自由に自在に

もずく

文字の大きさ
上 下
7 / 94

ギルド再び

しおりを挟む
 ギルドに向かっている途中で熊野君と会った。女性陣は買い物が終わらないので散歩がてら冒険者ギルドに向かうところだったそうだ。
 ギルドに入ってないと(身分証を持ってないと)街から無料で出れないらしい、というホットな話題を提供したところ、「あ、ギルドカードのことっすね」と言って身分証(=ギルドカード)を見せてくれた。

 カードにはいくつか気になる情報があった。

 クマノ シンジ
 ノマル 男 18歳
 スカウト

 まず一つ目。何故に文字が現地の言葉なのか。この世界の技術で作られるから仕方ないことなのかも知れないけど。
 そして二つ目はノマルという単語が何を意味するのかということ。
 三つ目はスカウトという単語。ボーイスカウトとかのスカウトだろうか。

 冒険者ギルドまでの道すがら、熊野君に聞いてみようと思ったのだけどすぐに着いてしまったのでギルド内で聞いてみるとしよう。
    熊野君が気軽な感じでギルドのドアを開く。
 奥のテーブルには四人の男女が座っていて、その更に奥のカウンターには昨日の女の人とは違う人がいた。

「よおシンジ君」
「ちわっす」
「ちゃんと装備を買ってきたみたいだな」
「うす。昨日はあざっした」
「気にするな。それでこっちの人は?」
「昨日話してたもう一人の人っす」
「あ、フトウと言います。昨日もこちらに来たんですが日本語が話せる人がいなくて」
「あ、パティが言ってた人か。今日は大丈夫だぜ」
「でしょうね……」

 僕はちょっとげんなりしていた。なんと、カウンターにいたのがリーさんだったからだ。

「こんにちはリーさん。ここにいる理由を聞いても?」
「フトー、怖い顔しないでよ。私は個人的にギルド案内のバイトしてただけよ。ここが私の本来のギルドね」
「いい人だと思ってたのに残念です」
「私いい人よー」

 はぁ……どうするか。ここで登録してしまっていいんだろうか。いや、今の僕に選択肢がほとんどないのは分かってる。分かってるんだけど、なんだかおちょくられたみたいで気分が良くない。
 我ながら心が小さいと思うけど、こんな世界に呼ばれたその日に、不安定な状況で親切な人に出会えたと思ってたその相手が、実は全部分かった上でバイトとしての職務を全うしてただけで、それが僕からしてみれば結果的に前説明もなく金を取られただけという……いや、結局は僕が浅はかで、強がって平静を装っていただけのお馬鹿さんだったということなんだろうけど。
 そしてリーさんは自分がやるべき事をやっただけだ。
 のだが。

「ん~、やっぱりやめておきます。熊野君、悪いんだけどやることができたから今日は君達と外に行けないです。申し訳ない」
「え、何言ってんすか。なんでここで登録しないんすか?」
「僕の気持ちの問題なんだ。申し訳ない」
「や、昨日は悪かたよ。お金返すから」
 お金を返してもらうとか、そういう話じゃないんだよな。
 もう完全に気持ちの問題だ。
 逆に「返す」とか言われたら、僕がそれを強要してるようで更に気分が悪くなる。
 僕は熊野君を残して冒険者ギルドを出た。

 そして、ギルド通りを歩きながら現地のギルドをチェックしていく。看板はほとんどがこの世界の共通語で書かれているから読むことができる。
 商人ギルド、傭兵ギルド、狩人ギルドなどがあるようだ。
 これからの僕の活動的には狩人ギルドが向いてるだろうか。獣や魔物の肉や素材の買い取りは商人ギルドか狩人ギルドでできると昨日聞いていた。リーさんから。

「すみません、ちょっと話を聞きたいんですが」
「はい、いらっしゃい」
 ギルドというのはみんな似たような造りなんだろうか。テーブル席がいくつかあって、奥にカウンターがある。
 ここのカウンターの上には「買い取り窓口」と書かれた木のプレートがぶら下がっていて、二人の男女がいるけど他に人がいない。買い取りの話ではないけど、今はこの人たちに聞くしかないだろう。
「外に狩りに行きたいんですがここでギルドカードを作ってもらうことってできないでしょうか」
 僕は「いらっしゃい」と言ってくれた男性の方にストレートな質問をした。
「できるよ。つってもなんか納品実績がないと駄目だけどね。銀貨五枚で仮のギルド証を貸してやれるけどどうする? ちゃんとしたギルド証を作る時に仮証を返してくれたら銀貨四枚を返すからお得だよ」
「借ります!」
 本当はもっと聞かなきゃいけないことがあったと思うんだけど、直感的に「ここでいい」と思い、反射的にここで仮のギルドカードを貸してもらうことにしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...