上 下
148 / 181
変化

24 たよりない

しおりを挟む
 便りがないのは元気な証拠。

 ブンちゃんはそう言うけど、私は毎日気が気ではなかった。
 コイルがいなくなってもう二ヶ月も経つんだよ。
 コイルのことだから魔物にやられたとかはないと思うけど、ダンジョンに住み着いて出て来ないとか、アブクマを離れてて帰って来ないんじゃないかとか、他所に女を作ってんじゃないかとか、心配することは山ほどある訳で。

 でも、「暫く一人にさせてほしい」という言葉に頷いちゃったからね。
 もちろん、パーティーは解散しないし、帰って来ないとかはなしだからね、と言うお願いと約束はしてあるけど。
 帰ってきた時に、コイルの横に知らない女が立ってたら意味がない。
 あああ、不安だよ。

 マヨイちゃんは最初のうちは「コイルが帰る場所はここ」とか言って余裕振ってたけど、他所で女を作ってる可能性を強調して話してからは日に日に情緒不安になってきてるみたい。
 だいたいね、剣の練習してる時に無理矢理キスしたくらいで正妻気取りしてたから、ちょっといい気味だ。
 あの時は本気で大喧嘩したからね。
 人にはよく「抜け駆けするな」とか言ってたくせに、自分があんな抜け駆けするなんて!
 まあ、それはブンちゃんの入れ知恵があったことが後で分かって、三つ巴の戦いになって、その中で色々と本音が出たおかげ? で、雨降って地固まるみたいな感じにはなったけど。

 まあ、その時にブンちゃんはコイル狙いじゃないことが分かったのも収穫だった。
 ブンちゃんは、ここにダンジョンができる前からアブクマに住んでる人で、とにかく地元愛が強い人らしい。

 家族や好きだった人たちが住んでいたこの土地を守りたい。
 だからここで戦い続けてる。
 強い人にここで戦い続けてもらえるように動いてる。

 あ、これは本音だな、ってなんとなく分かっちゃって、じゃあ、もう既成事実を作ってパーティーに引き入れるしかないな、って思ったんだよね。
 既成事実っていっても変な事じゃなくて、パーティーしか知り得ない情報を共有しようって思ったんだけど……そんな事を勝手にしたのが駄目だったみたい。
 既成事実そのことを後でコイルに話したら、その日からコイルが私たちを見る目が変わってしまった。
 もちろん、コイルの情報だけを選んで話したわけじゃなかった。
 私の先読みのこともスキルの一つとして話したし、マヨイちゃんに至っては職業スキルの《戦術士》を持ってることを話していたくらいだし。

 私たちはもう一心同体。

 この数ヶ月でそんな関係になれていると勘違いをしていた私のせいだった。

 でも、まだまだだったんだよね。
 そりゃそうだよね。
 何ヶ月も一緒に過ごしてたのに、コイルから何もされてないんだもん。
 結構スキスキアピールはしてきたつもりなのに。
 いつも一緒にいたから、やらしいお店に行ってないことは知ってるし、男が好きってわけでもなさそうだから、単に私たちを大事にしてくれてるんだろうなって、そう思ってたんだけど……

 あー駄目だ。考えてると泣きそうになる。

 私たちはコイルのことを知ってるようで知らない。

 どちらかと言えば事なかれ主義で、嫌なこととでも受け入れることがあるけど、どこかに限界線みたいなのがあって、それを超えると強制排除か自主退場する。

 穏やかで優しそうに見えるけど、そう見えてるうちは、その人に対して興味がない証。

 それなりに長く一緒にいて分かったことはこれくらいかも知れない。

「ヌーコちゃん。マヨイちゃんを誘って黒石版を見に行かない?」

 お出掛けから帰ってきたブンちゃんが、帰ってくるなりそう言った。
 と言う事は、彼女は黒石版を見てきたってことだ。
 だって、普段なら「図書館に行かない?」と聞いてくるからだ。
 ブンちゃんは、少し回りくどいというか、持ってる情報に彼女の私見が入らないように気を付けているというか、とにかく、まずは私たちの目で情報を確認させたがる。

 私たちは週に一回は図書館に行く。
 コイルがそうしてたように、情報収集を怠らない事と、静かな所でゆったりと過ごす時間を作るためだ。
 そして、図書館にはつい三日前に行ったばかりだ。

 ブンちゃんは今まで、図書館を利用したことが無かったらしくて、黒石版の存在自体を知らなかったと言っていた。
 神剣にいた頃はニンジャと呼ばれていたそうだけど、こんな普通の情報に気が付かないなんて意外に抜けてるのかな、と思ったけど、よくよく考えたら、私もコイルに教えてもらうまでは、訓練所でちらっと聞いたかな、程度の知識しかなかったし、入館料が高いから入ったことは一度もなかったっけ。

 座禅を組んでいるマヨイちゃんに声をかけて、お昼ご飯を食べがてら、三人で図書館に行くことにしたのだった。



 ニッパラダンジョン 魔王ダダルーヤ討伐に懸賞金2千万円

 オーウチジュク跡 魔物街化

 ハンゾーナガタミツケダンジョン スタンピード レベル3

 ギンザアサクサダンジョン、シンジュクアケボノバシダンジョン スタンピード レベル2


「げっ……って魔王って何よ」

「ヌーコ」

「うん、ダダルーヤって、あのダダルーヤだよね……えーと、ダダルーヤンを名乗っていた殺人鬼が魔王化? した? アブクマダンジョン街(以下アブクマ)で管理局員殺しをして消息を断っていたダダルーヤであることを、元アブクマの探索者が確認。ダダルーヤはニッパラダンジョン内で魔物の軍団を使って籠城。現在、低階層に強力な魔物が増えてきている……」

「ここで管理局の人を殺してた? 魔物を従えている?」

 あたしとマヨイちゃんは混乱中だ。
 あのダダルーヤが魔王っていったい……

「あら? あなたたち、ダダルーヤを知ってたの?」

 アレキサンドライトと言うギルドは、アブクマでは神剣と同じくらい名の通ったギルドだったらしい。
 だから、そこのメンバーだったダダルーヤのことを、元々神剣に所属してたブンちゃんが知ってるのは不思議じゃない。
 ちなみにアレキサンドライトは、最近ではダンジョンに潜らず、魔術師ギルドとして魔法の研究をしているらしい。

 ……でも、アイツと私たちの間に何があったのかなんて、さすがのニンジャでも知らないはず。
 こんな記事を見せて何が言いたいんだろう。
 もしかして、元アブクマの探索者がコイルじゃないかって言いたい?
 
「でも見て欲しいのはその下の記事よ」

 私の考えなんかお見通しなのか、ブンちゃんは小さく首を横に振りながらそう言った。

 中央都付近のスタンピードが複数起きてるのは確かに気になる記事だけど、それは私たちに関係ないよね。

 となると、残る記事は一つ。

「オーウチジュク跡、魔物街化しているのが確認されるが、魔物が何処で湧いているかは不明。経過観察中に魔物が増えている様子はなし」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...