【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。

里海慧

文字の大きさ
上 下
2 / 62

2話 婚約者はクールなお方ですわ②

しおりを挟む

 わたくしはハーミリア・マルグレン。父がこの王国の伯爵として日々領地経営に勤しんでおり、なに不自由なく十分な教育を施されて育てられた。
 淑女としての立ち居振る舞いの始まり、語学や歴史、はたまた魔法学や剣術までも幼い頃より学んできた。

 もちろん貴族としての義務も心得ているし、当然のように婚約者もいて貴族令嬢としてつつがなく過ごしている。

 わたくしの婚約は六歳の時に結ばれた。
 どういった経緯で縁が結ばれたのか、わたくしたちからしてみれば格上のタックス侯爵家のしかも嫡男ライオネル様が婚約者になった。

 ライオネル様は大変な努力家だった。
 お顔立ちは神殿にある彫刻のように美麗で麗しく、アイスブルーの瞳は鋭く真実を見抜く。でもそれに驕らず陰では勉学に励み、魔法の練習も欠かさなかった。
 どんな相手にも物おじせずに意見を述べるし、公明正大な人格者だ。だから貴族や裕福な商家の令嬢や子息が通う学院では常に人に囲まれている。

 唯一剣は苦手だと言いているけれどそれでも平均以上だし、魔法では誰にも負けない実力の持ち主だ。幼い頃からの鍛錬の賜物か、宮廷魔道士にも引けを取らないほどの実力だ。

 学院では密かにファンクラブができるほど人気があり、王太子殿下の側近として常に注目を浴びている。

 つまりとんでもなく優良物件なのだ。だから婚約者のわたくしはいつも嫉妬の目を向けられ、よく陰口を叩かれていた。

 陰口は当然だとして、連絡事項を伝えてもらえないとか教科書を隠されるとか、授業に差し支えるものから鼻で笑うものまで、ひと通り嫌がらせを受けてきた。
 多分、巷で流行りの恋愛小説でも書いたら、いい感じに虐げられる主人公や、意地悪な悪役令嬢をリアリティにあふれた描写ができると思う。

 今度、お小遣い稼ぎでもしてみようかしら?

 話が逸れてしまったけど、いつも朝の馬車の中のような感じで、わたくしが話題を提供してライオネル様が視線も合わせずにひと言返すのが常だった。

 ちなみに他の生徒にはごくごく普通に会話が成立しているようだ。わたくしが近くにいるとこのようになってしまうので、学院ではなるべく近づかないようにしている。そんなことでライオネル様の足を引っ張りたくはない。

 わたくしはライオネル様に愛されていない、それはもう周知の事実となり浸透していた。

 でもライオネル様は真面目だから、婚約者のわたくしを律儀に毎日送り迎えをしてくれている。
 先生に用事を頼まれたり生徒会の仕事で遅くなっても待っていてくれるし、ライオネル様の手が空いているときは手伝ってくれるのだ。

 それが婚約者としてのお役目だから、仕方なくこなされているのだと思う。わたくしはそんなライオネル様の優しさに卑しくつけ込んでいた。

 婚約が決まって初顔合わせをしたあの日、ひと目見た瞬間にわたくしはライオネル様に心奪われた。

 こんな素敵な方の婚約者となれるのかと歓喜に震えた。

 それからわたくしは婚約者の立場を死守しようと必死だった。少なくとも他のご令嬢に能力で劣らないように努力し、顔の作りはどうしようもないけど、美容にも気を使い女性としての美しさも高みを目指した。

 とにかくライオネル様の婚約者であることを最大限に利用して、好かれるように努力した。

 だからどんなに冷たく返されても、好意を全面に押し出してわたくしの気持ちが伝わるようにしてきた。それにそんなことで、わたくしの心に燃え盛る恋の炎は消えることがなかった。

 だってそんなクールで落ち着いたライオネル様も、素敵なんですもの——!!

 もう十年もそんな状態だった。



しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

逆行令嬢の反撃~これから妹達に陥れられると知っているので、安全な自分の部屋に籠りつつ逆行前のお返しを行います~

柚木ゆず
恋愛
 妹ソフィ―、継母アンナ、婚約者シリルの3人に陥れられ、極刑を宣告されてしまった子爵家令嬢・セリア。  そんな彼女は執行前夜泣き疲れて眠り、次の日起きると――そこは、牢屋ではなく自分の部屋。セリアは3人の罠にはまってしまうその日に、戻っていたのでした。  こんな人達の思い通りにはさせないし、許せない。  逆行して3人の本心と企みを知っているセリアは、反撃を決意。そうとは知らない妹たち3人は、セリアに翻弄されてゆくことになるのでした――。 ※体調不良の影響で現在感想欄は閉じさせていただいております。 ※こちらは3年前に投稿させていただいたお話の改稿版(文章をすべて書き直し、ストーリーの一部を変更したもの)となっております。  1月29日追加。後日ざまぁの部分にストーリーを追加させていただきます。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。 私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。 彼の姉でなく、私の姉なのにだ。 両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。 そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。 寄り添うデイリ様とお姉様。 幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。 その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。 そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。 ※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。 ※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。 ※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

処理中です...