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26話 僕だけが呼べる名②
しおりを挟む私室に戻りソファーに腰を下ろして、目次に目を通すと出会い編から結婚編までの五部構成になっていた。僕とハーミリアはすでに婚約者なので、出会い編は飛ばしてお付き合い初級編のページを開く。
【お付き合い初級編 その①恋人を褒めよう!】
「へえ、これはクリアされてるんじゃないですか?」
「そうだろうか? 僕の気持ちをなるべく言葉にしてるが足りているのだろうか……?」
「うーん、大丈夫じゃないですか? 何事もやりすぎはよくないですよ」
「そうか……では、次だな」
【お付き合い初級編 その②お互いに愛称で呼ぼう!】
「あ、愛称……!!」
「うわー、この本ライオネル様にはちょっと早かったかな」
「いや、そんなことはない! そうだ、学院でも婚約者同士で愛称で呼び合っている者たちもいるのだ。実はずっと羨まし……僕たちもそろそろ頃合いだと思う」
「じゃあ、次のステップはお互いに愛称呼びすることですね」
愛称……ずっと前から決めていた。僕しか口にできない特別な呼び方。
ついに解禁するのか……!!
「ちなみになんてお呼びするんですか?」
「ハーミリアだから……リアと……」
ハーミリアの名を聞いた時からずっと想像していた。てっきり家族になってから親しみを込めて呼ぶものだと我慢していたが、本当は今すぐにでも愛称で呼びたかった。
なんのてらいもなく互いを愛称で呼び合うカップルが羨ましくて仕方なかった。
「いいですね、ハーミリア様にぴったりの愛称です」
「ああ、そうだろう! 可憐で優雅で美しさを表現できる最高の愛称だっ!」
「で、練習しますか?」
「練習?」
ジークの言葉になんのことかと考える。
「ハーミリア様を前にして、いきなり本番で呼べますか?」
「うっ……そ、それは……」
僕のことをよく知るジークの言葉は、グサリと胸に突き刺さる。確かにハーミリアを前にして、愛称で呼べるかと言われたら自信がない。
「ライオネル様、ここはスマートになるまで練習しておいた方がいいですよ。仕方ないから練習に付き合ってあげます」
「ジーク……! 本当に不器用な僕ですまない……!」
仕方ないと言いつつも、その瞳に優しい光が浮かんでいる。ジークはいつもこうやってさりげなく僕を助けてくれるのだ。
「いいですよ、これはこれで面白いですから」
「うん? 面白い?」
「ほら、さっさと練習しましょう。さあ、私をハーミリア様だと思って愛称で呼んでみてください」
「わ、わかった!」
僕は深呼吸して、ずっと胸に秘めていたその愛らしい名を呼ぶ。
「……リ……ア」
「それじゃあ、ハーミリア様が呼ばれたことに気が付きませんよ。もう一度」
「……リ、ァ」
「ライオネル様。照れるのはわかりますが、もう少し頑張ってください」
ジークが容赦なく指摘してくる。だけど言われていることはもっともなので、僕が頑張るしかない。もう顔も耳も、首まで赤くなっているのが鏡を見なくてもわかる。
恥ずかしさのあまり変な汗までかいて、ひとりで火照っている。
「うっ……わかっている。だけど、愛称で呼ぶのがこんなにも羞恥心を刺激するとは思ってもみなかった」
「そうですね、でもライオネル様だけがハーミリア様を愛称で呼べるのです。きっと愛称でハーミリア様をお呼びしたら、周りの男子生徒たちもおふたりの関係が進展していると思うでしょうね」
その言葉に目が覚める思いだった。
あれだけ毎日牽制しても、ハーミリアに対して邪な感情を抱く男子生徒が後を絶たない。それを愛称で呼び合うことで牽制できるなら、使わない手はないのだ。
そしてなによりも僕だけがハーミリアの愛称を呼べるのだという事実に、優越感が湧き上がる。
「僕だけが……! 牽制にもなる……!」
「そうです。だから頑張ってください」
「そうだな、よし! リ、ア。リア。リア! リアーッ!」
「あはは、いい感じですねー!」
僕はしっかりと練習をして翌日に挑むことにした。
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