自由に自在に

もずく

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近況

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「という感じで、今はダンジョンで毎日大銀貨五枚は稼げてるんすよ」
 熊野君は自慢気にそう言った。
「そうなんですね、凄い。ところでダンジョンではどんな魔物がでるんですか?」
 彼から魔鉱窟ダンジョンのことを聞きたいので、僕は彼の話に頷きながら続きを促した。
 だが、聞きたい話はなかなか聞けない。
「そうなんすよ。俺の稼ぎがあればなんとかやってけそうっす。坂上さんが抜けた時はどうしょうかってちょっと焦ったんすけど、冒険者ギルドでスカウトスキル持ちを探してたパーティーがあって、うまくそこに入れたのは運がよかったっす」
「へぇ、そうなんだ。そう言えばその坂上さんに少し前に会いましたよ。ところで」
「愛那ちゃんに会ったんですか? 彼女、元気でしたか?」
「え、ええ。はい。新しいお仲間だったんですかね。何人かと一緒に行動してるみたいでした。元気そうでしたよ」
 いきなり山口さんが大声で食いついてきたので驚いたけど、そんなに心配なら別れなければよかったのに。まあ痴情の縺れとかなのかな。興味ないので詳しくは聞きませんが。
「ごめん。坂上さんのこと心配っすよね。俺があんなこと言ったから……」
「違うの。別に真司君を責めたい訳じゃないわ。ただ、愛那ちゃんのことが心配なだけよ」
 いや、そういうのいらないです。
「杏子さんは優しいっすね」
「違うの。優しいのは愛那ちゃんの方なのよ」
「???」
 きょとんとした顔の熊野君。
 僕はもっときょとんとさた顔をしてるんだろうか。
 とりあえず、僕はコーヒーを飲むことにした。この世界に先に来ていた人達が、色々な物を発見、再現性してくれているのはありがたい。まったく同じという程ではないけど、飲み物や食べ物に関しては、元の世界と近い物が幅広く取り扱われていている。ただ、そういった物は結構いいお値段がする。このコーヒーも一杯銀貨一枚だ。なかなか気軽に飲めるものじゃない。
「……私は魔術師ギルドの方で魔法の研究員になれないか相談中なんです。なんか、やっぱり戦うの向いてないみたいなので…………フトウさんは何をしてるんですか?」
「魔術師ギルドですか。そう言えばそういうギルドもありましたね。ギルドを移籍されたんですか?」
「はい。ギルドの移動はそんなに難しいものじゃなかったです。やっぱり、闘士って、この街ではかなり優遇されてるみたいですよ」
「そっすね。俺らってスキル持ってる分この世界の人達より強いっすからね」
「違うわ。この街の仕組みが雑というか、闘士に住みやすいみたいよ。他の領だと、闘士に重税を科して結果的にダンジョンに入るのを強制してる所もあるみたいなの」
 それは嫌だな。
 チャールズ男爵は嫌だけど(最初にちらっと見ただけだけどね)この街は意外に気に入ってきてるし、ここに定住するのがいいのかな。
 いや、自分でも調べてみないとな。人の言うことを鵜呑みにしたらダメだ。
「そうなんすか。流石杏子さんっす。なんでも知ってるっすね」
「おだてないで。それに、これは冒険者ギルドで聞いただけの話だから、実際のところは分からないしね。一応、他の街からこの街にやって来た闘士の人から聞いた話らしいんだけど」
「へー。やっぱ杏子さんは凄いっすね」

 その後もあまり身のある話はできなかった。
 よく分かったのは、熊野君がダンジョンで稼いできて、山口さんを養おうとしていることと、山口さんはダンジョンに入らずにお金を稼ごうとしていることくらいだろうか。
 ああ、山口さんに怪我の具合を聞いたら、熊野君が大袈裟なだけで大した怪我ではなかったらしい。でも、その怪我をした戦闘のせいでダンジョンが怖くなったのは事実だそうだ。肉体的な怪我ではなくて、精神的にやられてしまったようだ。
 それにしても、熊野君は山口さんにかなり入れ込んでる感じだったな。山口さんの方はよく分からなかったけど。

 僕らは店を出るとそこで別れることにした。
 熊野君がご馳走すると言ってくれたのだけど、歳上として自分の分くらいはちゃんと払わないとと思って断った。

 中途半端な時間だ。
 夕方の少し前くらい。
 どうしようかと悩んだ僕は、今日はもういいかと諦めて自分の部屋に戻った。
 明日は大根掘りに行って、新しく手に入れた魔法を試してみよう。
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