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出入り禁止
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「あ、アトリ様、起こしてしまいましたか。申し訳ありません!」
「いったいどうしたのよ」
「いえ、魔石の買取金額が気に入らないと文句をいうお客様がいまして、出入り禁止を言い渡そうかと思っていたところです」
「そんくらいで出入り禁止とか言うもんじゃないわよ。で、その客はどこに?」
「そこで床に散らばった魔石を拾ってる男です。金額が気に入らなかったのか自分で持ってきた石を突然床に叩きつけたんです」
「それが本当なら随分と迷惑な奴だわね、って……ランジャ、本当にこのお客さんがそんなことをしたの?」
「はい。しかも私に殴りかかる真似をして脅されました。それで声が大きくなってしまったんです!」
「そう……それは酷いわね。きみぃ、なんでそんなことしたの?」
「してませんけど、でも僕とその人しかいなかったから証明はできないですね」
「え? その声はフトー?」
「はい。たぶん全部拾えたと思うんですけど……これ、アトリかギフにもう一回見てもらってもいいですか? この人には金貨三枚と言われたんですけど」
「買取金額で文句をつけたのは本当ということ?」
「文句はつけてないです。ただ少ないなとは思ったので、ギフにも見てもらおうと思ってギフを呼ぶようには言いましたけど。そうしたら突然、その人に魔石の入った袋を投げつけられたんですよ」
「あなたが叩きつけたんじゃなくて、この子が投げつけたのね? ランジャ、あなたの査定ではこの一袋で金貨三枚なのね?」
「いえ、金貨四枚です。間違いなく四枚渡しました。それにこの人は嘘を言ってます!」
「おいおい……僕は金貨三枚しか貰ってないんだけど」
そう言って握っていた手を開いて三枚の金貨を見せた。
「この男は嘘をついてます!」
「ノーラ来て! ランジャ、あなたの体を調べさせてもらうわね」
「この男の方を信じるんですか!? ではもうここではやっていけません! 帰らせていただきます!!」
「はいごめんね~」
音もなく現れたノーラが、受付嬢が逃げ出すのを阻止して手首を後ろ手に捻り上げた。
クレアボヤンスの俯瞰画面で見て、ノーラが来たのは分かってたけど、油断したら背後からブスリと刺されるまで気付かないかも知れない。やっぱり、気を付けなければいけないのは盗賊系のスキル持ちだな。
ノーラはぱっぱっぱっと受付嬢の体を叩きまわり、受付嬢の袖口から金貨を一枚取り出した。
「あっ」
「ランジャちゃん、これは良くないね」
「最近帳簿がおかしかったのと、ビッキー達の羽振りが良くなったの気になってたのよねぇ。ちょっと詳しく話を聞かせてもらうわよ。ガロいる?」
「ほいよ」
これは驚いた。室内にガロが居ることにはまったく気付けてなかった。これは真面目にサーチ系の魔法を創造っておかないとな。
「ちょっと街の管理ギルドと狩人ギルド、それと冒険者ギルドから人呼んできてくれる?」
「あいよ」
相変わらずキャラが安定してないガロだけど、アトリの言葉で素早く動く姿は映画にでてくるスパイのように決まってるな。
「フトー、悪いけど時間もらえるかしら」
「いや、面倒なんで帰ります」
「ちょ、自分が関わったんだから最後まで面倒みなさいな」
「いえ、僕はこのギルドの人に詐欺と冤罪食らわされそうになった被害者ですけど、別に被害を届け出たりはしてないですし、するつもりもないので……この件に絡めて色々と解決したいのはアトリ側の方なのでは?」
「きみぃ、意外と見えてんのね」
「ブラックな会社で社会人やってましたからね。まあ、その時は嘆きながらも働き続けることしかできませんでしたけど」
「なるほどねぇ。んで? 買い取りはどうするの?」
「ん~……とりあえず、大丈夫です。あ、そうだ、ゲストカードを返しておきますね」
「ちょっとお。それ受け取ったら、後であたしがギフに怒られるやつじゃない?」
「そこはギルド内でご対応よろしくお願いします」
このギルド、僕にとっては色々なことが起こりすぎる。しかも、僕に迷惑な話が多すぎるのが問題だ。なにか問題が起こっては解決してるから別にいいような気もするけど、そもそも問題なんて起こらない方がいい訳で。
その日の夜。
僕はもう一度ギルドに顔を出した。
朝の話はギフにもちゃんと伝わってたらしく、そのことを謝られるとともに結末を説明された。
朝の受付嬢や、前に僕に絡んできたビッキー、プニルというチャレンジャーは現地人だったそうだ。しかも、現地人の管理ギルドから「交流」の為に派遣されてきた人たちだったそうだ。つまり、現地人のギルドと召喚された闘士のギルド間でのトラブルだったと。
そもそも現地人を受け入れるメリットがなかったのだけど、今回のことで受付嬢とビッキー、プニルは街のギルドにお返しすることになったそうだ。
その話の後、そろそろギルドに正式に入らないかと誘われたけど、やっぱり断らせてもらった。
魔鉱窟が気にならない訳ではないけど、それもまあ、なんとかできそうだし。
ただ、魔石は今後もここに売りに来ることを約束させられた。なので、今朝の魔石を再度見てもらった。金貨五枚と大銀貨二枚になった。
あとは地下四階の魔物について、有料で情報提供して、その後は部屋に戻った。
なんともバタバタした一日だった。
「いったいどうしたのよ」
「いえ、魔石の買取金額が気に入らないと文句をいうお客様がいまして、出入り禁止を言い渡そうかと思っていたところです」
「そんくらいで出入り禁止とか言うもんじゃないわよ。で、その客はどこに?」
「そこで床に散らばった魔石を拾ってる男です。金額が気に入らなかったのか自分で持ってきた石を突然床に叩きつけたんです」
「それが本当なら随分と迷惑な奴だわね、って……ランジャ、本当にこのお客さんがそんなことをしたの?」
「はい。しかも私に殴りかかる真似をして脅されました。それで声が大きくなってしまったんです!」
「そう……それは酷いわね。きみぃ、なんでそんなことしたの?」
「してませんけど、でも僕とその人しかいなかったから証明はできないですね」
「え? その声はフトー?」
「はい。たぶん全部拾えたと思うんですけど……これ、アトリかギフにもう一回見てもらってもいいですか? この人には金貨三枚と言われたんですけど」
「買取金額で文句をつけたのは本当ということ?」
「文句はつけてないです。ただ少ないなとは思ったので、ギフにも見てもらおうと思ってギフを呼ぶようには言いましたけど。そうしたら突然、その人に魔石の入った袋を投げつけられたんですよ」
「あなたが叩きつけたんじゃなくて、この子が投げつけたのね? ランジャ、あなたの査定ではこの一袋で金貨三枚なのね?」
「いえ、金貨四枚です。間違いなく四枚渡しました。それにこの人は嘘を言ってます!」
「おいおい……僕は金貨三枚しか貰ってないんだけど」
そう言って握っていた手を開いて三枚の金貨を見せた。
「この男は嘘をついてます!」
「ノーラ来て! ランジャ、あなたの体を調べさせてもらうわね」
「この男の方を信じるんですか!? ではもうここではやっていけません! 帰らせていただきます!!」
「はいごめんね~」
音もなく現れたノーラが、受付嬢が逃げ出すのを阻止して手首を後ろ手に捻り上げた。
クレアボヤンスの俯瞰画面で見て、ノーラが来たのは分かってたけど、油断したら背後からブスリと刺されるまで気付かないかも知れない。やっぱり、気を付けなければいけないのは盗賊系のスキル持ちだな。
ノーラはぱっぱっぱっと受付嬢の体を叩きまわり、受付嬢の袖口から金貨を一枚取り出した。
「あっ」
「ランジャちゃん、これは良くないね」
「最近帳簿がおかしかったのと、ビッキー達の羽振りが良くなったの気になってたのよねぇ。ちょっと詳しく話を聞かせてもらうわよ。ガロいる?」
「ほいよ」
これは驚いた。室内にガロが居ることにはまったく気付けてなかった。これは真面目にサーチ系の魔法を創造っておかないとな。
「ちょっと街の管理ギルドと狩人ギルド、それと冒険者ギルドから人呼んできてくれる?」
「あいよ」
相変わらずキャラが安定してないガロだけど、アトリの言葉で素早く動く姿は映画にでてくるスパイのように決まってるな。
「フトー、悪いけど時間もらえるかしら」
「いや、面倒なんで帰ります」
「ちょ、自分が関わったんだから最後まで面倒みなさいな」
「いえ、僕はこのギルドの人に詐欺と冤罪食らわされそうになった被害者ですけど、別に被害を届け出たりはしてないですし、するつもりもないので……この件に絡めて色々と解決したいのはアトリ側の方なのでは?」
「きみぃ、意外と見えてんのね」
「ブラックな会社で社会人やってましたからね。まあ、その時は嘆きながらも働き続けることしかできませんでしたけど」
「なるほどねぇ。んで? 買い取りはどうするの?」
「ん~……とりあえず、大丈夫です。あ、そうだ、ゲストカードを返しておきますね」
「ちょっとお。それ受け取ったら、後であたしがギフに怒られるやつじゃない?」
「そこはギルド内でご対応よろしくお願いします」
このギルド、僕にとっては色々なことが起こりすぎる。しかも、僕に迷惑な話が多すぎるのが問題だ。なにか問題が起こっては解決してるから別にいいような気もするけど、そもそも問題なんて起こらない方がいい訳で。
その日の夜。
僕はもう一度ギルドに顔を出した。
朝の話はギフにもちゃんと伝わってたらしく、そのことを謝られるとともに結末を説明された。
朝の受付嬢や、前に僕に絡んできたビッキー、プニルというチャレンジャーは現地人だったそうだ。しかも、現地人の管理ギルドから「交流」の為に派遣されてきた人たちだったそうだ。つまり、現地人のギルドと召喚された闘士のギルド間でのトラブルだったと。
そもそも現地人を受け入れるメリットがなかったのだけど、今回のことで受付嬢とビッキー、プニルは街のギルドにお返しすることになったそうだ。
その話の後、そろそろギルドに正式に入らないかと誘われたけど、やっぱり断らせてもらった。
魔鉱窟が気にならない訳ではないけど、それもまあ、なんとかできそうだし。
ただ、魔石は今後もここに売りに来ることを約束させられた。なので、今朝の魔石を再度見てもらった。金貨五枚と大銀貨二枚になった。
あとは地下四階の魔物について、有料で情報提供して、その後は部屋に戻った。
なんともバタバタした一日だった。
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