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アブクマのウォーカーズ
11 ひとやすみできない
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最後の最後で微妙な出来事があったものの、兎にも角にも26階層の攻略が完了した。
この広い空洞に、次の魔物がいつ湧くか分からなかったが、安全地帯に戻る気はしなかった。
誰がここまで来るとも限らないのだから、ここで体力を回復し、落ち着いたなら一番乗りで27階層に行かなくては。
もちろん、この考え方は多くの危険を含んでいる。
一旦地上に戻り、26階層を攻略したと報告し、再度準備を整えてから次の階層に向かうのが一般的で正しいはずだ。
過去に『神剣に選ばれし者』たちが階層をクリアし、新たなる道を切り開いた時にもそうしていた。
それは名誉なことなのだ。
誰かに誇れることなのだ。
みんなの称賛を受けられるものなのだ。
ただ。
コイルにはそんなことはどうでもいいことだった。
自分のやりたい事を、自分のやりたいようにやっただけなのだ。
探索できる階層が増えたことは喜ばしいことだが、それをわざわざ誰かに伝えるためだけに、いちいち地上に戻るのは時間が勿体なかった。
アブクマダンジョンで活動を始めてから、初めてまだ誰も見たことのない迷宮を探索できるチャンスなのだ。
これを三週間後まで我慢しなければならないなんて、それはちょっと許容できない話だった。
しかも、次回はここに来るまでにもっと時間がかかってしまう可能性もあるのだから尚更だ。
ただ、マヨイたちが帰ると言うなら、それを止めるつもりはなかった。寧ろ20階層くらいまでなら送っていってあげようかと思ってるくらいだ。
だが、彼女たちは一緒に行くと言う。
まあ、ならば来れば良いと思う。
あまりにも危険なエリアなら、どうにかして戻りの渡り扉を探すまでだ。
交代しながら六時間ほど休んだ。
ヌーコに例のお香を焚いてもらったが、全員が完全回復石するにはそれだけの時間が必要になるほど、俺だけでなく、全員が強くなったのだと感じる。
「さて。何が出てもコイルのもの。もしもコイルが要らないものなら、コイルの判断で私たちにくれる。それか売ってお金を分配する、でいい?」
「ああ。っていうか、俺に良すぎないか、その条件」
「私はコイルくんに助けられただけでおなかいっぱいよ? 膝枕だけじゃ返しきれないくらいの恩を貰ったわ」
膝枕、の単語にマヨイとヌーコが反応する。
生命力も精神力も回復したし、食事もして英気を養えたもんだから元気一杯だ。
だが、俺への攻撃はやめて欲しい。
あらかじめ、その件については俺に絡むなと言っておいたら、追いかけっこは三人でやってくれた。
「これは……」
「なんの飴?」
「……コイルくん、分かるのね?」
マヨイとヌーコが、宝箱から出てきたキャンディを見て俺に聞くもんだから、ソウブンゼに何かしらバレたようだ。
まあ、さっきの戦いで色々と見せてしまったから、もう隠し通すのは限界なのかもしれないからいいんだけど。
だが、一応、マヨイとヌーコの目をしっかりと見ておく。わざとなのか、それとも素でやらかしたのか。
「わ、わざとじゃない、よ……ってか、ごめん。私、駄目だね」
まあ、一緒に戦ってるのに能力を秘密にしながらやってくのも限界か。俺自身にしたって、もうボロを出しまくってるわけだし。
「そうだな。もう少し周りが見えるようになってくれると助かる。まあ、俺もソウブンゼの手足をくっつけちゃってるしな。ヌーコのことばかり責められないし、もう今更の話だけど」
「そんなことできるの、あたしは知らなかった」
「別行動してる間に身に着けた力だからな」
本当は、それ以前に生命力を回復できることが分かったときに予想できてたことだけど。
自分の身体では試し済みだったけど。
でも他人に使うのは、さっきのがぶっつけ本番だったけど。
実は、オオウチジュクダンジョンの攻略は野良パーティー、つまり、適当に誰かとパーティーを組んでやったのだと話したが、実は全部一人でやった。
しかも1階層から。
だから、正直な所、かなりの数の報酬を手に入れてるので、本当に新たに手に入れた凄い力もあったりするのだが、それはほとんど教えてない。
努力ではどうにもならない部分について補強してくれる報酬は本当に強力だから。
そして、今回の報酬もなかなかに魅力的なものだ。さっきは俺次第的な話でまとまってたけど、さてどうなるか。
「《シルフプロテクション》だってさ。常に《ウインドシールド》の効果があるらしい。でも、普段の生活の中ではほとんど分からないくらいに薄い風の膜ができるくらいだそうだよ」
「え?」
「え? そんなに詳しく分かるの?」
あれ? またやらかしたか?
でも、念じれば、スキルの概要は分かるものだろ? このくらいの情報なら分かってもおかしくないんじゃないのか?
「コイルくんは管理局付きの魔道具鑑定師なみの能力を持ってるのね」
「ん?」
「使わないでそこまで分かるのは、《宝具鑑定》のようなスキルが必要なのよ」
へー、そうなんだ……
「まあ、それはいいとして。これ、誰が使う?」
「良くないからね? パーティーなんだから教えてくれないと」
「ヌーコ、追求しない約束は……」
「何言ってんのマヨイちゃん! この人の秘密に触れないでいたらまたすぐ一人でどっかいっちゃうよ!?」
「「「聞かせて(よ!?)(ね?)」」」
……面倒くさいなぁ。
この広い空洞に、次の魔物がいつ湧くか分からなかったが、安全地帯に戻る気はしなかった。
誰がここまで来るとも限らないのだから、ここで体力を回復し、落ち着いたなら一番乗りで27階層に行かなくては。
もちろん、この考え方は多くの危険を含んでいる。
一旦地上に戻り、26階層を攻略したと報告し、再度準備を整えてから次の階層に向かうのが一般的で正しいはずだ。
過去に『神剣に選ばれし者』たちが階層をクリアし、新たなる道を切り開いた時にもそうしていた。
それは名誉なことなのだ。
誰かに誇れることなのだ。
みんなの称賛を受けられるものなのだ。
ただ。
コイルにはそんなことはどうでもいいことだった。
自分のやりたい事を、自分のやりたいようにやっただけなのだ。
探索できる階層が増えたことは喜ばしいことだが、それをわざわざ誰かに伝えるためだけに、いちいち地上に戻るのは時間が勿体なかった。
アブクマダンジョンで活動を始めてから、初めてまだ誰も見たことのない迷宮を探索できるチャンスなのだ。
これを三週間後まで我慢しなければならないなんて、それはちょっと許容できない話だった。
しかも、次回はここに来るまでにもっと時間がかかってしまう可能性もあるのだから尚更だ。
ただ、マヨイたちが帰ると言うなら、それを止めるつもりはなかった。寧ろ20階層くらいまでなら送っていってあげようかと思ってるくらいだ。
だが、彼女たちは一緒に行くと言う。
まあ、ならば来れば良いと思う。
あまりにも危険なエリアなら、どうにかして戻りの渡り扉を探すまでだ。
交代しながら六時間ほど休んだ。
ヌーコに例のお香を焚いてもらったが、全員が完全回復石するにはそれだけの時間が必要になるほど、俺だけでなく、全員が強くなったのだと感じる。
「さて。何が出てもコイルのもの。もしもコイルが要らないものなら、コイルの判断で私たちにくれる。それか売ってお金を分配する、でいい?」
「ああ。っていうか、俺に良すぎないか、その条件」
「私はコイルくんに助けられただけでおなかいっぱいよ? 膝枕だけじゃ返しきれないくらいの恩を貰ったわ」
膝枕、の単語にマヨイとヌーコが反応する。
生命力も精神力も回復したし、食事もして英気を養えたもんだから元気一杯だ。
だが、俺への攻撃はやめて欲しい。
あらかじめ、その件については俺に絡むなと言っておいたら、追いかけっこは三人でやってくれた。
「これは……」
「なんの飴?」
「……コイルくん、分かるのね?」
マヨイとヌーコが、宝箱から出てきたキャンディを見て俺に聞くもんだから、ソウブンゼに何かしらバレたようだ。
まあ、さっきの戦いで色々と見せてしまったから、もう隠し通すのは限界なのかもしれないからいいんだけど。
だが、一応、マヨイとヌーコの目をしっかりと見ておく。わざとなのか、それとも素でやらかしたのか。
「わ、わざとじゃない、よ……ってか、ごめん。私、駄目だね」
まあ、一緒に戦ってるのに能力を秘密にしながらやってくのも限界か。俺自身にしたって、もうボロを出しまくってるわけだし。
「そうだな。もう少し周りが見えるようになってくれると助かる。まあ、俺もソウブンゼの手足をくっつけちゃってるしな。ヌーコのことばかり責められないし、もう今更の話だけど」
「そんなことできるの、あたしは知らなかった」
「別行動してる間に身に着けた力だからな」
本当は、それ以前に生命力を回復できることが分かったときに予想できてたことだけど。
自分の身体では試し済みだったけど。
でも他人に使うのは、さっきのがぶっつけ本番だったけど。
実は、オオウチジュクダンジョンの攻略は野良パーティー、つまり、適当に誰かとパーティーを組んでやったのだと話したが、実は全部一人でやった。
しかも1階層から。
だから、正直な所、かなりの数の報酬を手に入れてるので、本当に新たに手に入れた凄い力もあったりするのだが、それはほとんど教えてない。
努力ではどうにもならない部分について補強してくれる報酬は本当に強力だから。
そして、今回の報酬もなかなかに魅力的なものだ。さっきは俺次第的な話でまとまってたけど、さてどうなるか。
「《シルフプロテクション》だってさ。常に《ウインドシールド》の効果があるらしい。でも、普段の生活の中ではほとんど分からないくらいに薄い風の膜ができるくらいだそうだよ」
「え?」
「え? そんなに詳しく分かるの?」
あれ? またやらかしたか?
でも、念じれば、スキルの概要は分かるものだろ? このくらいの情報なら分かってもおかしくないんじゃないのか?
「コイルくんは管理局付きの魔道具鑑定師なみの能力を持ってるのね」
「ん?」
「使わないでそこまで分かるのは、《宝具鑑定》のようなスキルが必要なのよ」
へー、そうなんだ……
「まあ、それはいいとして。これ、誰が使う?」
「良くないからね? パーティーなんだから教えてくれないと」
「ヌーコ、追求しない約束は……」
「何言ってんのマヨイちゃん! この人の秘密に触れないでいたらまたすぐ一人でどっかいっちゃうよ!?」
「「「聞かせて(よ!?)(ね?)」」」
……面倒くさいなぁ。
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