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アブクマのウォーカーズ

10 紫色の超巨大トレント 4+SE

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 コイルのメイスが、木の幹トレントの一番抉れた箇所に当たり、パアンッ! と大きな音を響かせると、トレントは「ゔぼぼおおおおおおおおお」と長く鳴いて、そして動かなくなった。

 マヨイは回復石の力を使いすぎて、ヌーコはギリギリまで黒刀の斬撃を使いすぎて、ソウブンゼは心身共に疲れ果ててへたりこんでいた。

「終わった……の?」

 マヨイの言葉を待っていたかのように、紫色の超巨大な階層主トレント
は、大きな煙になって、そして大きな紫色の魔石を残して、消えた。

「うそ……本当に?」
「ぃよっっっっっしっ!」

 ソウブンゼは未だ目の前で起こった出来事を受け入れきれず、ヌーコはゴクッと簡単に飲み込んで喜びを声にした。
 これは、コイルとの付き合いの差がそのまま現れたのだろう。
 マヨイも地面に女の子座りでヘタりながらも、小さくガッツポーズをしてみた。ただ、その顔には少しの悔しさと、今も尚、平然と立っている男への憧憬が綯交ぜないまぜになった、なんとも表現し難いものが現れていた。

 一番動いていた男、コイルは、1時間以上にも及んだ戦いの中で、まるでダンスゲームでもやっているかの様に確実で堅実でキレのあるステップを踏み続けていたが、それほど呼吸を乱すこともなく、飄々として……いや、一瞬にしてその表情に殺気を孕み、その鋭い視線をマヨイに向けた。

 ダッと駆け出すが、間に合わないと見るやメイスを上に放り投げて、何も持たない手を棒手裏剣を持つ形にしてマヨイに向けて投げつけた。

 当のマヨイは驚きのあまり動けないでいた。
 コイルから唐突に殺気をぶつけられ、何がどうしたのかと慌てふためく前に何かを投げられたのだ。
 何も持ってなかったはずのコイルの手からは、棒状の何かが自分に向かって飛んできていたが、これは疲れ果てて気の抜けている自分には躱せるものではないと理解した。
 できたのは目が勝手に、反射的に閉じてしまったことくらいだった。

 だが、狙いが外れたのか、棒はマヨイに当たることはなかった。
 代わりにすぐ後ろから「ぐおっ」という男の声が聞こえてきた。
 ようやっと金縛り状態から回復したマヨイが振り返ると、そこには誰もいない。
 だが、何もない空中から赤黒い血がぽたりと垂れているのが見えた。

「マヨイ!」

 コイルのその声だけで、自分が何をすべきか理解した。
 顔は血の垂れる宙空を見たまま、すぐにコイルの方に向かって四つん這いになり、そして陸上のクラウチングスタートのように残った力でダッシュした。

 コイルは二度、三度、四度……既に数え切れないほどに腕を上下に振りながら、何かに集中していた。
 彼が腕を動かしながらも頭の中で唱えているのは「姿が見えなくなる異常状態の解除」の為の呪文だ。
 その魔法を掛けた術者の能力がコイルよりもかなり低いのか、呪文はそれほど長くなく、そしてそれは完成した。

 全員の目に、大剣を上段に構えた、銀髪褐色の大柄な男の姿が見えるようになった。
 目、頬、首、肩、腕、腹……上半身の至る所に1センチほどの穴が開き、その褐色の肌よりも濃く赤黒い血が、ある所からは吹き出し、ある所からは滴っていた。

「「シルバーエルフっ!?」」

 後方からヌーコとソウブンゼが驚きの声を上げながら、コイルの元にのたりのたりとやって来た。
 その足元にいるマヨイに声をかけ、互いの無事を確認する。

「ふっ……これは敵わん、な……」

 穴だらけの姿になったものの、精一杯の虚勢を張ってそう言いつつ、シルバーエルフの男は後ろに下がろうとしたが、足が地面から離れなかった為に無様に尻餅をついた。

「なん、だ、これは……」

 そう呟きながら、尻が地面に貼り付き、手も動かせなくなったことに気付き、絶望の表情に変わる。

「殺せ」

「俺は何も話さないぞ」と、そんな顔をした男を見て、コイルはこいつもか、と呆れてしまう。
 ソウブンゼとヌーコを見るが、二人とも首を横に振った。
 拷問をしたところで、望む情報など手に入るものではないのだ。それに、拷問はする方にも消耗を促すものだ。体力的にも、精神的にも。
 コイルが言っていたことが本当なら、シルバーエルフもダンジョンで生まれた魔物のうちの一つでしかないはずだ。
 知能、知性のあるなしと、情報を持っているかどうかは別の話だ。
 ならば、あと出来ることといえば、後顧の憂いをなくすことくらいなものだ。

「ダンジョンについて……」
「私は何も知らん。知ってたとして侵略者のお前たちに何を話すことがあるか」

 質問に被せるように断られてしまえば、もう、会話は無理と判断せざるを得ないか。
 コイルはそう諦めて、そして三人の仲間にはもう何も確認しないままに、メイスで男の頭を爆ぜたのだった。

 男は首がなくなっても、とりもち石についた箇所が絶妙にバランスをとったために倒れることはなかった。
 そして、そのまま紫色の煙になって、消えていった。
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