3 / 4
複雑感情
しおりを挟む
「もう疲れた……」
誰もいない教室で1人、璃斗はぐったりと机の上で伸びていた。
学校ではテスト週間に入ると授業は午前中で終了するため、多くの生徒は授業が終わると一斉に帰宅するのだ。
さっさと家に帰ってのんびりしたいとは思うのだが、いろんな意味で疲れ切った体で炎天下の中帰るのは気が進まず今に至る。
うとうとし始めた時、ポケットに入れておいた携帯がメールを告げる音が鳴り、直ぐに着信を告げる音楽が鳴り響いた。
しぶしぶ確認するとそこには目を見張る名前が表示されていた。
無視すれば後で何を言われるかわからないのでとりあえず出た。
「あ、もしもし?とりあえずこの後俺の家に来て」
いきなり璃斗の用事などをお構いなしに言う発言に眠気など一気に吹き飛んだ。
「はい? 何いきなり言ってるんだよ、そもそも俺お前の家知らないし」
「大丈夫、この電話の前にメールで俺ん家までの地図送ったから」
「だからってな……」
「口止め料」
そう言われてしまえば返す言葉が見つからなかった。
「じゃ、待ってるから」
一方的に電話をかけ、一方的に切った彰良に対してイラつきを感じなかったと言えば嘘になるが、それでも璃斗は愚痴を零しながらも鞄を肩にかけ、送られてきた地図を見ながら彰良の家に向かった。
「……でかっ! 」
目の前に建つマンションの大きさに本心が口から溢れた。
間違えたかと思い何度も確認したがやはり間違いではない。
エントランスに入るとメールに書いてあった通りオートロック式であり扉の前のパネルに部屋番号を打ち込み呼び足しを押すと、インターフォンから「どちらさまですか」と尋ねる声もなしに、扉が開いた。
「確認無しでいいのかよ……」
エレベーターで七階まで上り一番左端の部屋の前までたどり着き、インターフォンを押そうとする手を何故か躊躇ってしまった。
初めて訪れるし、もしかしたら母親がいるのかもしれないのだったら何か手土産を買ってくるべきだったのではないか、と高校生らしくない硬い考えが頭の中を過っていた。
しかし真夏の日中、外に長時間いるのはさすがに辛く、意を決してインターフォンを鳴らした。
待ってみるが応答がない。
呼んでおいて無視かよと思いつつ試しにドアノブに手を掛けると、鍵が空いていたようであっさりと扉が開き、中から声が掛けられた。
「出れなくてごめん! ちょっと手離せなくて、そのままリビング来て」
何をしてるのやらと思いつつも靴を脱ぎ、壁際に揃えると靴が自分のもの以外に一足しか無いことに気づき、親はいないのだなと少しホッとしている自分がいた。
リビングに入るとトマトのいい香りが鼻孔をくすぐり、つられてお腹が鳴り自分が空腹であることに気づかされた。
「璃斗お昼食べてないだろ? 今お昼作ってたんだけど嫌いなものある?」
「食べてない。嫌いなものは特にない」
どうやら料理をしていたため出ることが出来なかったのだと納得がいった。
適当に座っててと言われ、鞄をソファーの脇に置かせてもらい、ひかれているラグの上に座った。
部屋を見渡すと案外シンプルであった。
目立った家具というとチェストに本やマンガが少しあり、目の前には大きなテレビ、ローテーブル、ソファーが並ぶように置かれているだけだった。
「疑問に思ったんだけど、俺が来るかどうかわからないのに、最初から二人分作ってたの? 」
「璃斗なら絶対来てくれると思ったし、俺の手作り料理を食べてもらって好感度上げようかなって」
せっかく様になってるエプロン姿とか手作り料理で好感度が上がったとしても、そういうこと言ったら逆に下がるんだけどな……などとキッチンにいる彰良の背中を半ば呆れ半分に見つめているとを出来上がった料理が運ばれてきた。
「すごっ……お前料理出来るんだな」
「まぁな」
机に置かれた皿の上にはトマトパスタが綺麗に盛られ、バジルが散らされていた。どこかのレストランなどで出されてるようなお洒落なパスタに思わず感心してしまった。恐らく母親でもこんな風には作れないと思う。
「ごちそうさまでした。美味しかった……」
素直に感想を言うのは照れ臭かったが、味はレストランなどお店で出される並みに美味しく口に運ぶ手が止められずあっという間に食べてしまった。
「それはよかった。でもなお前……」
彰良は言葉を途中で切ると、身を乗り出し右手をスッと伸ばし璃斗の頬に触れた。いきなりのことに璃斗は肩を震わせ竦んでしまった。
「な、なにすんだよ! 離れろ!」
「いいから、動くな。璃斗……」
低い声で短く命令口調で言われ、その言葉は毒となって体中に回ったように麻痺し、逃げることが出来なくなった。
親指が口元の方へ動くのを感じギュッと目をつぶると、口元の端をグイッと拭われただけで手は離れていった。
一瞬の出来事に目を開け呆気にとられていると、呆れた顔の彰良が視界に入り璃斗の口元を拭った親指は先ほど食べたトマトソースで汚れていた。
ようやく自分は口元にトマトソースを付けたまま気づかずにいたということがわかり、体中の熱が一気に頬に集まるのを感じた。
「璃斗、お前何歳だよ。口元にトマトソース付けっぱなしとか」
「……十七歳。すまん、今ティッシュで拭くから」
汚れた親指を拭こうとティッシュに手を伸ばすと、彰良は親指を自分の口元へ近づけペロリと舐めとった。
「お前! 何してんだよ!」
「何って、こっちの方が早いし、ごちそうさま」
ニヤリと楽しそうに笑う彰良に、さらに璃斗の頬だけでなく耳の方まで真っ赤に染まった。
「ご、ごちそうさまって!」
人の反応を見て笑っている姿にせっかく料理で好感度が上がった束の間、好感度はがた落ちだ。
「洗い物するから先に部屋言ってて、廊下出て直ぐ右の部屋だから」
「拒否権は?」
「口止め料、それに俺の手料理食べれただろ?」
やはり口止め料と言われれば言い返す言葉が見つからなかったが、後者は勝手に作っていたじゃないかという言葉を呑み込み大人しく部屋へと向かった。
躊躇いもせず中に入ると、思ったよりも広くリビング同様シンプルな部屋だった。
そんな中璃斗は、本棚の前の床に積まれてある"物"に目がいった。
璃斗:
「これって、まさか」
誰もいない教室で1人、璃斗はぐったりと机の上で伸びていた。
学校ではテスト週間に入ると授業は午前中で終了するため、多くの生徒は授業が終わると一斉に帰宅するのだ。
さっさと家に帰ってのんびりしたいとは思うのだが、いろんな意味で疲れ切った体で炎天下の中帰るのは気が進まず今に至る。
うとうとし始めた時、ポケットに入れておいた携帯がメールを告げる音が鳴り、直ぐに着信を告げる音楽が鳴り響いた。
しぶしぶ確認するとそこには目を見張る名前が表示されていた。
無視すれば後で何を言われるかわからないのでとりあえず出た。
「あ、もしもし?とりあえずこの後俺の家に来て」
いきなり璃斗の用事などをお構いなしに言う発言に眠気など一気に吹き飛んだ。
「はい? 何いきなり言ってるんだよ、そもそも俺お前の家知らないし」
「大丈夫、この電話の前にメールで俺ん家までの地図送ったから」
「だからってな……」
「口止め料」
そう言われてしまえば返す言葉が見つからなかった。
「じゃ、待ってるから」
一方的に電話をかけ、一方的に切った彰良に対してイラつきを感じなかったと言えば嘘になるが、それでも璃斗は愚痴を零しながらも鞄を肩にかけ、送られてきた地図を見ながら彰良の家に向かった。
「……でかっ! 」
目の前に建つマンションの大きさに本心が口から溢れた。
間違えたかと思い何度も確認したがやはり間違いではない。
エントランスに入るとメールに書いてあった通りオートロック式であり扉の前のパネルに部屋番号を打ち込み呼び足しを押すと、インターフォンから「どちらさまですか」と尋ねる声もなしに、扉が開いた。
「確認無しでいいのかよ……」
エレベーターで七階まで上り一番左端の部屋の前までたどり着き、インターフォンを押そうとする手を何故か躊躇ってしまった。
初めて訪れるし、もしかしたら母親がいるのかもしれないのだったら何か手土産を買ってくるべきだったのではないか、と高校生らしくない硬い考えが頭の中を過っていた。
しかし真夏の日中、外に長時間いるのはさすがに辛く、意を決してインターフォンを鳴らした。
待ってみるが応答がない。
呼んでおいて無視かよと思いつつ試しにドアノブに手を掛けると、鍵が空いていたようであっさりと扉が開き、中から声が掛けられた。
「出れなくてごめん! ちょっと手離せなくて、そのままリビング来て」
何をしてるのやらと思いつつも靴を脱ぎ、壁際に揃えると靴が自分のもの以外に一足しか無いことに気づき、親はいないのだなと少しホッとしている自分がいた。
リビングに入るとトマトのいい香りが鼻孔をくすぐり、つられてお腹が鳴り自分が空腹であることに気づかされた。
「璃斗お昼食べてないだろ? 今お昼作ってたんだけど嫌いなものある?」
「食べてない。嫌いなものは特にない」
どうやら料理をしていたため出ることが出来なかったのだと納得がいった。
適当に座っててと言われ、鞄をソファーの脇に置かせてもらい、ひかれているラグの上に座った。
部屋を見渡すと案外シンプルであった。
目立った家具というとチェストに本やマンガが少しあり、目の前には大きなテレビ、ローテーブル、ソファーが並ぶように置かれているだけだった。
「疑問に思ったんだけど、俺が来るかどうかわからないのに、最初から二人分作ってたの? 」
「璃斗なら絶対来てくれると思ったし、俺の手作り料理を食べてもらって好感度上げようかなって」
せっかく様になってるエプロン姿とか手作り料理で好感度が上がったとしても、そういうこと言ったら逆に下がるんだけどな……などとキッチンにいる彰良の背中を半ば呆れ半分に見つめているとを出来上がった料理が運ばれてきた。
「すごっ……お前料理出来るんだな」
「まぁな」
机に置かれた皿の上にはトマトパスタが綺麗に盛られ、バジルが散らされていた。どこかのレストランなどで出されてるようなお洒落なパスタに思わず感心してしまった。恐らく母親でもこんな風には作れないと思う。
「ごちそうさまでした。美味しかった……」
素直に感想を言うのは照れ臭かったが、味はレストランなどお店で出される並みに美味しく口に運ぶ手が止められずあっという間に食べてしまった。
「それはよかった。でもなお前……」
彰良は言葉を途中で切ると、身を乗り出し右手をスッと伸ばし璃斗の頬に触れた。いきなりのことに璃斗は肩を震わせ竦んでしまった。
「な、なにすんだよ! 離れろ!」
「いいから、動くな。璃斗……」
低い声で短く命令口調で言われ、その言葉は毒となって体中に回ったように麻痺し、逃げることが出来なくなった。
親指が口元の方へ動くのを感じギュッと目をつぶると、口元の端をグイッと拭われただけで手は離れていった。
一瞬の出来事に目を開け呆気にとられていると、呆れた顔の彰良が視界に入り璃斗の口元を拭った親指は先ほど食べたトマトソースで汚れていた。
ようやく自分は口元にトマトソースを付けたまま気づかずにいたということがわかり、体中の熱が一気に頬に集まるのを感じた。
「璃斗、お前何歳だよ。口元にトマトソース付けっぱなしとか」
「……十七歳。すまん、今ティッシュで拭くから」
汚れた親指を拭こうとティッシュに手を伸ばすと、彰良は親指を自分の口元へ近づけペロリと舐めとった。
「お前! 何してんだよ!」
「何って、こっちの方が早いし、ごちそうさま」
ニヤリと楽しそうに笑う彰良に、さらに璃斗の頬だけでなく耳の方まで真っ赤に染まった。
「ご、ごちそうさまって!」
人の反応を見て笑っている姿にせっかく料理で好感度が上がった束の間、好感度はがた落ちだ。
「洗い物するから先に部屋言ってて、廊下出て直ぐ右の部屋だから」
「拒否権は?」
「口止め料、それに俺の手料理食べれただろ?」
やはり口止め料と言われれば言い返す言葉が見つからなかったが、後者は勝手に作っていたじゃないかという言葉を呑み込み大人しく部屋へと向かった。
躊躇いもせず中に入ると、思ったよりも広くリビング同様シンプルな部屋だった。
そんな中璃斗は、本棚の前の床に積まれてある"物"に目がいった。
璃斗:
「これって、まさか」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

思惑交錯チョコレート
秋野小窓
BL
高校3年のバレンタイン、できなかった告白。こっそり鞄に入れたチョコレートと名前のない手紙は、4年経っても胸に引っ掛かったまま……。
攻めに片想いしていた受けが久しぶりに再会することになり、お節介な外野が首を突っ込んでわちゃわちゃするお話です。
*小松 勇至(こまつ ゆうじ):大学4年。進学のため一人暮らししていたが、卒業を間近に控え実家に戻ってきている。
*成田 ケイ(なりた けい):大学4年。塾講師のアルバイト。高校の頃から小松に思いを寄せている。
・福島 沓子(ふくしま とうこ):ケイがチョコを買った際の販売員。成田のことを放っておけない。
・小松 り花(こまつ りか):勇至の妹。腐女子。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる