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いずるくんと冬休み明け
しおりを挟む冬休みが終わって、学校が始まった。けれど、お正月でたるんだ気持ちは、そう簡単には引き締まらない。冬休みの間に 私にとって当たり前になってしまったマニュキュアを落とさなければいけないことに、始業式の前日になって気が付いて、慌てて除光液で拭った程度には、緩みきっているのだ。
正直 今年の冬休みは、いつもいずるくんと遊んでいた気がする。学校が始まったら、冬休みの間会えなかった学校のみんなと 会う機会は増えるはずなのに、いずるくんとは冬休みの方がよく会っていた気がするくらいには。
クリスマスだったり、初詣や映画見に行ったりして、冬休みを すごく充実したものにしてくれた。いずるくんには、本当 感謝してもしきれないくらい。
でも、同じ学校にいるはずなのに、学年が違うだけで こんなに会う機会が少ないなんて、なんだか不思議で。意識すればするほどに、なんだか 寂しく感じる。
次はいつ、いずるくんと会えるかな。
交換した連絡先を活用する勇気はなくて。私は、たまたまいずるくんに会える都合のいい偶然を 期待して待つことしかできない。
久しぶりでも代わり映えしない いつも通りのつまんない授業を聞き流しながら、つい自分の爪が気になって、見てしまう。
オレンジ色でもなく、ツヤツヤと光を反射したりもしない。何も塗っていない普通の爪になんとなく違和感を持つくらいには、冬休みの間中ずっと マニュキュアを塗っていたんだなぁと思った。
「先輩」
お昼休み、コーヒーを買いに自販機へ向かっていたら、呼び止められる。振り返れば、思った通りにいずるくん。今日も優しそうな笑顔だった。
「やっほー、いずるくん」
「こんにちは。先輩は、コーヒーですか?」
「うん、そうなの」
小銭を入れて、青い缶のコーヒーのボタンを押す。ガコンと音を立てて落ちてきたのを取り出して、教室に帰ろう とさっきまでは思ってたんだけど、たまたまいずるくんに会えた偶然を、ここで無下にしてしまうのは なんだか惜しい気がする。
ただ、会話の弾むような話題もなにも思いつかなくて、あつあつのコーヒー缶を 手の中で転がして時間を稼いでみた。
「あの、もしよかったら、お弁当一緒に食べませんか」
「え」
それは、今日 いまから という意味だろうか。
いずるくんが 私の心を知っているかのようなお誘いをしてくれて、ちょっと驚く。いずるくんは本当に、洞察力があるし、気遣いの上手な、優しい自慢の後輩だ。
「あ、いや、無理にとは言わないんです。また今度とかでも、いいですし」
「え、ううん、いいよ。一緒に食べよ。私も丁度ひとりだったし。いずるくんと一緒にご飯食べるの、嬉しいよ」
私がそう言えば、いずるくんはほっぺたを赤くしながら目を逸らして「僕も、嬉しいです」と、小さな声で言ってくれた。
「じゃあ、お弁当持ってくるね」
「いずるくん、料理も上手なんだね。この卵焼き 美味しい!」
いずるくんのお弁当は、全部いずるくんの手作りらしい。お弁当を向かい合わせで広げて、いずるくんのお弁当の中身が気になって見ていたら、そう教えてくれた。さらには「よかったら何か食べますか?」と言ってもらったので、ありがたく卵焼きをひとついただいたのだけれど、これがもう 絶品なのだ。お母さんの卵焼きは砂糖の入っている甘い味付けなのだけど、いずるくんの卵焼きみたいな 出汁の美味しいしょっぱい卵焼きの方が 私は好きだなぁ。
「先輩のお口に合ってよかったです。いくらでも食べてもらって良いですから、好きなだけ取っていってください」
「いいの? 嬉しい! おかず交換しよう!」
「ええ。交換しましょうね」
いずるくんのお弁当は、どれを食べてみても美味しかったし、私の好きなものばかりが入っている理想のお弁当だった。
卵焼きに、タコさんウインナー、ミニグラタン、人参の煮物、ふかし芋、全部いずるくんの手作りだそうだ。すごい。
最終的に、いずるくんのほぼ全てのおかずを私が食べてしまったので、私のお弁当の中身をいずるくんに差し上げることになった。お母さんには悪いけど、いずるくんの美味しいおかずの前では、いずるくんのおかずを選ぶ他なかったので、仕方がない。
「先輩、また明日もお昼ご飯一緒にどうですか?」
「ぜひ!」
お弁当を片付けながら いずるくんが願ってもいないような提案に、前のめりに飛びつく。いずるくんには、タコさんウインナーを二匹増やして欲しいとお願いしておいた。
作ってもらってばかりも申し訳ないし、私もなにか作るべきだろうか。おにぎりくらいなら、わたしにも出来るだろうか。
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