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25話 僕だけが呼べる名①
しおりを挟む今日もハーミリアがかわいかった。
僕の膝の上で一生懸命ランチを頬張る姿が愛しくて、本当に移動の時間すら惜しい。
そうか、移動の時間を短縮すればいいのか?
確か図書室に転移魔法の文献があったはずだ。原理さえわかれば、使えるようになるまで練習すればいい。これで往復の二十分を短縮できる。
あと二十分もハーミリアを堪能できる時間が増えるのか……急を要するな。
「ライオネル様、そんな真面目な顔して、さてはハーミリア様のこと考えてますね?」
「う、なぜわかった」
「いや、昔からそんなに真剣になるのはハーミリア様に対してだけじゃないですか。今度はなにを考えていたんです?」
ジークは机に向かって考え事をしている僕の頭の中を、ズバリと言い当てる。言い返したい気持ちもあるけれど、確かにここまで真剣になれるのはハーミリアに関することだけだ。
「転移魔法を使えるようにしたいと考えていたんだ」
「は!? 転移魔法って、魔法連盟の方でもわずかしか使えない最難高度魔法じゃないですか!?」
「そうなんだが、時間が惜しい。ランチタイムの時間を無駄にしたくない」
「……ランチタイム?」
「とにかく、一日でも早く身につけるために図書室で調べてくる」
「はあ、まあ、頑張ってくださいね。後でお茶持っていきますから」
僕はジークの言葉を背中で受け止めて図書室へ向かった。
侯爵家の図書室には王城の図書室に匹敵するほどの、数万に及ぶさまざまなジャンルの本がある。一般的なものから、秘蔵書と呼ばれるものまで多種多様だ。それは父上が努力しかできない僕のために、集めてくれたものだ。
さすがにすべてに目を通していないが、なにか困難があると図書室にこもって打開策や解決方法を探していた。
ハーミリアもよく図書室に来て一緒に調べ物を手伝ってくれたと思い出し、笑みがこぼれる。
図書室に差し込む日の光を浴びてキラキラと輝く白金色の髪、ふと見上げた時に吸い込まれそうになるアメジストの瞳。真っ直ぐに僕を見つめて、嬉しそうに微笑んでくれるハーミリア。
彼女のためになら、どんなこともできる。彼女こそが僕の生命だ。
図書室へ入り明かりをつけると、ずらりと並んだ蔵書が視界に飛び込んでくる。ジャンルごとにまとめてあるので、僕は魔法関連の棚へと足を進めた。
目当ての本を見つけ、他にも関連のあるものも数冊手に取って図書室の奥に設置されている机に静かに置く。一番上に積まれている本をパラパラとめくっていった。
本には転移魔法は火、水、風、土の四大属性の他に、光属性と闇属性を極めないと使用できないと書かれている。すべての属性をバランスよく操り空間を歪めて移動する魔法だと説明されていた。
「なるほど……そうすると僕の場合は火と光の鍛錬が必要だな」
四大属性の魔法を極めると上級魔法に変化する。火は炎になり、水は氷になり、風は雷になり、土は結界に進化するのだ。炎と雷を極めれば光属性が使えるようになり、氷と結界を極めれば闇属性が使えるようになる。
水属性はもともと得意だったのと、ハーミリアを守りたかったから土属性を極めるのは割と早かった。僕の結界魔法を込めたブレスレットを送るのに必死だったんだ。
「ライオネル様、少し休憩されませんか?」
方向性が決まったところで、ジークがお茶の用意をしてきてくれた。言いたいことをはっきり口にするし、言葉が悪い時もあるけれど優秀なのだ。
「ああ、ちょうどひと休みしようと思っていたんだ」
「読み終えた本は片付けてきますよ」
「ありがとう、助かる。それではこちらに積んであるものを頼めるか」
ジークが淹れてくれたお茶に口をつけて、明日からのスケジュールを頭の中で組み直していく。ハーミリアを送り終わってからが勝負だ。
僕の場合は習得するまでに時間がかかるから、いかに短時間で効率よく魔法の訓練をするか考えてから始めた方が結果的に早く身につく。
「ライオネル様、こんな本を見つけましたよ」
ジークの声に視線を向けると、その手には【恋人の心を繋ぎ止める99の方法】と書かれた本があった。
「恋人の……心を繋ぎ止める……だと!?」
そのタイトルに軽く衝撃を受ける。このような本が屋敷の図書室にあるとは盲点だった。今まで学院で学ぶような書物しか読んでいなかったので、気が付かなかった。
「魔法の本もいいですけど、こういうのもライオネル様には必要じゃないですか?」
「……これは部屋に戻って読む。今日の調べ物はここまでだ」
「承知しました。では私が持っていきますね」
後ろからついてくるジークが笑いを堪えている気配がしたけど、僕はなにも言えずに足速に部屋へと戻ってきた。
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