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28話 ライオネル様がとんでもないことを提案されましたわ!!②
しおりを挟む「わたくしはこんな性格ですし、ライオネル様に嫌われている婚約者の立場でしたので、仲良くしてくださる女生徒はおりませんでした。でもシルビア様は陰口は決して言わず、わたくしに正面から意見をぶつけてくださいました。そんなシルビア様の清廉潔白で真っ直ぐなところが、とても好ましいと思ったのです」
わたくしがこんなことを言うと思っていなかったのか、シルビア様は驚き頬を染めた。なんともかわいらしいお方だ。
「そんな……私は……」
「わたくし、ずっとシルビア様とお友達になりたかったのです。今この時間だけでも結構ですので、友人として付き合ってくれませんか?」
「し、仕方ありませんわね! 私には期間限定の友人などおりませんのよ! 私の友人として恥ずかしくないように精進なさいませ!」
「ふふっ、ありがとうございます」
つまりはずっと友人でいてくれると言いたいのだ。
ライオネル様のおかげでシルビア様とも友人になれた。なんて幸せなんだろう。
「それでは、わたくしの特訓にお付き合いいただけますか?」
「わかったわ。それで、ライオネル様をどのようにお呼びするの?」
「そうですわね……やはりライ様でしょうか?」
ずっと頭の中で想像していた愛称を口にする。たったこれだけでも胸がキュンキュンと切なくなり、頬は熱を持つ。
ダメだわ、ライオネル様が好きすぎて愛称ひとつでこの体たらく……!
「ちょっと! それではご家族様と同じじゃないの!」
「ええ、ライオネル様のお父様やお母様がそうお呼びしていたので、真似してみたのですけれど」
シルビア様が、両目をこれでもかと見開いて睨みつけてくる。何か失敗してしまったのだろうか?
「ありえないわー! いい? 貴女は婚約者なのよ! この世でただひとり、ライオネル様をどんな愛称で呼んでも許される存在なのよっ!?」
「はい、確かに」
「それなのに、そんな平凡な愛称で呼ぶなんてライオネル様を馬鹿にしているの!?」
シルビア様の言葉に衝撃が走る。なんてことだろう、愛称で呼びさえすればいいと、わたくしは考えていたのだ。これではライオネル様の婚約者として、完璧に役目を果たしていると言えない。
「そういうことですのね! これはわたくしの怠慢ですわ!」
「そうよ! まずは特別な愛称を考えないと!」
「では、こう言うのはどうでしょう。ネル様とか」
「うーん、悪くないけど、ライオネル様っぽくないわ。やっぱり獅子のような凛々しさを愛称に入れたいわよね」
「そうですわね……」
休憩時間の終わりを告げる鐘が風に乗って中庭まで届く頃には、なんとかライオネル様の愛称を決めて特訓までこなすことができた。結構な精神的ダメージが蓄積していたけど、これで、ライオネル様をわたくしだけの特別な愛称で呼べる。
教室に戻ると既にライオネル様は席についていて、花が咲くような笑顔で出迎えてくれた。
「リア、ほんの少しの時間なのに、ずっと会ってなかったみたいだ」
「ふふっ、もう大丈夫です。これからは一緒にいられますわ」
ライオネル様がソワソワとした様子でわたくしを見つめてくる。言いたいことはわかっている。シルビア様相手に何度も特訓したのだから、問題ない。
「ライル様、わたくしのライル様」
「リア! ああ、もう今日はなんて素晴らしい日なんだ……! リアが僕を愛称で、しかもリアだけの愛称で呼んでくれるなんて……!」
「ライル様、ほら授業が始まってしまいますわ」
「うん、わかってる。リア、僕の女神。これからもずっとそばにいて」
「はい、もちろんですわ」
とてもご機嫌なライオネル様の笑顔のおかげで、午後の教室は春の陽だまりのような温かい空気が流れていた。
生徒たちの空気は微妙だったし、マリアン王女はなぜかキリキリ怒っていたけれど、まあ、ライオネル様が幸せならそれでいいと思った。
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