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変化

13 ダークエルフ

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 違和感が俺を襲った。
 いや、既視感と言った方がいいのか。

 マヨイの剣が魔物を指揮していると思われる迷彩野郎に当たった瞬間、魔法石が仕事をしたような感覚を感じたのだ。
 魔法じゃない効果の発動を。

 そして、マヨイの刀は間違いなくヤツの体を通り抜けたように見えたが、ヤツの胴体は繋がっているし、着ているローブもどこも切れていないように見えた。

 そしてそいつが俺たちに分かる言葉で「あっぶな」と言ったのが聞こえてきた。
 とりあえずマヨイに追いすがろうとするゴブリン共を一気に叩き斬り、逃げようとした迷彩野郎の逃げ道を塞ごうと思った時だった。

「痛っ」

 後ろからヌーコの声が聞こえてきたのだ。
 振り返るとヌーコの背後にはゴブリンがいて、ヌーコの腹からは刃と血が飛び出していた。

「マヨイ! ソイツは任せた!」
「うん!」

 俺は即座にバックステップを踏んで、一歩でヌーコとゴブリンの背後にまわった。
 そしてゴブリンを十字に斬り捨てる。
 他に周りにいたゴブリンも一気に片付けてしまう。

 バックパックを背中から降ろし、ポーションを取り出すのがもどかしい。

「ヌーコ! 使え!」

 ヌーコを抱きかかえ、背中から刺さっていた剣を一気に引き抜いた。
 ポーションを口元に当てがうが、溢れてしまってうまく飲ませられない。
 なんでだよ。
 なんで飲んでくれないんだよ。
 早くしないと。

 早くしないとバレちゃうだろうが!

 なんで口を尖らせながら小さく「チューで、キスで飲ませて」とか言ってんだよ。
 ヌーコ、おまえ……生命力回復の魔法石でもう傷は塞がってるだろ?
 ワイハラーにそういうのがバレないように振る舞うって約束したじゃないか。
 早くポーション飲んでくれって!

「早くしないとバレちゃうよ?」

 俺はヌーコのおでこをデコピンで弾いた。
 それこそバチンと音が響くくらいの勢いで。
 たぶんだけど、生命力も1点くらいは減らせたんじゃないだろうか。

「いっ……とぅゔぁい!」

 口が開いた瞬間にポーションの瓶の口をヌーコの口に突っ込んで、ゴボゴボ溢れるのも構わずに全部飲ませた。

 そこにマヨイとワイハラーがやって来た。

「映画みたいにキスで飲ませて欲しかったのにぃ~」

 と足をバタつかせるヌーコを見て、「かなりのダメージかと思ったんですけど……随分余裕があるみたいでよかったですわ」とワイハラーに言われてしまった。
 ほらな。
 なんかしらバレてるじゃないか……

「それにお嬢さんもお兄さんもお強いのね。私も少しは腕に自身があったのだけど……ちょっと嫉妬しちゃうわ」

 抱きかかえられたままのヌーコが「ほら。全員手遅れだったんだって」とまたまた小さく言う。
 そこにマヨイがやって来てヌーコのオデコにチョップを落とした。

「いったいなぁ! さっきコイルにデコピンされたとこ! ここ、さっきコイルにデコピンされたとこだから!」

「コイル、落として」

 俺はヌーコにジト目を向き続けながらそう言ってきたマヨイに従うことした。

 ドスンッ、ガン!

「痛っ」

 ヌーコの後頭部が冷たく硬い地面にぶつかる音が響いた。
 マヨイが腹を貫かれたヌーコの腹に跨って、ヌーコのオデコに連続チョップを叩き込んでいく。

「いたっ、いたたっ、いたいいたいいたいいたい! ごめ、ごめんなさーい」

「ようやっと謝った。うん、仕方ない。抜け駆けしようとしたのは許す」

 論点そこかー。
 まあ、ヌーコはもう回復できてるからいいんだけど。
 というか、さっきの迷彩野郎には逃げられたみたいだけど……

「ごめん。任せてくれたのに逃げられた」

「どんな風にして逃げてった?」

「……分からない。刃は届いてたはず。でも斬れなかった」

「責めないであげてね? あのエルフが魔法かスキルを使ったのだと思うの。詳しいことは分からなかったのだけど、攻撃を無効化してたような……魔法が使われた様子はなかったし、あんな急な場面で使えるとも思えないし……きっと何か聞いたこともないスキルかしら、ね」

 エルフ……エルフ?
 そうか、あれ、エルフだったのか。
 さすがワイハラー、観察眼が凄いな。
 しかしエルフね……ヌーコとマヨイから聞かされてた、最近ダンジョンにでるって噂があったダークエルフのことかね。

 ああいや、今はそれよりもワイハラーの考察の方だ。
 なかなかいい勘してるけど、きっと半分正解で半分外れだ。
 あれはたぶん、魔道具、それか魔法石の効果だったはずだ。
 何度も何度もソレを使ってきた俺だから分かる。
「魔法じゃない効果を付与した」魔法石の効果を発動させた時に感じる、何かスキルが発動したような奇妙な違和感。
 それと似た違和感を、マヨイの最初の一撃がすり抜けた時に感じたんだ。

 つまり。
 このダンジョンには魔物を支配できるようなエルフがいて、そいつ自身が《付与術師》か、それか仲間に《付与術師》がいる。
 それか《付与術師》のように特殊な力をものに付与できる何らかの力を持つ者が。

 ……今まで考えたことがなかった訳じゃなかった。
 職業スキルは1種類に付き一人にしか与えられるわけではないんだ。
 俺と同じ《付与術師》を持ったヤツがこの世界に何人もいる可能性はあるんだ。
 俺が思いもつかないような付与魔法を使うヤツがいたって不思議じゃないし、ソイツが敵として現れる可能性だってゼロじゃないんだ。

 俺でさえ、自分や仲間を強化してこんな深層まで来れるようになってるんだ。
 俺より頭のいいヤツが同じ力を持ってたりしたら……

 ゾクリ

 冷たいものが背中を通り抜けて行った。
 俺は身震いをして、これからどうするかを考えながら、嘘つきさんに声をかけた。

「全部嘘さん、ダークエルフについて知ってる事、全部教えてくれないですか?」
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