上 下
28 / 62

28話 ライオネル様がとんでもないことを提案されましたわ!!②

しおりを挟む

「わたくしはこんな性格ですし、ライオネル様に嫌われている婚約者の立場でしたので、仲良くしてくださる女生徒はおりませんでした。でもシルビア様は陰口は決して言わず、わたくしに正面から意見をぶつけてくださいました。そんなシルビア様の清廉潔白で真っ直ぐなところが、とても好ましいと思ったのです」

 わたくしがこんなことを言うと思っていなかったのか、シルビア様は驚き頬を染めた。なんともかわいらしいお方だ。

「そんな……私は……」
「わたくし、ずっとシルビア様とお友達になりたかったのです。今この時間だけでも結構ですので、友人として付き合ってくれませんか?」
「し、仕方ありませんわね! 私には期間限定の友人などおりませんのよ! 私の友人として恥ずかしくないように精進なさいませ!」
「ふふっ、ありがとうございます」

 つまりはずっと友人でいてくれると言いたいのだ。
 ライオネル様のおかげでシルビア様とも友人になれた。なんて幸せなんだろう。

「それでは、わたくしの特訓にお付き合いいただけますか?」
「わかったわ。それで、ライオネル様をどのようにお呼びするの?」
「そうですわね……やはりライ様でしょうか?」

 ずっと頭の中で想像していた愛称を口にする。たったこれだけでも胸がキュンキュンと切なくなり、頬は熱を持つ。
 ダメだわ、ライオネル様が好きすぎて愛称ひとつでこの体たらく……!

「ちょっと! それではご家族様と同じじゃないの!」
「ええ、ライオネル様のお父様やお母様がそうお呼びしていたので、真似してみたのですけれど」

 シルビア様が、両目をこれでもかと見開いて睨みつけてくる。何か失敗してしまったのだろうか?

「ありえないわー! いい? 貴女は婚約者なのよ! この世でただひとり、ライオネル様をどんな愛称で呼んでも許される存在なのよっ!?」
「はい、確かに」
「それなのに、そんな平凡な愛称で呼ぶなんてライオネル様を馬鹿にしているの!?」

 シルビア様の言葉に衝撃が走る。なんてことだろう、愛称で呼びさえすればいいと、わたくしは考えていたのだ。これではライオネル様の婚約者として、完璧に役目を果たしていると言えない。

「そういうことですのね! これはわたくしの怠慢ですわ!」
「そうよ! まずは特別な愛称を考えないと!」
「では、こう言うのはどうでしょう。ネル様とか」
「うーん、悪くないけど、ライオネル様っぽくないわ。やっぱり獅子のような凛々しさを愛称に入れたいわよね」
「そうですわね……」

 休憩時間の終わりを告げる鐘が風に乗って中庭まで届く頃には、なんとかライオネル様の愛称を決めて特訓までこなすことができた。結構な精神的ダメージが蓄積していたけど、これで、ライオネル様をわたくしだけの特別な愛称で呼べる。

 教室に戻ると既にライオネル様は席についていて、花が咲くような笑顔で出迎えてくれた。

「リア、ほんの少しの時間なのに、ずっと会ってなかったみたいだ」
「ふふっ、もう大丈夫です。これからは一緒にいられますわ」

 ライオネル様がソワソワとした様子でわたくしを見つめてくる。言いたいことはわかっている。シルビア様相手に何度も特訓したのだから、問題ない。

「ライル様、わたくしのライル様」
「リア! ああ、もう今日はなんて素晴らしい日なんだ……! リアが僕を愛称で、しかもリアだけの愛称で呼んでくれるなんて……!」
「ライル様、ほら授業が始まってしまいますわ」
「うん、わかってる。リア、僕の女神。これからもずっとそばにいて」
「はい、もちろんですわ」

 とてもご機嫌なライオネル様の笑顔のおかげで、午後の教室は春の陽だまりのような温かい空気が流れていた。
 生徒たちの空気は微妙だったし、マリアン王女はなぜかキリキリ怒っていたけれど、まあ、ライオネル様が幸せならそれでいいと思った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。 妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。 しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。 父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。 レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。 その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。 だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

「この結婚はなかったことにしてほしい、お互いのためだ」と言われましたが……ごめんなさい!私は代役です

m
恋愛
男爵家の双子の姉妹のフィオーリとクリスティナは、髪色以外はよく似ている。 姉のフィオーリ宛にとある伯爵家から結婚の申し込みが。 結婚式の1ヶ月前に伯爵家へと住まいを移すように提案されると、フィオーリはクリスティナへ式までの代役を依頼する。 「クリスティナ、大丈夫。絶対にバレないから! 結婚式に入れ替われば問題ないから。お願い」 いえいえいえ、問題しかないと思いますよ。 ゆるい設定世界観です

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

とある侯爵令息の婚約と結婚

ふじよし
恋愛
 ノーリッシュ侯爵の令息ダニエルはリグリー伯爵の令嬢アイリスと婚約していた。けれど彼は婚約から半年、アイリスの義妹カレンと婚約することに。社交界では格好の噂になっている。  今回のノーリッシュ侯爵とリグリー伯爵の縁を結ぶための結婚だった。政略としては婚約者が姉妹で入れ替わることに問題はないだろうけれど……

処理中です...