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アブクマのウォーカーズ
8 紫色の超巨大トレント 2
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ソウブンゼは、自分の左足に見切りをつけることにした。地面に座ったままの状態で、残った手足を使って壁際へと後退する。
そこに無情な枝の鞭が振るわれる。
「ひゃあ」
思わず、らしくない声を上げてしまう。そしてそれは悲鳴から苦痛の音に変わる。
「くぅ!」
顔に向かってきた鞭はなんとか躱せたものの、それよりも低い位置を攻めてきた鞭は躱せなかった。
スパッと左腕が斬れた。
ボトッとそれが落ちた。
地面に。
残ってる右足で一気に地面を蹴飛ばして、後頭部を壁にぶつけて更に呻き声を上げる。
まったく何をやってるんだか。
我ながら情けなく思いつつ、手足から流れ出る血が止まっていることを、ありがたくも迷惑なものだわ、と感じる。
どうせもう死ぬのだ。
血が止まってしまったら、朦朧とした意識の中で死ぬことができない。
葉っぱに切り刻まれても、自分の精神力が無くなるまでは生命力は回復するのだろうし、意識を保ったまま死を待つのは恐ろしい。
「いいえ、そうじゃない。違うわよね」
自分は仲間の勇姿を見てから死ぬのだ。
そう決めたのだ。
死を怖がるよりもまず、私は彼らの戦いを見守らなければならない。
ソウブンゼは、そう、強く意思を持って、宙を舞って時々やってくる切れ味の良い葉っぱを避けることなく、ただひたすらに彼らの……いや、コイルの動きを目に焼き付けたのであった。
パパパパアン!
幹までの数メートルを、一足で踏み込んでメイスによる4連打を4つの顔に叩きつける。
トレントが自分に巻き付けるようにして、コイルの背を打とうと枝を振るが、コイルは屈むか飛び越えるかしてその鞭を避けてしまう。
なんとかなりそうだ。
油断は良くないが、これ以上の攻撃パターンがないのなら、回避するのは問題なさそうだった。
《鎚鉾派生・衝撃》が出れば、顔があった場所が抉れ、新しい顔がそこに出てくることはなさそうだった。
枝もメイスで叩き落とせるし、破裂もさせることもできたから、再生能力があるとしても、いつかはその手数も減ってくるだろう。
あとは繰り返しだ。
避けて近付いて叩いて下がって。
繰り返しになれば、それは作業だ。
作業はつまらない。
仕事になってしまうからだ。
だから、少しずつ少しずつ、敵の攻撃を躱す距離を縮めていく。
20センチの余裕を持って躱していた枝の攻撃を、10センチに縮めてみる。そうやって5センチ、3センチ、1センチと、どんどんギリギリを目指していく。
そうするうちに、葉っぱが舞う数が減ってきていることに気が付く。
《ファイアウォール》はそろそろ効果時間が切れてしまうが、このくらいなら掛け直さないでも行けると判断する。
足元からの微妙な振動を感じて、右足だけ10センチ引く。そこから尖った根が飛び出して来たので、引いた右足で根元を踏みつけて折り曲げる。
次の瞬間、背中に何かが刺さったのかドスッという音と共に衝撃がくる。どうやら背後からも根っこが飛び出してきていたようだ。だが、コイルの背中にはその根の槍は刺さらない。生命力が1点減ったから弱い攻撃ではないようだが、コイルには効かないのだ。
楽しい。
敵の攻撃が当たってそう感じるのはおかしいのかも知れない。
自分では変態でもマゾでもないと思っているが、マヨイもヌーコも「コイルは変態」だと口を揃えて言う。
俺はマゾなんだろうか。
痛いのは嫌いなんだけど。
彼女たちと再会してから約半月が経った。
こちらから壁を造ったのだが、徐々に距離を縮められている気がする。
このトレントとの戦いの前の最後の休憩では、結局、前のように俺の両脇に座って来てたからな。
ソウブンゼにしても、随分と気安くなったような気がする。ただ、その目が以前のようにからかう感じてはなくて、英雄でも見るようなものに変わってきているのが少し嫌なんだけどな。
「くぅ!」
小さくだが、トレントの向こう側からソウブンゼのくぐもった声が聞こえてきた。
やらかしたか?
ワイハラーともあろうものが。
《ストーンオブエコー3》を発動すると、左半身を失ったかのような彼女の姿が確認できた。
時間が空き過ぎると、治すときに色々と突っ込まれそうだし、なる早で治しに行くか……何にしろ、後で説明は求められるんだろうなぁ。
はぁ。
あまり溜息は吐きたくないんだけどな。出てしまうときはある。
「マヨイ! ちょっと前線から離れるけど任せられるか?」
「もっ、もちろん! できるっ!」
見なくても声で分かる。
絶対に満面の笑みで返事したな。
俺なんかが声をかけただけでそんな風になるんじゃないよ、まったく。
マヨイたちに対する信頼は減ってしまったけど、その実力については元から信用してる。
だから背中を任せてるし、今も頼るわけだ。
ずるいヤツだな、俺。
いや、別にいいのか。
どうせ、俺はずっと「ずるい」って言われ続けてるんだから。
ずるいまんま行かせてもらおう。
俺は枝と葉っぱ、煙玉の攻撃をかいくぐりながらソウブンゼの手足を拾い集めた。
彼女を中心にして、壁から《ファイアウォール》を半円状に創りだす。
葉っぱは炎の壁が燃やしてくれるし、枝も根も煙玉もここまでは届かない。
俺はソウブンゼの左腕を彼女の右手に持たせ、左腕の切断面にくっつけたままにするように指示し、自分は左足を切断面にくっつけて、「手足が切り離されているという異常状態を解除する」ための《付与魔術》を発動した。
そこに無情な枝の鞭が振るわれる。
「ひゃあ」
思わず、らしくない声を上げてしまう。そしてそれは悲鳴から苦痛の音に変わる。
「くぅ!」
顔に向かってきた鞭はなんとか躱せたものの、それよりも低い位置を攻めてきた鞭は躱せなかった。
スパッと左腕が斬れた。
ボトッとそれが落ちた。
地面に。
残ってる右足で一気に地面を蹴飛ばして、後頭部を壁にぶつけて更に呻き声を上げる。
まったく何をやってるんだか。
我ながら情けなく思いつつ、手足から流れ出る血が止まっていることを、ありがたくも迷惑なものだわ、と感じる。
どうせもう死ぬのだ。
血が止まってしまったら、朦朧とした意識の中で死ぬことができない。
葉っぱに切り刻まれても、自分の精神力が無くなるまでは生命力は回復するのだろうし、意識を保ったまま死を待つのは恐ろしい。
「いいえ、そうじゃない。違うわよね」
自分は仲間の勇姿を見てから死ぬのだ。
そう決めたのだ。
死を怖がるよりもまず、私は彼らの戦いを見守らなければならない。
ソウブンゼは、そう、強く意思を持って、宙を舞って時々やってくる切れ味の良い葉っぱを避けることなく、ただひたすらに彼らの……いや、コイルの動きを目に焼き付けたのであった。
パパパパアン!
幹までの数メートルを、一足で踏み込んでメイスによる4連打を4つの顔に叩きつける。
トレントが自分に巻き付けるようにして、コイルの背を打とうと枝を振るが、コイルは屈むか飛び越えるかしてその鞭を避けてしまう。
なんとかなりそうだ。
油断は良くないが、これ以上の攻撃パターンがないのなら、回避するのは問題なさそうだった。
《鎚鉾派生・衝撃》が出れば、顔があった場所が抉れ、新しい顔がそこに出てくることはなさそうだった。
枝もメイスで叩き落とせるし、破裂もさせることもできたから、再生能力があるとしても、いつかはその手数も減ってくるだろう。
あとは繰り返しだ。
避けて近付いて叩いて下がって。
繰り返しになれば、それは作業だ。
作業はつまらない。
仕事になってしまうからだ。
だから、少しずつ少しずつ、敵の攻撃を躱す距離を縮めていく。
20センチの余裕を持って躱していた枝の攻撃を、10センチに縮めてみる。そうやって5センチ、3センチ、1センチと、どんどんギリギリを目指していく。
そうするうちに、葉っぱが舞う数が減ってきていることに気が付く。
《ファイアウォール》はそろそろ効果時間が切れてしまうが、このくらいなら掛け直さないでも行けると判断する。
足元からの微妙な振動を感じて、右足だけ10センチ引く。そこから尖った根が飛び出して来たので、引いた右足で根元を踏みつけて折り曲げる。
次の瞬間、背中に何かが刺さったのかドスッという音と共に衝撃がくる。どうやら背後からも根っこが飛び出してきていたようだ。だが、コイルの背中にはその根の槍は刺さらない。生命力が1点減ったから弱い攻撃ではないようだが、コイルには効かないのだ。
楽しい。
敵の攻撃が当たってそう感じるのはおかしいのかも知れない。
自分では変態でもマゾでもないと思っているが、マヨイもヌーコも「コイルは変態」だと口を揃えて言う。
俺はマゾなんだろうか。
痛いのは嫌いなんだけど。
彼女たちと再会してから約半月が経った。
こちらから壁を造ったのだが、徐々に距離を縮められている気がする。
このトレントとの戦いの前の最後の休憩では、結局、前のように俺の両脇に座って来てたからな。
ソウブンゼにしても、随分と気安くなったような気がする。ただ、その目が以前のようにからかう感じてはなくて、英雄でも見るようなものに変わってきているのが少し嫌なんだけどな。
「くぅ!」
小さくだが、トレントの向こう側からソウブンゼのくぐもった声が聞こえてきた。
やらかしたか?
ワイハラーともあろうものが。
《ストーンオブエコー3》を発動すると、左半身を失ったかのような彼女の姿が確認できた。
時間が空き過ぎると、治すときに色々と突っ込まれそうだし、なる早で治しに行くか……何にしろ、後で説明は求められるんだろうなぁ。
はぁ。
あまり溜息は吐きたくないんだけどな。出てしまうときはある。
「マヨイ! ちょっと前線から離れるけど任せられるか?」
「もっ、もちろん! できるっ!」
見なくても声で分かる。
絶対に満面の笑みで返事したな。
俺なんかが声をかけただけでそんな風になるんじゃないよ、まったく。
マヨイたちに対する信頼は減ってしまったけど、その実力については元から信用してる。
だから背中を任せてるし、今も頼るわけだ。
ずるいヤツだな、俺。
いや、別にいいのか。
どうせ、俺はずっと「ずるい」って言われ続けてるんだから。
ずるいまんま行かせてもらおう。
俺は枝と葉っぱ、煙玉の攻撃をかいくぐりながらソウブンゼの手足を拾い集めた。
彼女を中心にして、壁から《ファイアウォール》を半円状に創りだす。
葉っぱは炎の壁が燃やしてくれるし、枝も根も煙玉もここまでは届かない。
俺はソウブンゼの左腕を彼女の右手に持たせ、左腕の切断面にくっつけたままにするように指示し、自分は左足を切断面にくっつけて、「手足が切り離されているという異常状態を解除する」ための《付与魔術》を発動した。
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