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15話 男爵令嬢の誤算①

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 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!

 わたしは気が狂いそうな痛みに耐えるしかできなかった。

 やっと眠れたと思っても、すぐに痛みで目が覚める。
 ベッドで横になってジッとしていても痛みが引くことはない。終わることのない痛みに正気を保っていられなかった。

 どうして、私がこんな目にあわなければいけないの?
 わたしがなにをしたっていうの?

 全部あの方のいう通りにしたのに、ちっともうまくいかなかった。
 あの女に呪いをかければ、私はライオネル様に選ばれるはずだった。

 どうして、どうして、どうして——!!



 あの方に声をかけられたのは、ほんの一週間前のことだ。

 いつものようにハーミリアはライオネル様の隣にふさわしくないとわからせるために、黒板に書いたり机の上からバケツの水をかけてやった。
 それなのに、なんでもない顔で「まあ、ちょうどよかったわ。机が汚れてきたから綺麗にしたかったの! どなたかしら? お礼を言いたいわ」なんてわけのわからないことを言った。
 その言葉で馬鹿にされているのだと理解した。

 一気に頭に血が昇ってすぐさま怒鳴りつけたかったけど、相手は伯爵令嬢だ。いくら学院の中とはいっても身分の問題はゼロにはならない。
 わたしが名乗り出たところで、処罰を受けるのは目に見えていた。だから悔しくて悔しくて、ギリギリと奥歯を噛みしめた。



「貴女、モロン男爵家のドリカさんね」
「……えっ? はっ、失礼いたしました。マリアン王女様!」

 意外な人物から声をかけられて、慌てて慣れないカーテシーを返す。
 男爵令嬢の私に声をかけてもらえるなんて思ってもみなかった。第三王女のマリアン様は国王陛下と王妃殿下から深い寵愛を受けている末王女だ。そんな雲の上の方がいったいなんの用で声をかけてきたのか。
 マリアン王女の後ろには、トライデン公爵家の令嬢ローザ様と、シュミレイ辺境伯の次男テオフィル様が控えている。

 しかも、わたしの名前までご存じだなんて……なにか失敗してしまったのかしら?

「頭を上げてちょうだい。同じ学院の生徒なのだから、そんなにかしこまらないでほしいわ」
「はい、ありがとうございます……」

 そろそろと顔を上げれば、輝く金色の波打つ髪は腰で揺れ、翡翠のような澄んだ瞳は吸い込まれそうだ。気品に満ちた佇まいに、自分との格の違いを見せつけられる。

「ねえ、貴女。ライオネル様をお慕いしているの?」
「えっ、いえ、そんなわたしがライオネル様をお慕いするなんて、とんでもないです」
「そう? 残念ね。とてもお似合いのふたりだと思ったのに」
「……えっ?」

 マリアン王女がなにを言いたいのかよくわからない。わたしとライオネル様がお似合いだと、確かに言ったけど本当に認めてくれたのか?

「だって、黒板の落書きや、お水を校舎の中で運ぶのは大変だったでしょう? そんな頑張り屋さんですもの、ライオネル様にピッタリのご令嬢だわ」

 確かにライオネル様への想いは隠していたなかったけど、ハーミリアへの嫌がらせは誰にも見られていないはずだった。もしかしたら、王族だからなにか伝でも使って調べたのだろうか。これは、答えを間違えたら処罰を受けてしまうかもしれない。

 目の前のマリアン様は優雅に微笑んでいるけれど、背中を冷たい汗がつたっていく。

「貴女、ライオネル様を自分のものにしたくないの?」
「それは……」

 そんなの、当然自分の婚約者になってほしいに決まってる。でも男爵令嬢のわたしでは侯爵令息のライオネル様とは身分が違いすぎる。そんな簡単に頷けるものでもない。

「貴女が本気でライオネル様を自分のものにしたいなら、私が協力してあげるわ」
「ほ……本当ですか?」
「もちろんよ。でも、失敗する可能性もあるから、無理強いできないの」
「や、やります! ライオネル様の婚約者になれるなら、わたしなんでもします!」


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