上 下
18 / 62

18話 ライオネル様が溺愛モード全開ですわ!!②

しおりを挟む

「亜w瀬drftgyふじこ!!!!!!」

 声の方へ振り返るとわたくしが目をつけていたドリカさんが、ギラギラとした瞳で睨みつけていた。
 髪は振り乱れやつれた様子なのに、瞳だけは爛々としている。

「貴様、なぜここにいる?」

 絶対零度の声音にビクリと身体が震えた。ライオネル様がこんなにも、敵意を剥き出しにするのは初めてだ。
 わたくしを背中に隠して、ドリカさんと対峙する。

「モロン男爵には沙汰が決まるまで屋敷から出すなと言ったはずだが……貴様がハーミリアに呪いをかけた犯人だと調べもついている。その腫れ上がった顔は呪い返しを受けたからだろう?」
「っ!! あw瀬drftgyふじkぉp;ー!!!!」
「はっ、なにが真実の愛はここにあるだ。ふざけるな! 僕が心から愛しているのはハーミリアだけだ!!」

 なんですって!! どうしてドリカさんの言っていることが理解できるのか気になるけど、それよりも、わたくしを、あ、あ、あ、愛してるですって——!!!!
 ああ、神様、わたくしもう死んでもいいです。なんなら天国へでもどこへでも自力で行けそうですわ……!!

「亜w瀬drふぁせdrふぁせdr——」

 その時、なにか言いかけたドリカさんの口から、前歯が丸ごとぽろんと落ちた。
 それはもう見事にぽろんと綺麗に並んだ状態で、地面に転がった。

 それを見たドリカさんはショックで錯乱したのか、もう声にならない奇声を上げながら突進してきた。手元にはキラリと光るショートダガーが握られている。

「僕のハーミリアに近づくなっ!!」

 ライオネル様は一瞬でドリカさんを氷漬けにした。
 青みがかった透明の美しい氷の柱に閉ざされ、ドリカさんはやっと動きを止めた。

 パンパンに腫れ上がった顔がとても痛ましい。こんなになるまで痛んだのなら、それは地獄のようだろうと想像できた。
 駆けつけた学院専属の護衛騎士たちに、ライオネル様が氷の柱ごと引き渡して事態は収束する。

「ハーミリア、大丈夫か? 怖い思いをさせてすまなかった」
「いえ、大丈夫ですわ。ドリカ様が本当に犯人ですの?」
「ああ、僕が無理やり婚約をさせられていると勘違いした挙句、ハーミリアの命を狙って呪いをかけたんだ。まったく、事実は逆だというのに、なぜあのように思い込めるのかわからない」

 なにかサラッと重大な事実をこぼされたようですけど、わたくしが聞き返す前にライオネル様が言葉を続ける。

「牢獄に入れようとしたのに、モロン男爵が屋敷で監視すると言うので任せたのが間違いだった。まあ、でもこれで一族ごと追い込めるか。それにしても、どうやって屋敷から抜け出してきたのか……まともに動けない様子だったのだが」

 ライオネル様に感じた黒いものが、とめどなくあふれ出している。それも素敵なのだけど、もうひとつ気になることがあるのだ。

「でもよくドリカさんのお話ししていることがわかりましたわね?」
「ああ、読唇術ができるんだ。顔が腫れていて少々わかりにくかったが」

 そんなことまで努力で身につけられたというの!?
 さすがライオネル様ですわ!

「それでは、ハーミリア。行こうか」
「はい!」

 何事もなかったかのように、ライオネル様は足を進める。
 これほど沈着冷静で心を動かさないライオネル様が、わたくしにだけ見せてくれるとろける笑顔は最高のご褒美のようだった。



 そして、その日の帰りの馬車でライオネル様がとんでもないことを言い出した。

「ハーミリア、学園一のラブラブバカップルになろう」
「はい……?」

 ライオネル様の斜め上すぎる発言に、さすがのわたくしも目が点になった。

「いや、今回のことを踏まえて考えたんだ。僕がハーミリアを心から愛していると周知すれば、少なくともこんな勘違いをされないだろう」
「それは、そうかもしれませんけれど。それがどうしてラブラブバカップルなのですか?」
「うん、僕の目的はみんなが呆れるほど、ハーミリアに惚れ込んでいると理解してもらい何者も僕達の間に入ってこられないようにしたいんだ」

 まるで決戦前夜のような真剣な表情のライオネル様を、しっかりと心に焼き付けてから返事をする。

「もうわたくしたちの間に入ることなどできませんわ」
「そんなことはない! 僕がエスコートしているのに恥ずかしがるハーミリアに秋波を送る男子生徒のなんて多かったことか!!」

 グッと握った拳はぶるぶると震えている。ライオネル様は大袈裟だ。

「わたくしにそんな視線を向けてくる男子生徒なんておりませんわ」
「……今日だけでも五人に牽制したんだ、間違いない」
「むしろ、ライオネル様の方が女性との視線を釘付けにしていましたわ」
「僕はハーミリアにしか興味がないから問題ない」

 いえ、それはそれで嬉しいのですけれど。
 ライオネル様からもれ出す甘い空気に引き寄せられる女生徒が多すぎるし、ラブラブバカップルというのがどういうものかちょっと気になりますわ。

「わかりましたわ。ここはラブラブバカップルを目指すしかないようですわね」
「ああ、ハーミリア、明日からさらに遠慮なく愛を注ぐよ」

 え?
 今日のでもまだ遠慮されてましたの?

 なんて思っても、ライオネル様の激情を秘めたアイスブルーの瞳から視線を逸らせなかった。


しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

侯爵令嬢は限界です

まる
恋愛
「グラツィア・レピエトラ侯爵令嬢この場をもって婚約を破棄する!!」 何言ってんだこの馬鹿。 いけない。心の中とはいえ、常に淑女たるに相応しく物事を考え… 「貴女の様な傲慢な女は私に相応しくない!」 はい無理でーす! 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇 サラッと読み流して楽しんで頂けたなら幸いです。 ※物語の背景はふんわりです。 読んで下さった方、しおり、お気に入り登録本当にありがとうございました!

私との婚約は、選択ミスだったらしい

柚木ゆず
恋愛
 ※5月23日、ケヴィン編が完結いたしました。明日よりリナス編(第2のざまぁ)が始まり、そちらが完結後、エマとルシアンのお話を投稿させていただきます。  幼馴染のリナスが誰よりも愛しくなった――。リナスと結婚したいから別れてくれ――。  ランドル侯爵家のケヴィン様と婚約をしてから、僅か1週間後の事。彼が突然やってきてそう言い出し、私は呆れ果てて即婚約を解消した。  この人は私との婚約は『選択ミス』だと言っていたし、真の愛を見つけたと言っているから黙っていたけど――。  貴方の幼馴染のリナスは、ものすごく猫を被ってるの。  だから結婚後にとても苦労することになると思うけど、頑張って。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。 一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。 結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。 一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。 「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が! でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません! 「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」 ※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。 ※ざまぁは過度なものではありません。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

処理中です...