【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。

里海慧

文字の大きさ
上 下
35 / 62

35話 帝国の皇子がグイグイ攻めてきますわ!①

しおりを挟む

「ハーミリア、あの時の礼をしてくれるよな? 右も左も分からない俺にこの学院のことを教えてくれ」
「……かしこまりました」

 非常に面倒な事態になった。
 ただでさえライル様と会えず悶々としているというのに、神経を使う相手の世話係に指名されてしまったようだ。たかだか小国の伯爵令嬢でしかないわたくしは、帝国皇子の申し出を断る術がない。

「ああ、授業で使う教本もまだ用意できてないんだ。悪いが一緒に見せてもらえるか?」
「……どうぞ」

 いや、サラッとこの学院の制服を着ている帝国の皇子が、教本くらい用意できないわけないでしょう! しかも帝国のクリストファー皇子といえば、わたくしよりも二学年上ではなかったかしら!?

 という言葉はなんとか飲み込み皇子様の言葉に従う。ここで機嫌を損ねてもいいことなんてひとつもない。

 はああ、伯爵令嬢のわたくしには荷が重すぎるのだけど!?

 ギラギラと光る琥珀色の瞳にゲンナリしつつ、休み時間に学院内を案内することにした。



 少しずつ学院内を案内して、ランチタイムは時間があるからと校舎の端にある施設まで足を伸ばした。

「こちらが職員室で、こちらが生徒会室。その先にこの国の王族だけが使える貴賓室があります」
「学院内はこれくらいか? 外の施設も案内を頼めるか?」
「はい、承知しました。こちらです」

 わたくしは心を無にして、淡々と案内をしていく。途中でいつものようにわたくしの悪い噂を口にしているご令嬢たちに出会ったけど、今はそれどころではないので放っておこうと受け流していた。

 次に魔法練習場を案内しようと外に出たところで、中庭から戻ってきた女子生徒たちにも悪口を言われる。

「やっぱり、あの時の……! 私の直感は当たっていたのね!」
「ライオネル様が可哀想だわ、あんなアバズレの婚約者だったなんて」
「だから捨てられたのよ。今はマリアン様が婚約者なのでしょう?」

 あの時海辺でやり込めたご令嬢たちだった。しかもその直感は大外れである。
 わたくしとライオネル様は婚約解消なんてしていない。その噂はどこから流れてくるのか、日に日に勢いを増している。

 そろそろ噂を消したいけれど、出どころがいまいち掴めないのよね……。

 そこで口を開いたのは、クリストファー殿下だった。

「おい、君たちが話しているのはハーミリアのことか? アバズレだとか捨てられたというのは事実なのか?」
「えっ! いえ、それはこちらのお話ですので——」
「誤解のないように言っておくが、俺はハーミリアを口説くつもりでこの学院に来たんだ。俺の大切な人の陰口を叩くのなら黙っておけない」
「は?」

 思わず重低音でこぼしてしまった。あまりに低い声だったためか、誰の耳にも届いていないようで反応はない。ご令嬢たちは真っ青になって俯いている。

 なにを言い出すのかしら、この皇子は。
 わたくしを口説く? いったいなぜそのような事態になっているの?

「あの、クリストファー殿下。わたくしには婚約者がおりますので、そのような誤解を招く発言は控えていただけますか?」
「なぜだ? ハーミリアが困っていても助けてくれない婚約者より、俺の方が断然いいだろう? 今までの女たちも皆俺を選んできたぞ」
「そんな不誠実なことはできませんわ。それにわたくしはライル様一筋ですので」
「ははっ、この俺を振るのか? さすが俺が見初めた女だな。ますます手に入れたい」

 だから、なぜそうなるのか。

 そもそも今までの女たちと言うくらいだから、これまでも婚約者や恋人のいる女性に言い寄ってきたのだろうか? そんな傲慢で節操のない男は願い下げだ。
 わたくしは陰で必死に努力し続け一途に思ってくれる、ライル様のような真面目な男性が好みなのだ。

「いくらクリストファー殿下でも、他国の婚約者がいる令嬢にアプローチするのはいかがなものかと思いますわ」
「確かにな。では婚約解消するように俺から話をつけよう」
「おやめくださいませ。わたくしはたとえ婚約解消されても、ライル様しか愛しませんわ」
「それでもかまわない。俺のものなれば、相手の男などすぐに忘れるさ」

 これがライル様に言われたセリフなら、今すぐその胸に飛び込んで「今すぐライル様のものにしてくださいませ!」となるのだが、強引に自分の思い通りにしようとする皇子から言われてもまったく心に響かない。
 むしろ今すぐこの場から逃げ出したい。

「おい、次にハーミリアの陰口を叩くならこの俺が容赦しない。そのように話を広めておけ」
「はっ、はい! 申し訳ございませんでしたー!!」

 女生徒たちは脱兎の如く足速に去っていった。

「ハーミリア、これからも俺がお前を守ってやるから安心しろ」
「いえ、自分でなんとかしますのでお気遣いなく」

 ちょっと、どうしてこの皇子はグイグイ攻めてきますの!?
 わたくしにはライル様がいると言ってるのにっ!!



しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。 ――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの? 追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※序盤1話が短めです(1000字弱) ※複数視点多めです。 ※小説家になろうにも掲載しています。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界転生したらハムスターでした!~主食は向日葵の種です~

空色蜻蛉
恋愛
前世でぽっちゃり系だった私は、今世は丸々太ったハムスターに転生しました。ハムスターに転生しました。重要なので二度言いました。面倒くさいからもう説明しないわよ。 それよりも聞いて!異世界で凄いイケメン(死語)な王子様を見つけたんだけど。ストーキングもとい、ウォッチするしかないよね?! これはハムスターの私とイケメン王子様の愛の攻防戦、いわゆるラブコメという奴です。笑いあり涙ありの感動長編。さあ一緒に運命の回し車を回しましょう! 【お知らせ】2017/2/19 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

処理中です...