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27話 ライオネル様がとんでもないことを提案されましたわ!!①
しおりを挟むその日もいつものようにライオネル様のエスコートで迎の馬車に乗り込み、最近では定番になった婚約者の膝の上に腰を下ろした。
「ハーミリア、今日も薔薇のように艶やかで華やかだ」
「ライオネル様も……いえ、少しお疲れのようですけど、ちゃんと眠れましたか?」
「ああ、昨夜はちょっと練習をしていて……いや、それよりも大事な提案があるんだ」
いつになく真剣なライオネル様に、わたくしはなにか大切なお話かと身構えた。
「その……僕たちもそろそろ愛称で呼び合わないか?」
「……! ついに、愛称呼び……っ!」
なんということでしょう! 夢にまで見た愛称呼びでございますの!?
あああ、こんなに優しいライオネル様だけでも天にも昇る気持ちなのに、愛称で呼ばれたら本当に天国へ行ってしまいそうだわ!!
「ラブラブバカップルを目指すのに欠かせない要素だと思うんだ。ぜひ協力してほ——」
「はい! 喜んで!!」
いけませんわ、思わず食い気味で返事をしてしまいましたわ。たとえ目的のためであっても、ライオネル様を愛称呼びできるのであれば、このチャンスを逃すわけにはいきませんわっ!
「では、僕は……リ、リアと呼ぼう」
「っ!!!!」
なんてこと! なんて破壊力なのっ! 照れながらわたくしの愛称を呼ぶライオネル様が、尊すぎるわ——っ!!!!
「リア。リアにも僕の愛称を呼んでほしい」
なんですの! 頬を染めながら、なんなら耳まで赤くしながら、控えめにかわいくお願いしてくるライオネル様が今生で目にできるなんて、想像もしてませんでしたわ!!
「ライ……ああ! どうしましょう! ちょっと心の準備をいたしますので、お時間をいただいてもよろしいですか!?」
「え……もしかして嫌だった? いや、それなら今まで通りで……」
それはもう悲しげに眉尻を下げるライオネル様も、麗しくて素敵と思いながら全力で否定する。
「違いますの! あまりにも夢に見ていたことですから、興奮しすぎてしまって身体がついてこないだけですの。心の準備ができれば問題ありませんわ!」
「嫌では……ない?」
「もちろんですわっ!!」
それはもう力強く肯定する。わたくしから攻めるのは得意だけど、ライオネル様からグイグイ攻められると心の準備ができてなくて狼狽えてしまう。せっかく素晴らしい提案をしてくださったのに、本当にもったいない。
「よかった、実は僕も昨夜練習したんだ」
ふにゃりと笑うライオネル様に胸を撃ち抜かれ、息も絶え絶えになりながら馬車から降りた。わたくしの寿命が日々縮まっているような気がする。
ダメよ、ライオネル様と一緒に過ごすのなら、なんとしても長生きしなければ。
「ライオネル様。わたくし心の準備をしますので、今日のランチは別々にしていただけませんか?」
「そうか……ランチの時間は残念だけど、仕方ないな。それなら魔法練習場にいるから、なにかあったら来てくれ」
「わかりましたわ! 必ずや、己の心身を整えてまいります!」
これは、なんとしてでもランチの時間でライオネル様を愛称で呼べるようにしなければ……!!
「それで、どうして私のところに来るのよ!?」
「わたくしにはシルビア様しか頼れる方がおりませんの。それに、このミッションをクリアしませんとライオネル様が悲しまれますわ」
「ライオネル様がっ!? そ、それなら仕方ないわね。私が付き合ってあげるわ」
「シルビア様! ありがとうございます! さすがわたくしの唯一の友人ですわ」
「いつ貴女の友人になったのよ!?」
心優しいシルビア様のおかげで、わたくしはランチタイムを特訓の時間にすることができた。
シルビア様は素直ではないけれど、裏表のない方なのでとても扱いやすいのだ。しかも人情に厚く根はとても真面目なシルビア様なら、きっとわたくしの特訓にも最後まで付き合ってくれるはずだ。
わたくしはシルビア様を中庭の一画に連れ出して、ランチを口に運びながら事情を説明する。
「ちょっと……まさかそんなことで私をわざわざ呼び出したの!?」
「わたくし、どうしてもライオネル様の喜ぶ顔が早く見たくて、シルビア様に頼るしかないと思いましたの」
「なんで私が、ライオネル様を愛称呼びする特訓に付き合わないといけないのよ!?」
怒りながらもランチを召し上がるシルビア様は器用だなと思いながら、正直な気持ちを打ち明けた。
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