嫌いから始まってもいいじゃないですか

神崎零

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素顔と本性2

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プールから上がる前に、彰良が落としたという眼鏡を潜水しながら探したがどこにも見つからない。
水を吸って重くなった制服が邪魔だったが、ここでもし拾わなければまた何か言われるかもしれないし、とにかく動いていないと先ほどの光景が脳裏をよぎり、冷静では居られないのだ。  

「なんでさっきキスしたんだ!? 俺は健全な男子高校生であって、そっちの趣味はない!」

一度深呼吸しようと立ち止まった。無意識にだがまだ温もりや感触の残る唇に触れた。

「……でも、あいつの唇柔らかかったな」

口から溢れた言葉に固まった。

「って何思ってんだ俺!!」

自分の思考がどんどん危ない方へ傾いているのに気が付くと、叫んでしまっていた。

「うるさい。まだ授業中なんだから、璃斗の叫び声聞いて来たらどうするんだよ」
「ご、ごめん」

声が届くとは思わないし、何で俺が謝ってるんだと思いながらも彰良の方を見上げると両手にジャージを抱えやれやれと言わんばかりにため息をついていた。


「先生にバレたら俺は理由使えばなんとかなるけど、璃斗はどうしようもならないんだから……」

そっぽ向きながら素っ気なく言っているつもりだろうが、頬はほんのりと朱色に染まり照れていることがわかった。
もしかしたら本当は良い奴かも知れないと少しだけ思えた。

「もしかして、心配してくれてんの? さっき口止め料とか言って……っしやがったけどさ」
「は!? な、何言ってんの!? 心配なんかしてねえし、気分次第で俺、ポロっと言っちゃうかもしんないし」

耳まで赤くし、慌てる様子になんとも言えない気持ちが混み上がってきたが、後半の言葉に先ほど考えは消えた。


……やっぱりこいつ気にくわない!


「とりあえず、プールから上がったら? なんでずっと入ってんの」

指摘された通りプールから上がると、ジャージを手渡され水を吸って重くなった制服が肌にピタリとまとわりつくのは良いものではなく、早く着替えようと更衣室へと向かった。

「璃斗の方が俺より小さいから、ジャージのサイズ合わないとは思わないけどデカいってのはあり得るから気をつけろよ」
「小さい言うな! 何を気を付けるんだよ!!」

璃斗のコンプレックスを指摘され、少しの怒りを込め音を立てて扉を閉めた。
その行動は着替えてる際に冷静に考えると子供っぽかったかと後で後悔する羽目になった。
小さいことは璃斗の唯一のコンプレックスであり、悩みの種でもある。
身長は168cmあるのだが何故かこの高校の男子生徒の身長は170cm後半から180cm台が主であり、璃斗の身長は低い方に分類されるのだ。
着替え終わり今度は音を立てず静かに扉を開け、様子を窺うと彰良はプールサイドを歩き回り璃斗の本を拾いページをペラペラと捲っていた。

「勝手に読んでんなよ」

彰良の手からひったくるように本を取り去り再度スマホの横に置いた。

「大丈夫、読んでない。難しすぎて、栞の場所を変えようかなって捲ってたところだから」
「最悪だな、しかもやること幼稚な悪戯だな」
「何とでも言え」

言い放った途端、彰良は目を大きく開け固まった。
何が起きているのかわからず、璃斗はとりあえず彰良の顔の前で手を振って意識があるか確認していた。
ハッとなった彰良は自分の顔の前で振られていた手首を捕らえた。

「お前、ジャージがデカかったのはわかるけどなんで捲くってねえんだよ! 萌え袖すんな!」
「だって今日、日差し強いから焼けるじゃん」

ジャージは璃斗にとっては大きく、手の甲の半分ほどまで覆っていた。
捲くることも考えたが日差しは強く日焼けしたくない気持ちが勝ち、捲くらなかったのだ。
さすがに足は折り曲げないと濡れてしまうかもしれない危険性があったため仕方なく足首ギリギリで折り曲げた。

「焼けるのを気にしてる女子か!萌え袖までしてわざとなの?それとも天然なのか!?」
「何がわざとなんだよ?」
「だから……」

璃斗の両手首を掴み壁に押し付け、唇が触れそうな位置まで顔を寄せた。とっさの出来事になすがままになっていた。

「ば、ばか、何すんだよ……離せ!」

先ほどの光景が頭の中でフラッシュバックし顔がカッと熱くなった。
真っ直ぐ見つめる瞳の奥には獰猛な熱が微かに灯っているようにも見えた。
そのまま腕を頭の上で縫いとめられ抵抗するがビクともしなかった。

「そういうの誘ってるって、わかんないのかな……?」

耳元で囁かれる吐息にくすぐったさを感じ捩ると、顎を捕らえられ顔を上げさせられると徐々に近づいてくる顔に思わず目を瞑ると授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

「ちっ、タイムアップか」

あっさりと手を離され、離れていく彰良を呆然と見つめていると彰良は顔をしかめ、苦笑した。

「だからそういう顔するなって……」
「普通の顔だ! ……ってお前またしようと!!」

ようやく思考回路が正常に働いてくると、先ほどのことが鮮明に蘇り、苛立ちと羞恥が沸々と湧き、彰良にぶつけるが涼しい顔をして聞き流している。
これ以上サボるわけにも行かず、一緒に校舎に向かうことになった。

「あ、口止め料まだ貰い足りてないから、またメールでも電話でもして連絡するからよろしく」

「はあ! ふざけんな、俺とお前がいつ交換した!?」
如月彰良:
「更衣室で着替えてるときに、ちょこ~っといじらせてもらった。パスワードが単純すぎ」
彰良は髪をいじりながら歩きつつ、サラッと流すように答えていた。

「では"委員長"、"僕"は職員室によってから行くのでここで、また教室で」

振り向いた姿は”表”向きの前髪を下し、いつの間にかプールに落としたはずの眼鏡を拾っていたのかそれを身に着け、明らかに作ったと分かる笑顔を向け去っていった。
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