10 / 21
私達の2月13日
しおりを挟む変な時間に目が覚めてしまってから、しばらくしても眠る事が出来なくて、諦めて部屋の電気を付けた。
どうせ日曜日だし、昼間に眠くなっても大丈夫だから、まあいっか。
携帯を点ければ、寝る直前まで見ていたバレンタインチョコのまとめページが表示される。
いずるくんから連絡は来ていない。チョコを贈るかどうかは、正直まだ悩んでいる。
冬休みが明けてから、いずるくんと毎日お弁当を一緒に食べるようにはなったけど、映画を見に行ったきり どこかに出かけたりはしていない。だから、バレンタインだからって私から誘うのは、ちょっとハードルが高くて。気づいたら 手持ち無沙汰な感情を持て余して、携帯でバレンタインのチョコについて検索してしまう。
バレンタインに贈るお菓子の種類に、花言葉みたいに それぞれ意味があるらしいという記事を読んでいたら、いつのまにか部屋の電気を消すのも忘れて 眠っていた。
家族が眠った深夜に、なるべく音を立てないように 台所を使う。平日は この時間にお弁当を作るのだけど、今日は違う。もう少し甘いものだ。
冷蔵庫の奥から 昨日の晩に焼いたチョコマドレーヌを取り出す。ひとつ味見して、納得できる味だと確認してから、用意した箱に 見栄えに気を使いながら詰めていく。包装紙をしわの無いように綺麗に巻いて、リボンは先輩に笑顔になって欲しい気持ちをしっかり込めて結んだ。
先輩は、ケーキなんかの写真を撮るのが好きだから。写真映えはよくわからないけれど、気に入ってもらえたらいいと思って、さまざまな角度からよれや歪みがないかを確認する。
よし、きっと大丈夫。
先輩が、喜んでくれたらいいな。それよりもまずは、先輩にどうやって渡すかだけど。
最近 夜あまり寝れなくて、そういう時には 決まって先輩の家に行く。今日も、寝付けなくて。先輩の様子を見に行くことにした。
普段はバスを使うけど、この時間にはもう走っていないから 行きも帰りも歩きだ。
先輩はもう寝ているから、真っ暗な部屋の窓を見上げるだけだけれど、たまたま先輩が起きて、たまたま窓からこちらを見てくれたらな……という妄想をずっとしていると、少しだけ生きる力が湧いてくる。
今日は、もしも先輩が気づいてくれたら渡すために、一応 チョコマドレーヌも持ってきた。
そんな事をずっと考えていたからか、今日は珍しく 先輩の部屋に電気が灯った。
まるで、先輩が僕の気持ちに気付いてくれたみたいで。いつまでも期待で目が離せなかったけれど、その晩 先輩がたまたま窓から顔を出す事は なかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる