜会の日になってしまった。

 クリストファー殿下がドレスを送るだの装飾品を送るだの騒いでいたのを、なんとかスルーしてわたくしは今日もアイスブルーのドレスとアクアマリンの宝石を身にまとっている。

 これだけは絶対に譲れませんわ! わたくしはライル様の婚約者ですもの!

「……少しは赤とか金とか俺の色も入れたらどうだ?」
「なぜですか? わたくしはライル様の婚約者ですもの。本日はあくまで世話役としてのパートナーですわ」
「はあ、まあ、いいさ。帰る頃には気持ちも変わっているだろうから」
「どういうことですの?」

 わたくしの問いに答えることなく、クリストファー殿下は夜会会場へと足を踏み入れた。

 学院に入る前にデビュタントを果たし、何度か夜会に参加したことはある。いつも固い表情のライル様にエスコートされて、それでもキラキラと着飾ったライル様が素敵で夢のような時間だった。

 今日は王家の守護者と呼ばれる五家貴族、それに伯爵以上の高位貴族も軒並み出席しているようだ。当然わたくしのお父様とお母様の姿もある。

 タックス侯爵夫妻にも挨拶をしたかったけれど、クリストファー殿下にエスコートされていたので叶わなかった。

 重大発表とはいったいなんなのかしら? クリストファー殿下も参加されているのだから、なにか交易に関すること?

 そうだとしても規模が大きすぎるような気がするわ。まるで王族の婚約発表でもされるみたいだわ。
 わたくしのデビュタントの時は第二王女様の婚約発表があったけれど、それと同じ……まさか。

 自分の考えに嫌な汗が背中を伝う。

 婚約発表できる王族は学院に通っている王太子殿下かマリアン様だ。ジュリアス様ならもっと他国からも貴賓を呼ぶだろう。それならマリアン様の婚約発表? でも、いったい誰と?

 そこで国王陛下と王妃様、王太子殿下とマリアン様が入場された。わたくしはクリストファー殿下のエスコートによって、最前列で国王陛下の夜会開始の言葉を聞くことになった。

「本日は急な夜会開催にも関わらず応じてくれて感謝する。ここで開始の挨拶とともに、ふたつのめでたい発表がある!」

 重大発表に貴族たちは耳を傾けていて、会場内には国王陛下の声だけが響き渡っていた。

「まずひとつ目は、タックス侯爵家嫡男ライオネルと第三王女マリアンの婚約発表である!」

 ざわりと会場内にどよめきは起きる。ライル様と婚約を結んだのはもう十年も前のことだから、社交界には十分浸透していた。それが国王陛下の言葉で覆ったのだ。
 ここで学院に流れていたライル様との噂を思い出す。

『マリアン様とライオネル様のご婚約が、もう決まるそうよ』
『先日はタックス侯爵様が、国王陛下に謁見されたとお父様が言っていたわ!』
『マリアン様とライオネル様の婚約は、もうお済みだと聞いたけれど』

 まさか、あれが事実だったの? でもジークは相変わらずだったし、お父様からも婚約が解消されたなんて話はなかったわ。

 わたくしはふうっと静かに息を吐いて、心を落ち着かせる。

 噂に惑わされてはダメ。ライル様にずっと会えていないから、不安になっているだけよ。

 なにが真実か、どこにライル様の心があるのか、わたくしならわかる。例えマリアン様にお気持ちを向けられていたとしても、それならそうとわかるはず。

 ライル様は誰を見つめていた?
 ライル様が心を砕いていたのは誰に対して?
 会えなくなってから、心変わりの気配はあった?

 ライル様は、わたくしを愛してる?

 シャラリとブレスレットが手首で揺れる。

 あんなに不器用な方がわずか七歳で、国宝レベルの守護の魔法を込めたプレゼントをくれた。その時、どれほどの努力をしてくれたのだろう?

 きっと何度も失敗して、何度も挑戦して、やっと身に付けたに違いない。その想いを信じないで、なにを信じるというのか。

「続いて、ライオネル令息の婚約者であったマルグレン伯爵の令嬢ハーミリアは、なんと帝国の第二皇子であるクリストファー殿下と婚約されることになった!」

 さらなる重大発表に会場の貴族たちはざわめきたった。王族が上がる壇上に視線を向ければ、マリアン様がニヤリと醜く笑っていた。

 隣のクリストファー殿下を睨みつければ、同じように口元を歪ませて傲慢な笑みを浮かべている。

「これでお前は俺のものだ。マリアン王女はいい仕事をしてくれたよ」

 なるほど、これが目的だったのね……! しかもこのふたりが裏で手を組んでいたなんて!

 それならわたくしにも考えがあるわ。綱渡りの賭けになるけど、このまま黙って受け入れるつもりなんてない。例え不敬罪に問われても、こんな理不尽に屈したくない!!

「国王陛下、僭越ながら意見を述べてもよろしいでしょうか?」
「ハーミリアか。うむ、せっかくの祝いの席だ。申してみよ」

 わたくしは、凛と美しく見えるように背筋を伸ばした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君を愛することはできない」と仰いましたが、正確にその意味を説明してください、公爵様

メカ喜楽直人
恋愛
王命により、美しく年の離れたイボンヌを後妻として迎えることになってしまったライトフット公爵テオフィルスは、婚約自体は受け入れておきながら婚姻を迎える今日この日まで決して顔を合せようとも、交流を持とうともしなかった。 そうしてついに婚姻式を終えたその日の夜、これから初夜を迎えるべき寝室で、悩んだ末に出した答えを新妻へと告げる。 「君を愛することはできない」 泣かれるかもしれないと思ったが、妻はなぜか言葉の意味を教えて欲しいと冷静に問い掛けてきた。 初夜で新妻を切って捨てようとする発言をした夫に、なぜかグイグイと迫ってくるその妻の、初恋物語。 ※『「君を愛することはできない」美貌の公爵は後妻に迎えた新妻へ冷たい事実を突きつける ~では、その意味を教えてくださいますか、公爵様~』の連載版です。一部、短編版と重複する内容がありますが、表現を変えるなど加筆修正が行われております。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】聖女の私は利用されていた ~妹のために悪役令嬢を演じていたが、利用されていたので家を出て幸せになる~

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
十七歳の誕生日を迎えた男爵令嬢のリーゼは、社交界では有名な悪役令嬢で、聖女と呼ばれる不思議な力を持っていた。 リーゼは社交界に出席すると、いつも暴言を吐き、粗暴な振る舞いを取る。そのせいで、貴族達からは敬遠されていた。 しかし、リーゼの振る舞いは全て演技であった。その目的は、か弱い妹を守るためだった。周りの意識を自分に向けることで、妹を守ろうとしていた。 そんなリーゼには婚約者がいたが、リーゼの振る舞いに嫌気がさしてしまい、婚約破棄をつきつけられてしまう。 表向きでは強がり、婚約破棄を了承したが、ショックを隠せないリーゼの元に、隣国の侯爵家の当主、アルベールが声をかけてきた。 社交界で唯一リーゼに優しくしてくれて、いつも半ば愛の告白のような言葉でリーゼを褒めるアルベールは、リーゼに誕生日プレゼントを渡し、その日もリーゼを褒め続ける。 終始褒めてくるアルベールにタジタジになりつつも、リーゼは父に婚約破棄の件を謝罪しようと思い、父の私室に向かうと、そこで衝撃の事実を聞いてしまう。 なんと、妹の性格は大人しいとは真逆のあくどい性格で、父や婚約者と結託して、リーゼを利用していたのだ。 まんまと利用され、自分は愛されていないことを知ったリーゼは、深い悲しみに暮れながら自室に戻り、長年仕えてくれている侍女に泣きながら説明をすると、とあることを提案された。 それは、こんな家なんて出て行こうというものだった。 出て行くと言っても、リーゼを助けてくれる人なんていない。そう考えていた時、アルベールのことを思い出したリーゼは、侍女と共にアルベールの元へ訪ねる。 そこで言われた言葉とは……自分と婚約をし、ここに住めばいいという提案だった。 これは悪役令嬢を演じていたリーゼが、アルベールと共に自分の特別な力を使って問題を解決しながら、幸せになっていく物語。 ☆全34話、約十万文字の作品です。完結まで既に執筆、予約投稿済みです☆ ☆小説家になろう様にも投稿しております☆ ☆女性ホットランキングで一位、24hポイントで四位をいただきました!応援してくれた皆様、ありがとうございます!☆

無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

「この結婚はなかったことにしてほしい、お互いのためだ」と言われましたが……ごめんなさい!私は代役です

m
恋愛
男爵家の双子の姉妹のフィオーリとクリスティナは、髪色以外はよく似ている。 姉のフィオーリ宛にとある伯爵家から結婚の申し込みが。 結婚式の1ヶ月前に伯爵家へと住まいを移すように提案されると、フィオーリはクリスティナへ式までの代役を依頼する。 「クリスティナ、大丈夫。絶対にバレないから! 結婚式に入れ替われば問題ないから。お願い」 いえいえいえ、問題しかないと思いますよ。 ゆるい設定世界観です

溺愛なんてお断りです!~弱気な令嬢が婚約を断ったら王子様が溺愛してくるようになった~

山夜みい
恋愛
「お前みたいなブサイクに女としての価値はない」 弱気なライラは婚約者に浮気されて婚約破棄を告げられる。 根暗女、図書館の虫、魔法オタク…… さまざまな言葉で罵倒されたライラは男性不信に陥っていた。 もう男なんて信じない。貴族なんて懲り懲りだ。 そう思っていたのに、王子の婚約を断ってから人生が一変する。 「僕の目には君しか映らない。婚約してくれないか?」 「お断りします!?」 王子は何故か子爵領まで来てライラに求婚を始めたのだ。 しかも、ライラの傍に居たいがために隣に住み着く始末。 リュカ・ウル・ルドヴィナ。 冷酷王子、氷焔の微笑、人でなし、数々の悪名を持つはずなのに、ライラにだけはぐいぐい来て噂とかけ離れた姿を見せる。 「どうしてそんなに私が好きなんですか?」 「君が僕を見てくれたから」 ありのままの好きだと告げるリュカにライラは徐々に心を許し始める。 そうすると、だんだん彼女の真価も現れ始めて…… 「こんな魔法陣を見たのは初めてだ」 「君が何者であろうと、僕が守ってみせる」 ライラの真価に気付いたリュカは彼女を守ろうと動き出す。 古代魔法を狙う邪教集団、ライラを取り戻そうとする婚約者。 弱気な令嬢を取り巻くロマンス劇が、今始まろうとしていた。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...