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アブクマのウォーカーズ
6 シルバー
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結局、ダークエルフからはなんの情報も聞き出すことができなかった。
手足が動かないようしても、魔法を使える相手には攻撃手段を残してしまうのだと学習する結果になってしまった。
《マジックミサイル》を至近距離で受けたのはまだ許容範囲だったのだが、後ろの三人に向けて《ウインドストーム》を発動したのはアウトだった。
残念だけど、刀で首を落とさせてもらった。
結局、話してみて手に入れられた情報は、「ダークエルフじゃなくてシルバーエルフだ」ってことと、「シルバーエルフは口が悪い」ってことだけだった。
あともう一つ分かったのは、他の魔物と同じように、死体は灰にならず、煙になって消える、ってことだ。
つまり、ダンジョンの魔物、ってことだ。
人間と同じ存在ではないわけだ。
そうそう。シルバーエルフが放った《ウインドストーム》は、俺が裏技を使ったので、彼女たちにダメージを与えてはいなかったけど、流石に騒がしくしすぎたせいか、シルバーエルフが消える前にソウブンゼとヌーコは目を覚ましていたようだ。
マヨイも起こして、三人にはシルバーエルフの襲撃を受けたことと、情報を引き出せなかったことを伝えておいた。
三人とも「何故すぐに起こしてくれなかったんだ」と怒っていたが、その余裕がなかったんだと返しておいた。
実際問題として、魔法の発動、魔道具の起動、棒手裏剣を高速で投げる、というのを数瞬の間にやったのだ。そんなに余裕があるわけじゃなかった。
まあ、とりもちに掛かった段階で起こすことは出来たと思うけど、それは言わないでおいた。
その後はシルバーエルフの話を根掘り葉掘り聞かれながら、ヌーコが用意してくれた食事を食べて、俺の精神力が完全回復した段階で26階層への渡り扉に入ることになった。
26階層の階層主は巨大なトレントだそうだ。
これは管理局からの情報で、その情報源は神剣に選ばれし者だ。
彼らが情報を管理局に渡したということは、つまり、他の者に階層主への挑戦権を譲ると言う意味だ。神剣はしばらくの間は26階の階層主には再挑戦しないつもりなんだろう。
茶髪が抜け、ワイハラーが抜け、新たに育てた仲間も倒れ……気持ちが折れてしまっても仕方ない状況ではあるよな、と思う。
まあ、あのヒグティのことだ。完全に諦めた訳じゃないだろう。
だから同情はしないし、今のうちに俺らでクリアしてしまおうと思っている。
ちなみに、オオウチジュクダンジョンでは、階層主のいる空洞に入ると、入ってきた通路を含め、空洞から外に通じる通路への道が塞がれてしまうケースがあった。
そう言う意味では、26階層の階層主戦は、いざとなったら逃げ出せる訳だから、少し気が楽だ。こういった情報が事前に分かるのはありがたい。
それに、魔物の種別まで分かってるんだから、作戦まで話し合っておくことができる訳だ。
情報って大事だな、と改めて思った。
「トレントの攻撃は2種類。葉っぱカッターと枝の鞭」
「たまに地面を通して真下から根を槍のように出してくる特殊個体もいるわよ?」
マヨイの言葉に、深層での活動経験の多いソウブンゼが情報を追加する。
そうか、確かにたまに少し姿の違う魔物が現れることがある。
でも、基本的に速攻で倒してしまうので、その特性を知る機会がなかった。
以前は慎重に魔物の特性を把握したりしてたが、最近は様子を見てる最中に相手からの初激を受けるよりも、先に攻撃してみて、倒せなかったらそれから考えるようになってしまっていた。
それが良いことなのか、良くないことなのかは分からない。
「なら、階層主にはもっと違う攻撃方法があるかもしれないね」
「正解よ。普通のトレントと違って幹には大量の気味悪い顔が付いてるの。それが粘度のある煙を吐いてくるから要注意よ。足や手に絡まればカッターや鞭の的になってしまうから……」
「そうか……もしかして、ソウブンゼは階層主版のトレントと戦ったことがあるのか」
「ええ。とは言っても25階層までね。26階層のトレントとは私は戦ってないから……だから、それだけに油断はできないわ。神剣にいたころ、25階層のトレントは倒してるのよ。まあ、ヘイローが犠牲になってしまったのだけど」
ああ、そう言えばそうだった。
高飛車で高圧的で攻撃的な神剣のメンバーの中で、唯一、ちゃんと会話ができた男、ヘイロー。
彼がロストした話を聞いたのはかなり前の記憶だ。もしかしたら、もう一年くらい前の話かもしれないな。
つまり、一年もの間、アブクマダンジョンの攻略は進んでいなかったと言うことか。
25階層の階層主トレントを倒せた神剣が、ヘイロー、茶髪、ワイハラーがいなくなったとはいえ、26階層の階層主トレントには敵わなかった。
入れ替わった三人分の戦力低下が原因なのか、それとも単にトレントが大幅に強なっているのかは分からないが、どちらにしても強敵には違いない。
一人で戦ってみたい気もするけど、それは流石に許可されないだろうな……
手足が動かないようしても、魔法を使える相手には攻撃手段を残してしまうのだと学習する結果になってしまった。
《マジックミサイル》を至近距離で受けたのはまだ許容範囲だったのだが、後ろの三人に向けて《ウインドストーム》を発動したのはアウトだった。
残念だけど、刀で首を落とさせてもらった。
結局、話してみて手に入れられた情報は、「ダークエルフじゃなくてシルバーエルフだ」ってことと、「シルバーエルフは口が悪い」ってことだけだった。
あともう一つ分かったのは、他の魔物と同じように、死体は灰にならず、煙になって消える、ってことだ。
つまり、ダンジョンの魔物、ってことだ。
人間と同じ存在ではないわけだ。
そうそう。シルバーエルフが放った《ウインドストーム》は、俺が裏技を使ったので、彼女たちにダメージを与えてはいなかったけど、流石に騒がしくしすぎたせいか、シルバーエルフが消える前にソウブンゼとヌーコは目を覚ましていたようだ。
マヨイも起こして、三人にはシルバーエルフの襲撃を受けたことと、情報を引き出せなかったことを伝えておいた。
三人とも「何故すぐに起こしてくれなかったんだ」と怒っていたが、その余裕がなかったんだと返しておいた。
実際問題として、魔法の発動、魔道具の起動、棒手裏剣を高速で投げる、というのを数瞬の間にやったのだ。そんなに余裕があるわけじゃなかった。
まあ、とりもちに掛かった段階で起こすことは出来たと思うけど、それは言わないでおいた。
その後はシルバーエルフの話を根掘り葉掘り聞かれながら、ヌーコが用意してくれた食事を食べて、俺の精神力が完全回復した段階で26階層への渡り扉に入ることになった。
26階層の階層主は巨大なトレントだそうだ。
これは管理局からの情報で、その情報源は神剣に選ばれし者だ。
彼らが情報を管理局に渡したということは、つまり、他の者に階層主への挑戦権を譲ると言う意味だ。神剣はしばらくの間は26階の階層主には再挑戦しないつもりなんだろう。
茶髪が抜け、ワイハラーが抜け、新たに育てた仲間も倒れ……気持ちが折れてしまっても仕方ない状況ではあるよな、と思う。
まあ、あのヒグティのことだ。完全に諦めた訳じゃないだろう。
だから同情はしないし、今のうちに俺らでクリアしてしまおうと思っている。
ちなみに、オオウチジュクダンジョンでは、階層主のいる空洞に入ると、入ってきた通路を含め、空洞から外に通じる通路への道が塞がれてしまうケースがあった。
そう言う意味では、26階層の階層主戦は、いざとなったら逃げ出せる訳だから、少し気が楽だ。こういった情報が事前に分かるのはありがたい。
それに、魔物の種別まで分かってるんだから、作戦まで話し合っておくことができる訳だ。
情報って大事だな、と改めて思った。
「トレントの攻撃は2種類。葉っぱカッターと枝の鞭」
「たまに地面を通して真下から根を槍のように出してくる特殊個体もいるわよ?」
マヨイの言葉に、深層での活動経験の多いソウブンゼが情報を追加する。
そうか、確かにたまに少し姿の違う魔物が現れることがある。
でも、基本的に速攻で倒してしまうので、その特性を知る機会がなかった。
以前は慎重に魔物の特性を把握したりしてたが、最近は様子を見てる最中に相手からの初激を受けるよりも、先に攻撃してみて、倒せなかったらそれから考えるようになってしまっていた。
それが良いことなのか、良くないことなのかは分からない。
「なら、階層主にはもっと違う攻撃方法があるかもしれないね」
「正解よ。普通のトレントと違って幹には大量の気味悪い顔が付いてるの。それが粘度のある煙を吐いてくるから要注意よ。足や手に絡まればカッターや鞭の的になってしまうから……」
「そうか……もしかして、ソウブンゼは階層主版のトレントと戦ったことがあるのか」
「ええ。とは言っても25階層までね。26階層のトレントとは私は戦ってないから……だから、それだけに油断はできないわ。神剣にいたころ、25階層のトレントは倒してるのよ。まあ、ヘイローが犠牲になってしまったのだけど」
ああ、そう言えばそうだった。
高飛車で高圧的で攻撃的な神剣のメンバーの中で、唯一、ちゃんと会話ができた男、ヘイロー。
彼がロストした話を聞いたのはかなり前の記憶だ。もしかしたら、もう一年くらい前の話かもしれないな。
つまり、一年もの間、アブクマダンジョンの攻略は進んでいなかったと言うことか。
25階層の階層主トレントを倒せた神剣が、ヘイロー、茶髪、ワイハラーがいなくなったとはいえ、26階層の階層主トレントには敵わなかった。
入れ替わった三人分の戦力低下が原因なのか、それとも単にトレントが大幅に強なっているのかは分からないが、どちらにしても強敵には違いない。
一人で戦ってみたい気もするけど、それは流石に許可されないだろうな……
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