志乃沙

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〆という名の、蛇足

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はっとした時には、もう小夜は消えていた。
代わりに、テーブルに一束のハーブ。
そんの数分間のまどろみから、今度はハッキリと覚醒する。
すると、消えた小夜……美沙が確信的な笑みを浮かべていた。
姿形が違うのは当然だけど、姉妹なので顔のパーツはよく似てる。
「目、醒めた?」
睡眠の事じゃない、ニュアンスも含まれていた。
『うん。 このハーブって――』
「そう、ローズマリー」
美沙が手に取り、ユサユサと振るうと、小夜の香りがした。
「偶然、売っているの発見してね。生花だと、匂いも新鮮でしょ」
香りの違いは、これだった。
「お姉ちゃん、何か言ってた?」
『やっぱり、いつものアロマオイルの方がイイみたいだよ』
小夜の表情を思い出し、思わず苦笑する。
「えー せっかく買ってきたのに。わがままだな~お姉ちゃん」
頬を膨らませ腰に手を置く、分かりやすい姿は子供っぽい、
それが美沙の魅力でもあり距離が近くなった要因でもある。
「私たちのことは?」
『まぁ、仲良くって……』
そう――美沙は、伏し目がちに控えめに呟く。
私がそうであるように、
美沙も美沙で姉に対して複雑な思いをまだ捨てられずにいた。
「なんでお姉ちゃんは、私のトコロには来てくれないのかな」
さっきの小夜は、まどろみが見せた幻影。
それも、美沙がいたから……美沙を投影したからだろう。
『そのうち、美沙ちゃんにも会いに来てくれるよ』
ほんの少しの慰めの言葉に、静かに頷いた美沙の頭を撫でる。

美しい朱は、いつしか薄明になっていた。
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