嫌いから始まってもいいじゃないですか

神崎零

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素顔と本性

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ジメジメとした憂鬱な気持ちになる梅雨の6月が終わり、照りつける日差しが強くなった7月が始まった。
空を見上げると雲一つない青空が広がり、太陽によって暖められた生暖かい風が頬を撫でる。

目の前には光を反射し揺らめいているプールがあり、無性に入りたい気持ちがこみ上げてきたが入るわけにもいかないので手元に 置いてあった本を取り続きを読もうと開いた。

遠くからは授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いていた。

俺がいる場所は学校のプール、そして人は誰一人いない。
なぜならこの時間、俺のクラスは数学。全学年体育はやっていない。

そう俺、千宮璃斗は今絶賛サボり中である。

ひたすら優等生を演じてきた俺は先生からの信頼を得ている。
そのため数学の先生には少し体調が悪いふりをして、保健室で休むと言ったらあっさりと承諾してくれた。
だが、保健室はエアコンが付いていないため、熱さは教室と変わらない。
それなのに熱い空間で寝ているのも辛いしつまらないので、サボり場所を探した結果ここ、プールになった。
日影は涼しいし、足だけなら水に浸かることも出来る。
なんといっても立地条件がとにかくよかった。
プールはグラウンドを挟んだ校舎とは反対側に設置されているため、滅多に人は近寄ったりしないのだ。
ズボンのポケットにスマホを入れっぱなしにしておくと熱いので、取りだし傍らに置いた。
本を読もうかと思ったが強い睡魔に襲われ、寝ようと伸びを一つし、壁に背中を預け腕を組み寝ようとすると、急に影がかかった。
雲一つ無かったはずの空が陰るのはおかしいと思い、顔をあげるとそこには男が立っていた。

「 委員長じゃないですか」

どこか聞き覚えのある声だったが思い出せなかった。逆光のせいで顔が見えず誰なのかも分からなかった。
彼の背後から差し込む 太陽の光に目を細めると、彼はスッと俺の隣に座った。

改めて確認すると、灰白色の前髪を目にかかるまで伸ばし黒縁眼鏡をかけたクラスメイトの地味系男子の如月彰良だった。 

「な、何でお前がここにいるんだよ!?」
「たまたま、委員長を見かけたもので」

彰良はところでと一度区切った。

「そんなことより、まさかサボりですか?」

核心を突かれ動揺を隠しきれず立ち上がってしまった。
彰良の正面に向かい合うが彼は不思議な笑みを浮かべていた。

「そういうお前こそ、今日朝学校にいなかっただろ! 堂々と遅刻するのはどうかと思うけど」
「ええ、確かに遅刻ですが、先生方は承知しているので問題はないのです」

反論する言葉が見つからず黙ってしまった。
ここはいったん退いて立ち去ろうとすると後ろから追い打ちをかけるように声を掛けられた。

「で、委員長は結局どうなんですか?」

振り向くと彰良が一歩近づく。俺は一歩後ろに下がる。

「……」
「肯定として取ってもいいんですか?」

また一歩近づき、俺が下がる。
 こんなやりとりを続け、逃げるように後ろへ下がろうと足を引くがそこに地面はなかった。あったのは光に揺らめ煌めいている水面のみ。

「危ない!!」

大きく体が傾き、助けようと伸ばされた彰良の力強い手に腕を引っ張っられるが男の俺の体重を引き上げることが出来ず、彰良を道連れにプールの中へと落ちた。

「わ、悪い。巻き込んだな……」
「本当だよ……」

お互い全身びしょ濡れになってしまい、彰良に謝ると一瞬目を疑ってしまった。
雫が伝って落ちる前髪を掻き上げた彰良の素顔がさっきまで接してきた彼からは想像も出来なかったからだ。
男でも見惚れてしまうほどの綺麗に整った顔に、吸い込まれてしまいそうなほどの漆黒の瞳。
さらに濡れているせいなのか色気も醸し出していた。

それにこの顔、どこかで見た気がする……

だけど思い出すことが出来なかった。

「あ~あ、眼鏡どっかに沈んじゃったな」

見た目も口調もだが、あまりの変わりように固まっていると彰良はくすりと笑った。

「なに固まってるんだよ?素顔晒すつもりなかったんだけど、そんなに素顔がカッコよかった?」
「違えし!  」
頬に熱が集まっていくのが分かった。

「ふーん、璃斗は俺に借りがたくさんできたね~」
「貸しを作った覚えはない、しかもいきなり委員長から呼び捨てに変わるとかなんなんだよ」
「あれ? じゃ、ここでサボってたこと言ってもいいの?それに璃斗が勝手に下がっていくのが悪いんだよ。助けようとした俺も巻き込まれた形で落ちたんだし」

意地悪そうな笑みを浮かべ、反応を楽しんでいる。

「それはそうだけどさ……」

言葉を濁らせ顔を伏せると彰良の手が伸び、顎を捕らえられた。
そのまま顔を持ち上げられ至近距離で見つめられ驚きと気恥ずかしさに固まっていた。
漆黒の瞳から何度も目を逸らそうとしたが、自分の意志とは反対に逸らすことは出来なかった。

「……何が望みだ?」
「じゃあ、とりあえず」

空いた左手を腰に回されグッと引き寄せられると、二人の間にあった距離は無くなった。唇には柔らかいものが押し付けられる感触があり、気づくとキスされていた。

チュっと音を立て唇が離れる際、舌で上唇をペロッと舐められたが、何が起こっているのかわからず放心状態になっていた。

「ごちそうさま、口止め料の一部として貰っとくよ。俺先にあがって着替え取ってきてあげるよ」

彰良は何事も無かったかのように話し、笑みを残して一度去っていった。
ようやく思考が回復してくると、顔に熱が集まっていくのがわかった。

「え? 俺あいつにキスされてた?」

無性に叫びたい気持ちを抑え込み、さすがに濡れた状態で出歩くのは不味いと混乱する頭で判断し、着替えを持ってきてくれると言った彰良を大人しく待つことにした。
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