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街から出れない
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僕は朝食をさっと食べ終え、食堂に三人を残して部屋に戻った。
が、席を離れる直前に山口さんに待ったをかけられた。彼女は紙を取り出して「フトウさんの考え」と書いて、その紙とペンを渡してきて、紙の裏に僕が考えていることを書いてきてくれと言ってきた。
部屋に戻った僕は、渡された紙に「人里を離れて暮らす」と書いてみた。
これは現時点での最終目標みたいなものだ。
安全に生きていく為に強くなる必要があると思うし、先のことを考えればお金なんかを貯める必要もある。だから直近の方針では狩猟や魔物狩りをするつもりではいるのだけど。
二十分くらい待ってから一階の食堂に戻る。
彼らは食事を食べ終えているようたが、まださっきのテーブルにいた。
僕は折って内容が見えないようにした紙をテーブルに置いた。
「書いてきましたよ」
「私達もまとまりました」
長居するつもりはなかったんだけど、椅子に座るように促されたので仕方なく座る。
三人が頷き合うと、代表して熊野くんが口を開いた。
「俺らの方針っすけど、まずはここいら辺とゆーか、この世界で生き残れるように強くなりたいと思ってるっす。だから最初は実践訓練っすね。で、最終的にはこの世界の貴族とかに利用されないようにして生きつつ、あるか分かんないすけど元の世界に帰る方法を探したいっす」
思ったよりもちゃんとした答えが返ってきて少し驚いた。
しかし元の世界に帰る、か。
正直、僕は前の生活にあまり未練があまりない。結婚もしてなかったし付き合ってる人もいない。親元を離れての一人暮らしも数年経っているからか、郷愁の思いや父母に会えなくなることに不安や寂しさも特にない。
仕事は忙しいだけでやりがいとかは特になかったし……だから元の世界に帰りたい気持ちは特になかったりする。
まあ、僕の感覚がおかしいのだろうなと思う。彼らのように家に帰りたいと思うのが普通なんだろう。
「フトウさん?」
「え? あ、すみません」
僕はボーッとしてたようだ。
「それで、フトウさんのこれからの方針はどうですか?」
僕は紙を上から押さえて、彼ら三人の間にズズズっと移動した。
代表して山口さんがそれを裏返す。
「人里を離れて暮らす、ですか」
「なにそれ~、フトウさん、元の世界に帰る気がないの?」
「いや、俺、その考えも分かるっすよ」
三者三様の反応だ。
「すぐにでも何処か山の中とかに向かう予定ですか?」
「いえ。当面は資金稼ぎと、自分がここで生きていけるかの確認をするつもりです」
流石にレベルアップの為という言い方は子供っぽいかと思って避けておいた。
「なら、最初は一緒に行動した方が安全じゃないでしょうか」
「……はい、僕もそう思います」
「よっしゃー」
「いえーい」
熊野くんと坂上さんがハイタッチをしたところで、女将さんから「まだ朝の七時前なんだがね」と声がかかり、僕らは声のボリュームを下げたのだった。
相談した結果、今日の午前中は準備時間になった。午後に街の南東の門で待ち合わせして外の魔物や動物を狩りに行く予定だ。
三人組は昨夜、冒険者ギルドに登録してきたそうだ。その話の流れで知ったんだけど、山口さんは簡単な英語ならある程度やりとりできるらしい。若いのに凄いな。
彼らは装備を買いに行くらしい。僕は既に必要そうな物は買ってあるので、ちょっと一人で検証作業をしてこよう。
と思ったのだが。
街の西にある門から外に出ようとしたところで門番から待ったの声がかかった。
「身分証をどうぞ」
これは身分証を受け取ってください、という意味ではなく、身分証の提示をしてくれという意味だ。
「持ってないです」
「では銀貨二枚をいただきます」
「街に入る時も銀貨二枚かかりますか?」
「いえ、街に入る際には銀貨五枚が必要になります」
おお……それは痛い。
「身分証ってどこで貰えますか」
「住民登録をされるか、ギルドに入れば……もしかして闘士の方ですか?」
「いえ……いや、まあそんな感じの者です」
「やはりそうでしたか。それでしたらまずはギルドにて登録されることをお勧めします」
「そうですか。分かりました。教えてくれてありがとうございます」
召喚された闘士のことって一般の人も知ってるもんなんだな。まあ、街中で普通に異世界の文字で看板掲げてるくらいなんだから当たり前なのか。
それにしても親切な門番さんだった。
おかけで学習費用として銀貨七枚を失わずに済んだのはラッキーだ。
それにしても身分証明書か。
あの迷惑な貴族が治める街に住民登録したくはないから、やっぱりギルドになるかな。
ギルド案内に行って話を聞きたい気もするけど、銀貨二枚がかかることを考えるとそれも避けたい。リーさんはいい人だったからまた話したい気はするんだけど。
やっぱり冒険者ギルドかな。日本語も書かれてたし、きっと日本語が話せるスタッフもいるだろう。よし、そうとなれば行ってみるか。
が、席を離れる直前に山口さんに待ったをかけられた。彼女は紙を取り出して「フトウさんの考え」と書いて、その紙とペンを渡してきて、紙の裏に僕が考えていることを書いてきてくれと言ってきた。
部屋に戻った僕は、渡された紙に「人里を離れて暮らす」と書いてみた。
これは現時点での最終目標みたいなものだ。
安全に生きていく為に強くなる必要があると思うし、先のことを考えればお金なんかを貯める必要もある。だから直近の方針では狩猟や魔物狩りをするつもりではいるのだけど。
二十分くらい待ってから一階の食堂に戻る。
彼らは食事を食べ終えているようたが、まださっきのテーブルにいた。
僕は折って内容が見えないようにした紙をテーブルに置いた。
「書いてきましたよ」
「私達もまとまりました」
長居するつもりはなかったんだけど、椅子に座るように促されたので仕方なく座る。
三人が頷き合うと、代表して熊野くんが口を開いた。
「俺らの方針っすけど、まずはここいら辺とゆーか、この世界で生き残れるように強くなりたいと思ってるっす。だから最初は実践訓練っすね。で、最終的にはこの世界の貴族とかに利用されないようにして生きつつ、あるか分かんないすけど元の世界に帰る方法を探したいっす」
思ったよりもちゃんとした答えが返ってきて少し驚いた。
しかし元の世界に帰る、か。
正直、僕は前の生活にあまり未練があまりない。結婚もしてなかったし付き合ってる人もいない。親元を離れての一人暮らしも数年経っているからか、郷愁の思いや父母に会えなくなることに不安や寂しさも特にない。
仕事は忙しいだけでやりがいとかは特になかったし……だから元の世界に帰りたい気持ちは特になかったりする。
まあ、僕の感覚がおかしいのだろうなと思う。彼らのように家に帰りたいと思うのが普通なんだろう。
「フトウさん?」
「え? あ、すみません」
僕はボーッとしてたようだ。
「それで、フトウさんのこれからの方針はどうですか?」
僕は紙を上から押さえて、彼ら三人の間にズズズっと移動した。
代表して山口さんがそれを裏返す。
「人里を離れて暮らす、ですか」
「なにそれ~、フトウさん、元の世界に帰る気がないの?」
「いや、俺、その考えも分かるっすよ」
三者三様の反応だ。
「すぐにでも何処か山の中とかに向かう予定ですか?」
「いえ。当面は資金稼ぎと、自分がここで生きていけるかの確認をするつもりです」
流石にレベルアップの為という言い方は子供っぽいかと思って避けておいた。
「なら、最初は一緒に行動した方が安全じゃないでしょうか」
「……はい、僕もそう思います」
「よっしゃー」
「いえーい」
熊野くんと坂上さんがハイタッチをしたところで、女将さんから「まだ朝の七時前なんだがね」と声がかかり、僕らは声のボリュームを下げたのだった。
相談した結果、今日の午前中は準備時間になった。午後に街の南東の門で待ち合わせして外の魔物や動物を狩りに行く予定だ。
三人組は昨夜、冒険者ギルドに登録してきたそうだ。その話の流れで知ったんだけど、山口さんは簡単な英語ならある程度やりとりできるらしい。若いのに凄いな。
彼らは装備を買いに行くらしい。僕は既に必要そうな物は買ってあるので、ちょっと一人で検証作業をしてこよう。
と思ったのだが。
街の西にある門から外に出ようとしたところで門番から待ったの声がかかった。
「身分証をどうぞ」
これは身分証を受け取ってください、という意味ではなく、身分証の提示をしてくれという意味だ。
「持ってないです」
「では銀貨二枚をいただきます」
「街に入る時も銀貨二枚かかりますか?」
「いえ、街に入る際には銀貨五枚が必要になります」
おお……それは痛い。
「身分証ってどこで貰えますか」
「住民登録をされるか、ギルドに入れば……もしかして闘士の方ですか?」
「いえ……いや、まあそんな感じの者です」
「やはりそうでしたか。それでしたらまずはギルドにて登録されることをお勧めします」
「そうですか。分かりました。教えてくれてありがとうございます」
召喚された闘士のことって一般の人も知ってるもんなんだな。まあ、街中で普通に異世界の文字で看板掲げてるくらいなんだから当たり前なのか。
それにしても親切な門番さんだった。
おかけで学習費用として銀貨七枚を失わずに済んだのはラッキーだ。
それにしても身分証明書か。
あの迷惑な貴族が治める街に住民登録したくはないから、やっぱりギルドになるかな。
ギルド案内に行って話を聞きたい気もするけど、銀貨二枚がかかることを考えるとそれも避けたい。リーさんはいい人だったからまた話したい気はするんだけど。
やっぱり冒険者ギルドかな。日本語も書かれてたし、きっと日本語が話せるスタッフもいるだろう。よし、そうとなれば行ってみるか。
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