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アブクマのウォーカーズ

9 紫色の超巨大トレント 3

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 呪文が長い。
 何やらソウブンゼが語りかけてきているようだが、呪文詠唱の邪魔はしないでほしいものだ。
 しかし、この長さだと20点以上は持ってかれるな。精神力。
 でも、呪文が現れたってことは、五体不満足な状態は、異常状態が付与された状態で、それを解除することができる、ってことだ。
 かつての茶髪カリカリのようにはなりたくないから、絶対に世の中に公開したくないけど、これを他人の身体で検証できたのは良かった。
 今も緊急事態だけど、今後、似たような状況になった時に「助けられる」と自信を持って対応できるからな。

 一気に22点も精神力を使うと、疲労感と多少の吐き気感が襲ってくる。
 10秒だけ休ませてもらおう。

「なんで……どうしてなの? コイルくん、あなたはいったい……」

 疲れて喋りたくなかったし、俺の能力について追求しないことは約束したはずだからな。
 少し黙っててくれ。
 そう言う代わりに、俺は人差し指を立てて自分の口に当てから、それを彼女の口に当てた。
 彼女は何故か顔を真っ赤にして正座に座り直し、両手で俺の頭を自分の太ももの上に乗せた。
 いわゆる膝枕と言うやつだ。
 魔法を使ったせいで少し気持ち悪くなってた俺は、そのまま、少しだけその枕で休ませてもらった。

「あーーーーーーーーー!!」

 まあ、それから10秒もしないで、ファイアウォールを突っ切ってきた無茶苦茶なヌーコに叩き起こされた訳なんだが。
 面倒なので、対応はソウブンゼにお任せした。

 手足の修復付与魔法の解除に1分くらいかかってたからだろうか。もうそろそろファイアウォールが消えそうだ。
 俺は膝枕から立ち上がり、首を左右に傾けて調子を確認した。
 立ち上がる時に、「あっ」とソウブンゼの名残惜しそうな声が聞こえてしまった。
 吊り橋効果なんかいらないからな?
 本当だぞ?
 マヨイとヌーコだけでも手一杯なんだから。

「前に出る。二人は壁際から離れないようにな」

 そう言って、俺は二人の顔を見ることなく、トレントの反対側にいるマヨイの元に駆けていった。



「マヨイ、下がってくれ」

 トレントの攻撃を一手に引き受けてくれていたマヨイに声をかけると、マヨイは頷いて10歩ほどの距離をバックステップ2回で下がってくれた。

「ブンちゃんは大丈夫?」

 おっと。マヨイも戦いながら《ストーンオブエコー3》を使ってたのか。
 見た感じ、かなりトレントの攻撃を受けたようで、服は血で赤黒くなっているし、所々が破けてしまっている。胸当ても少しへこんでいるように見えるし、結構ギリギリの戦いだったんだろう。
 にも関わらずエコーを使う余裕があったのか。やはり、マヨイは強くなってるな。

「ああ、もう大丈夫だ」

「そう。よかった。膝枕のことは後で聞くから」

 マヨイに戦わせておいて、俺が休んでたことがバレてた。
 とりあえず、「あとは引き受けた」と答えて、俺はトレントとの戦いに没頭することにした。



 やっぱりコイルは凄い。
 さっきのブンちゃんのこともそうだけど、たぶん、コイルなら本当に一人でこのめちゃくちゃでかいトレントを倒せてしまうと思う。
 あたしだって何本もの枝と根っこを破壊したけど、それだけだ。木にくっついてるあの気持ち悪い顔には攻撃できてない。
 ヌーコが投げたハンドアックスやナイフはまだ木に刺さったままだ。ヌーコは投擲やクロスボウで攻撃できてるけど、それはコイルやあたしが敵の攻撃を引き受けてるからできたこと。
 あたしやヌーコでは、単独じゃこのトレントには勝てそうにない。
 ブンちゃんは焦ったんだと思う。あたしたち以上にコイルからの信頼が欲しいと思うから。

 ブンちゃんはもう大丈夫そう。ヌーコもそばにいるみたいだし。
《ファイアウォール》がなくなったおかげで見えるようになったコイルの背中を見ながら、たまにくる枝を叩いたり、根っこを避けたりしながら、あんな風になりたいと、そう思った。
 コイルの動きからはどんどん無駄が省かれていく。
 もう、枝も根も煙玉も、彼に当たってるとしか思えないのだけど、まったく動きが淀まないから当たってないんだろう。
 んーん。たぶん、何個かは当たってるけど、効いてないかすぐに無効化してるんだ。

「ほんと、ずるいチートなんだから」

 そんなチートの彼に、もう二度と置いて行かれないようにしなければ。
 私なんかいらないん無駄なんだと省かれないようにしないと。

「ふっ!」

 地面から突き出してきた根っこの槍を避けて、気合一閃、兼長を……メイスを叩きつけた。
 んー。
 そろそろメイスを置いて兼長に持ちかえようかな。

 あたしは愛刀兼長のある壁際までバックステップで下がって、メイスから兼長に持ち替えて、手数の減ってきた枝や根を斬っていったのだった。
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