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変化
17 ワイハラーの死
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「でも、おばさんだって26階層からは通用しなくなったってことでしょ!? 私だってレベルが上がれば……レベルが……」
「それがね……ん~、コイルくんが私をパーティーに入れてくれる可能性がまったくないのならこれ以上は話せないかしら」
何か特別な対応策があるような言い方をするな。
そしてヌーコには少し厳しい話になってきている。
ヌーコは職業スキルの《占術師》を取るために5点も使ってしまっているし、そのスキルレベルを3まで上げるのに更に5点、合計10点を使っているのだ。
《占術師》はもちろんスカウト系のスキルではないし、先読みも常に発動するわけじゃない。
この10点を《危機感知》や《罠探知》に使うことができていれば、スカウトとしてもっと活躍できたはずだ。
俺は彼女のした選択にまったく文句はないけど、ソウブンゼの話を聞いて、彼女自身はもしかしたら、今、葛藤というか後悔をしているのかも知れない。
「じゃああなたが俺たちのパーティーに入れる可能性はゼロってことでお引き取りください」
タラレバの話をしたって意味がない。
この人から情報が得られないなら、神剣に話を聞けばいい。以前ならいざ知らず、今ならヒグティとは話ができそうな気がするし。
その時にはもしかしたらワイハラーが生き返ってるかも知れないな。
「理由を聞いてもいい?」
「駆け引きとか苦手なんですよ。信用ならない人とうまくやっていける気もしないですし」
「それであのエルフを何とかできるの?」
「そもそも俺たちが何とかする必要はないんですよ。何だったらあのエルフに会わない階層で活動すればいいんですし」
アブクマで活動を続けるのなら、あのエルフの対応は必須になるだろうけど、ただ生きてくだけなら20階層未満での活動で十分稼げるし、ダンジョンはここ以外にもあるわけだし。
他でも同じような魔物が出てくる可能性はあるけど、その時はその時だ。
一番気に入ったダンジョン街に住み付けばいいだろう。
「私の能力はこれからの階層攻略に必要になると思うわよ?」
「急いで進む必要はないですから。じっくりやっていきますよ」
ヌーコがいるし、レベルを上げてればいつかはなんとかなるんじゃないだろうか。
レベルキャップがどのくらいで来るかが気になるところだけど。
「そんなことでアブクマを守れるの?」
「俺たちは探索者ですよ? それは管理局や警備隊の仕事ですよね? 逆に聞きますけど、あなたはアブクマの街を守る為にダンジョンに入ってるんですか?」
「……私はこのアブクマの街の……いいえ、なんでもないわ。コイルくんの言うとおりよね。でもこの間だって防衛戦にも参加してたみたいだし、イナワシロも攻略してくれたんだもの。アブクマに何かあれば戦ってくれる人、そういう風に思っててもいい?」
「まあ、ここには知り合いも増えましたしね。警備隊に所属するつもりはないですけど」
「長い」
なんとなく、この人が何を言いたいのか、参加するパーティーに何を求めてるのかが分かったような気がした。
マヨイだってそうだろう。
だからこそ、ここら辺で話を終わらせたいのかも知れない。
「そうだよ。情報ももらえなさそうだし、パーティーに入れる事もないんだから早く帰ってもらおうよ」
「いいえ? 私はこのパーティーに入らせてもらうし、知ってる情報はすべて話すつもりよ?」
ヌーコの目が日差しの下に出てきた猫の目のように見開き、マヨイの気配が20階層で遭遇したハイオーガのように濃い殺気に変わった。
ような気がした。
まあ、こんな流れになるんじゃないかな、とは思っていた。
俺たちではこの人を撒いて逃げることはできなさそうだし。
気を張ってこまめにエコーを使えば接近に気が付けるだろうけど、精神力が無限にあるわけじゃないし。
そうなると、いつ、どこから見られてるか分からなくなってしまうから、しばらくは《付与術師》で作った魔法石は使えなさそうだ。
だったらそばに居てもらって、こちらからも相手が見えてる方が俺たちの秘密を守れるんじゃないかと思うし、ストレスも少なくて済みそうかなと、そう思うわけだ。
そう思うんだけど……この二人が納得するかどうかが問題だな。
「これ、ワイハラーのよね?」
私は地面に並んで置かれている頬当てと、鞘に納刀されたままの短剣を拾い上げた。
この短刀は11階層の階層主を倒した時に獲得したものだ。
切れ味が良くて、刃こぼれしても元通りに戻ってしまう魔法の短剣。
ヒグティからワイハラーに手渡されて、彼がそれを恭しく受け取った姿をまだおぼえている。
「こっちの壁際にはナイフとクナイが落ちてます!」
「ちっ……あいつがこんな風にドタバタと足跡を残すとはな……相手はよっぽどの化物だったってことか」
二つ手前の部屋から、ワイハラーの物と思われる足跡やナイフが見つかっていた。
私は追跡はそれ程得意じゃないから、彼がどんな魔物に襲われて、どんな戦い方をしたのかまでは分からないけど、部屋中を駆け回って応戦していたように見える。
壁にも新し目の足跡があるから、彼は本気で戦っていたのだろう。
「これはあなたに返す為に、先に体から離して置いておいたんでしょうね。あっちに揃えて置かれていたわ」
私は頬当てと短剣をヒグティに手渡した。
人がこの世からロストする時は、その身に装備していた物は、その体と一緒に灰になって消え去ってしまう。
魔法の道具、装備であってもそれは同じだ。
だから、彼が身に着けていた装束は何処にも見当たらない。
でも、たぶん、この部屋が彼の最後の部屋になったのだと、私たちは感じていた。
「この短剣は俺が預かっておく。次のニンジャが育ったらそいつに渡す」
ニンジャ。
ヒグティがワイハラーに付けていた愛称だ。
私も魔術師とかキャスターとかロール名で呼ばれることがあるけど、駒のように扱われている気がしてあまり好きじゃない。
でも、ワイハラーはニンジャと呼ばれることが嬉しそうに見えたのよね。
何故、ヒグティから下僕のように呼ばれる事を喜んでいたのか、とうとう聞けず終いになってしまったのだと、それほど仲の良かった訳でもない彼の死を少しだけ身近に感じて、そして忘れる事にした。
「それがね……ん~、コイルくんが私をパーティーに入れてくれる可能性がまったくないのならこれ以上は話せないかしら」
何か特別な対応策があるような言い方をするな。
そしてヌーコには少し厳しい話になってきている。
ヌーコは職業スキルの《占術師》を取るために5点も使ってしまっているし、そのスキルレベルを3まで上げるのに更に5点、合計10点を使っているのだ。
《占術師》はもちろんスカウト系のスキルではないし、先読みも常に発動するわけじゃない。
この10点を《危機感知》や《罠探知》に使うことができていれば、スカウトとしてもっと活躍できたはずだ。
俺は彼女のした選択にまったく文句はないけど、ソウブンゼの話を聞いて、彼女自身はもしかしたら、今、葛藤というか後悔をしているのかも知れない。
「じゃああなたが俺たちのパーティーに入れる可能性はゼロってことでお引き取りください」
タラレバの話をしたって意味がない。
この人から情報が得られないなら、神剣に話を聞けばいい。以前ならいざ知らず、今ならヒグティとは話ができそうな気がするし。
その時にはもしかしたらワイハラーが生き返ってるかも知れないな。
「理由を聞いてもいい?」
「駆け引きとか苦手なんですよ。信用ならない人とうまくやっていける気もしないですし」
「それであのエルフを何とかできるの?」
「そもそも俺たちが何とかする必要はないんですよ。何だったらあのエルフに会わない階層で活動すればいいんですし」
アブクマで活動を続けるのなら、あのエルフの対応は必須になるだろうけど、ただ生きてくだけなら20階層未満での活動で十分稼げるし、ダンジョンはここ以外にもあるわけだし。
他でも同じような魔物が出てくる可能性はあるけど、その時はその時だ。
一番気に入ったダンジョン街に住み付けばいいだろう。
「私の能力はこれからの階層攻略に必要になると思うわよ?」
「急いで進む必要はないですから。じっくりやっていきますよ」
ヌーコがいるし、レベルを上げてればいつかはなんとかなるんじゃないだろうか。
レベルキャップがどのくらいで来るかが気になるところだけど。
「そんなことでアブクマを守れるの?」
「俺たちは探索者ですよ? それは管理局や警備隊の仕事ですよね? 逆に聞きますけど、あなたはアブクマの街を守る為にダンジョンに入ってるんですか?」
「……私はこのアブクマの街の……いいえ、なんでもないわ。コイルくんの言うとおりよね。でもこの間だって防衛戦にも参加してたみたいだし、イナワシロも攻略してくれたんだもの。アブクマに何かあれば戦ってくれる人、そういう風に思っててもいい?」
「まあ、ここには知り合いも増えましたしね。警備隊に所属するつもりはないですけど」
「長い」
なんとなく、この人が何を言いたいのか、参加するパーティーに何を求めてるのかが分かったような気がした。
マヨイだってそうだろう。
だからこそ、ここら辺で話を終わらせたいのかも知れない。
「そうだよ。情報ももらえなさそうだし、パーティーに入れる事もないんだから早く帰ってもらおうよ」
「いいえ? 私はこのパーティーに入らせてもらうし、知ってる情報はすべて話すつもりよ?」
ヌーコの目が日差しの下に出てきた猫の目のように見開き、マヨイの気配が20階層で遭遇したハイオーガのように濃い殺気に変わった。
ような気がした。
まあ、こんな流れになるんじゃないかな、とは思っていた。
俺たちではこの人を撒いて逃げることはできなさそうだし。
気を張ってこまめにエコーを使えば接近に気が付けるだろうけど、精神力が無限にあるわけじゃないし。
そうなると、いつ、どこから見られてるか分からなくなってしまうから、しばらくは《付与術師》で作った魔法石は使えなさそうだ。
だったらそばに居てもらって、こちらからも相手が見えてる方が俺たちの秘密を守れるんじゃないかと思うし、ストレスも少なくて済みそうかなと、そう思うわけだ。
そう思うんだけど……この二人が納得するかどうかが問題だな。
「これ、ワイハラーのよね?」
私は地面に並んで置かれている頬当てと、鞘に納刀されたままの短剣を拾い上げた。
この短刀は11階層の階層主を倒した時に獲得したものだ。
切れ味が良くて、刃こぼれしても元通りに戻ってしまう魔法の短剣。
ヒグティからワイハラーに手渡されて、彼がそれを恭しく受け取った姿をまだおぼえている。
「こっちの壁際にはナイフとクナイが落ちてます!」
「ちっ……あいつがこんな風にドタバタと足跡を残すとはな……相手はよっぽどの化物だったってことか」
二つ手前の部屋から、ワイハラーの物と思われる足跡やナイフが見つかっていた。
私は追跡はそれ程得意じゃないから、彼がどんな魔物に襲われて、どんな戦い方をしたのかまでは分からないけど、部屋中を駆け回って応戦していたように見える。
壁にも新し目の足跡があるから、彼は本気で戦っていたのだろう。
「これはあなたに返す為に、先に体から離して置いておいたんでしょうね。あっちに揃えて置かれていたわ」
私は頬当てと短剣をヒグティに手渡した。
人がこの世からロストする時は、その身に装備していた物は、その体と一緒に灰になって消え去ってしまう。
魔法の道具、装備であってもそれは同じだ。
だから、彼が身に着けていた装束は何処にも見当たらない。
でも、たぶん、この部屋が彼の最後の部屋になったのだと、私たちは感じていた。
「この短剣は俺が預かっておく。次のニンジャが育ったらそいつに渡す」
ニンジャ。
ヒグティがワイハラーに付けていた愛称だ。
私も魔術師とかキャスターとかロール名で呼ばれることがあるけど、駒のように扱われている気がしてあまり好きじゃない。
でも、ワイハラーはニンジャと呼ばれることが嬉しそうに見えたのよね。
何故、ヒグティから下僕のように呼ばれる事を喜んでいたのか、とうとう聞けず終いになってしまったのだと、それほど仲の良かった訳でもない彼の死を少しだけ身近に感じて、そして忘れる事にした。
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