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36話 帝国の皇子がグイグイ攻めてきますわ!②
しおりを挟むそれから一週間が経ち、わたくしはクリストファー殿下の世話係として過ごしていた。今はランチの時間で、目の前には琥珀色の瞳を嬉しそうに細める皇子がいた。
シルビア様ともお話しする時間が取れなくて、当然、周りのご令嬢たちからは「今度は帝国の皇子様を……!?」とヒソヒソされている。
ライル様とマリアン様の婚約は目前だとかなり具体的な噂が流れ、わたくしは帝国の皇子から離れることを許されずどうしたものかと思案していた。
そこでクリストファー殿下がわたくしに興味をなくせばいいのだと思いつく。
そうよ! わたくしと一緒にいるのが苦痛だと思わせればいいのだわ!
「なんだ、ハーミリア。考え事か?」
「ええ、どうやったらクリストファー殿下が一日も早く学びを終えて帝国に戻ってくださるのか、考えておりましたの」
早速、作戦開始だ。
自分に興味を示さなければ、さすがに嫌気が差すだろう。不敬だと言われないようにギリギリを攻めなければ。
「へえ、そんなことを考えていたのか。俺はハーミリアを口説き落とすまでは帝国に戻らないから、無駄だな」
「無駄ではないと思いますわ。きっとわたくしの本性を知ったら、興醒めされますわよ?」
「それでは、誰も知らないハーミリアの本性とやらを見せてもらおうか」
「不敬に問われないのであれば」
「いいだろう、好きにやってみろ」
やったわ! 不敬罪に問われないなら、もう少し突っ込んだ発言もいけそうですわ!
「それでは遠慮なく。クリストファー殿下、さっさと帝国へお戻りくださいませ」
「ははっ、これはまたストレートに言うな」
クリストファー殿下は食事が済んで、空になった食器が載ったトレーをテーブルの端にずらす。食後のお茶だけ手前に置いてわたくしを真っ直ぐに見つめてきた。
「ですが、二学年上のクリストファー殿下がわたくしと同じ授業を受ける必要はないかと思います。それなら母国へ戻り国のために尽くすのがよろしいのでは?」
「ふむ、妻を探すのも大事な役目だと思うが」
「それであればなおさら、わたくしにかまっている暇などございませんでしょう? 幸い我が国の第三王女マリアン様も婚約者がおりませんし、そちらにアプローチした方がよほどメリットがございますわ」
王女であれば、婚姻することで国同士の新たな交易の契約もできるし、単純に人質として価値もあるから無益な戦を避けられる。帝国から見れば、そこまでの利益がないにしても、わたくしよりも王女の方が何倍も価値が高い。
「俺が皇太子ならそうしただろうが、あいにく妾腹の第二皇子でな。婚姻相手は好きに選べと言われているから王女である必要はないし、野心の強い女に興味はない」
なるほど、あくまでもお兄様である皇太子様を支える立場を目指されるのね。マリアン様はそんなに野心の強いお方だったかしら? どちらかというと常に自分が一番でいたいような印象ですわね。
ああ、確かにそうなると将来的に夫も一番がいいと言い出しかねないわ。でも、野心というならわたくしだって。
「わたくしにも野心はございます」
「へえ、どんな野心だ?」
意外だと言うようにクリストファー殿下は驚いた表情をする。視線で続きを促されたので、胸を張って力いっぱい答えた。
「ライル様を世界一の領主にすることですわ!」
「……俺は、お前のような女に愛されたいと思うぞ」
ですから、どうして、そうなりますの?
どんなに頑張ってみても、自分の都合のいいように受け取るクリストファー皇子に脱力するばかりだった。
帰りの馬車で迎えにきたジークの顔を見て、やっと皇子から解放されると少しだけホッとした。
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