【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。

里海慧

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6話 歯が痛いですわ!!②

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 いつものように校舎に入ってからは、ライオネル様と別行動になる。
 ずっと気になっていたのは、馬車での無言の時間だ。なんとなくライオネル様の様子もおかしかった。

 私が俯いていたから、心配されたのかしら?
 嫌だわ、わたくしのことでライオネル様のお心を煩わせたくないのに。

 ドリカさんがいなくなっても、嫌がらせがなくなることはない。移動教室の時に教科書が隠されてしまったので、予備のものをカバンから取り出した。

 日常茶飯事なので常に予備を持ち歩いているから、わたくしにはノーダメージだ。
 さらにいつも突っかかってくるシルビア様まで様子がおかしかった。

「ちょっと、あなた。どうしたの? その貼り付けたような笑顔は。なにかおつらいことでもありましたの?」
「…………」

 わたくしは返事ができないので、コクリと頷く。
 シルビア様は話しかけにくいところがあるけれど、心根は優しい方だ。なにより陰口を叩かない。しかもわたくしが心から笑っていないと、ひと目で見抜いた。

 当然、シルビア様は早々にライオネル様に紹介済みである。貴族としては素直すぎるところがあるけれど、公爵家のご令嬢ならば家の力である程度のことはどうとでもなる。

 できることなら家がどうこうは関係なく、わたくしも友人になりたいものだ。

「どうなさったの? 私でよければ話くらい聞いて差し上げるわよ」

 ツンとすました横顔なのに、話している内容は温かい。そんなシルビア様の魅力に気付いている人はどれくらいいるのかしら?
 でも、困ったわね。歯が痛すぎてなにも話せないわ。

「勘違いしないでよ!? ライオネル様の様子がいつもと違っていたのは、あなたが原因なのではなくて!?」
「…………」

 なんと、シルビア様もライオネル様がいつもと違うと感じ取っていた。ファンクラブの会員番号一桁は伊達じゃないようだ。

 しかしどうやっても、歯が痛くて声を出せない。そこでノートとペンを取り出して、筆談することにした。

【ご心配いただきありがとうございます。実は、歯が痛くて口を開けられないのです】

 わたくしの書いた文字をチラリと見て、シルビア様は保健室まで連れていってくれた。最後の最後まで「ライオネル様のためですからね!」と言っていたけど、わたくしはやっぱりシルビア様と友人になりたい。

 素直じゃないのはまったく気にならないし、むしろあの必死な感じがかわいらしく見えるもの。

 保健室では治癒魔法を使える先生がわたくしの状態を見てくれた。
 筆談を交えて状況を伝えると、まずは治癒魔法をかけてくれる。温かな白い光に包まれて身体がぽかぽかして心地よかった。

「どう? 痛みはよくなったかしら?」

 表情筋を動かそうとして、やはりズキーンと痛みが走る。
 わたくしはゆっくりと顔を左右に振った。

「そう、うーん困ったわね。今使った治癒魔法より上の魔法だと、専門機関でないと受けられないわ。もしくはお屋敷に上級治癒魔法の使い手はいらっしゃる?」
「…………」

 伯爵家の領地まで戻れば確かにいるけれど、この学院に通うため暮らしているタウンハウスにそこまでの治癒魔法の使い手はいない。

 でもお父様もお母様もちょうど社交シーズンでタウンハウスに滞在しているから、帰ったら相談してみよう。

 それにしても治癒魔法でも消えない痛みとは、原因がさっぱりわからない。

【屋敷に戻ったら父に相談してみます。授業だけ受けて帰ります】

 そう書き記して保健室を後にした。
 保健室の先生が教科ごとの先生に周知してくれたので、授業で当てられることもなく静かに過ごすことができた。

 教室に戻ってからシルビア様にお礼を伝えると「そんなのはいいから早く帰りなさい!」と叱られてしまった。

 でも帰るつもりはない。
 なによりもライオネル様を心配させてしまう。心優しいライオネル様は例え嫌いな婚約者だとしても、気にせずにはいられない方だもの。

 それにライオネル様と過ごせるランチタイムと帰りの馬車の時間を失いたくなかった。

 そう、わたくしは呆れるほど、この愛に盲目なのだ。


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