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変化
10 隠密
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「ちょっとやべぇなアイツら」
「マッドボアを一刀両断……ハイレベルオーガも一対一で討伐可能……確かに私たちと同じかそれ以上ね」
「もう一人もいい動きでしたね。しかも前衛の動きが見えないようにこちらの視線を切るように立ち回ってました」
「しかもアイツらお得意のハンマーじゃなかったかんな。それになんだよあの刀は。あれがダンジョンブレイクの報酬だったってのか? ……ワイハラー」
「御意」
ワイハラーがあの三人を追ってパーティーを離れていく。
「いいの?」
「この階層の罠なら把握してんだろ? ティリアリータとヒアルローのレベル上げは俺とお前がいれば足りる」
ギルドメンバーに素の口調で話すようになったヒグティは、言い方は乱暴になったものの、今までよりもストレートで分かりやすくなっていた。
そしてそれは、ピゼリアとしてはヒグティとの距離が近付いたように思えて喜ばしいことだった。
ただ、ヒグティが抱えている闇についてはまだ何も聞けていない。
彼が何に怯えているのか。おおよその想像はついているものの、やはり、それは彼から、彼の口から話してほしかった。
だから待つのだ。
そして生き延びるのだ。
このダンジョンの中で、彼と一緒に。
「そうね」
ピゼリアはそう答えて、歩きだしたヒグティについていったのだった。
ヒグティさんが言ってたようにこの三人はかなりやばい、と言うか凄い。
ヒグティさんのほぼ無言の指示でコイルたち三人組を追ってきたけど、彼らの感知能力が高くてあまり近寄れない。
というか、たぶんもう跡をつけてるのはバレてると思う。
魔術師系はいないはずなんだけど、ヌーコというスカウトの《危機感知》か何かがやたらと高いのかも知れない。
《隠密》を発動していると、それを見破られた時に、自分が見つかっていることを感じ取ることができるんだけど、「彼らの姿が見える前の時点で」私の存在が見つかったことを感じちゃったんだよね。
魔術師がいなくても《エコー》を持ってるのかも知れない。でも、《隠密》中はスキルレベルの低い《エコー》には引っかからないはずだし、彼らの中で《エコー2》やそれ以上を持ってる人はいないだろう。
となると、ヌーコと言う娘の《危機感知》が高くて広範囲だって予想ができる。
どうしようか……この情報だけじゃヒグティさんは納得しないだろう。
んーーーー。
何か方法はないかな。
ニンニンニンニンニンニンニンニン……ピコーん!
私がつけて来てるのはバレてるんだから……それ以外の人が近付けばいい話だね。
「誰かー! 誰か助けてー!」
女性の声が通路の奥から響いてきた。
一つ、いや二つくらい先の空洞からだろうか。
「コイル、聞こえた?」
「んー、なんか聞こえたな」
「あっちの方から助けてって聞こえて来たんだよ」
二人が唐突に何について話だしたのかが分からずにキョトンとするマヨイに、ヌーコが説明してあげる。
ヌーコは知覚度が高く、なおかつ普段から周囲の変化にアンテナを張っている為、その声が聞こえたようだ。
コイルは広範囲型の《ストーンオブエコー》で定期的に周囲を確認しているので、奥の方で戦闘が始まっている事は把握していたのだった。知っていてそちら気を向けていたから聞こえたのかも知れない。
「動かないってことは大丈夫ってこと?」
「たぶんな」
「本当に?」
ちょっと待て、と手を上げて《ストーンオブエコー》を再度実行するコイル。
「あと一匹みたいだ」
だから大丈夫、とばかりに目を閉じるコイル。どうやら使った精神力を回復するために《休息》するようだ。
じゃあいっか、とばかりにコイルの隣に座り直して腕を組むヌーコ。
同じようにスススっとヌーコの反対側に座り、同じようにコイルの腕に自分の腕を絡ませるマヨイ。
静かになった空洞に、もう一度「助けてー」と言う声が聞こえて来たのだが、コイルは目を開けることはなかったし、ヌーコも聞き流すことにしたのだった。
今度の声は先程よりも大きくてマヨイにも聞こえていたのだが、彼女もまたスルーすることにしたようだった。
嘘でしょ?
呼べど叫べどアイツら来ないんだけど。
フォレストゴブリンは全部倒して、ハイオーガ一匹を残しておいた。
残しておいたというか、ハイオーガの攻撃を避けることができても、ワイハラーの火力では簡単には倒すことができないのだ。
だから、ハイオーガの攻撃を避けながら彼らに聞こえるように大声を出してるんだけど、あれから2分は経つと言うのに彼らはやって来ない。
絶対に聞こえてるはずなんだけど。
防衛戦の時の彼らを見る限り、街や人を守るタイプの人たちだと思ってたんだけど見込み違いなんだろうか。
仕方ない。
こうなったら最後の手段だ。
このモンスターを連れて彼らのいる部屋に行くしかない。
来ないならこっちから行くまでだ。
そう思って隣の空洞、そしてコイルたちのいるその奥の空洞に辿り着くと。
そこはもぬけの殻で、誰も居なかったのである。
「本気……?」
ついつい独り言が出てしまった。
もしかして私だってバレてた?
助けを呼ぶ声が聞こえてきたのに、助けに行かず別の道に進む……あの三人の強さで逃げ出す必要は無いわけだから、面倒事を避けた?
そんな人でなしのようには思えないから、私が一人で対応できることが分かってた?
つまり、助けを求めてるのがそれなりに力のある人間だと分かってたってこと?
どうやって?
それとも、自分の身かわいさのあまり逃げ出すような人でなし、クズだったってこと?
私はハイオーガの鬱陶しい攻撃を避けながら、グルグルと色々なことを考えていた。
で、結論。
私はハイオーガがついてこれないスピードで通路に入り、駆け抜け、コイルたちのいる方向へ突き進む。
アイツらが戦闘中でもそうでなくても構わない。
アイツらのパーティーに入り込んで潜入捜査するぞ!
「マッドボアを一刀両断……ハイレベルオーガも一対一で討伐可能……確かに私たちと同じかそれ以上ね」
「もう一人もいい動きでしたね。しかも前衛の動きが見えないようにこちらの視線を切るように立ち回ってました」
「しかもアイツらお得意のハンマーじゃなかったかんな。それになんだよあの刀は。あれがダンジョンブレイクの報酬だったってのか? ……ワイハラー」
「御意」
ワイハラーがあの三人を追ってパーティーを離れていく。
「いいの?」
「この階層の罠なら把握してんだろ? ティリアリータとヒアルローのレベル上げは俺とお前がいれば足りる」
ギルドメンバーに素の口調で話すようになったヒグティは、言い方は乱暴になったものの、今までよりもストレートで分かりやすくなっていた。
そしてそれは、ピゼリアとしてはヒグティとの距離が近付いたように思えて喜ばしいことだった。
ただ、ヒグティが抱えている闇についてはまだ何も聞けていない。
彼が何に怯えているのか。おおよその想像はついているものの、やはり、それは彼から、彼の口から話してほしかった。
だから待つのだ。
そして生き延びるのだ。
このダンジョンの中で、彼と一緒に。
「そうね」
ピゼリアはそう答えて、歩きだしたヒグティについていったのだった。
ヒグティさんが言ってたようにこの三人はかなりやばい、と言うか凄い。
ヒグティさんのほぼ無言の指示でコイルたち三人組を追ってきたけど、彼らの感知能力が高くてあまり近寄れない。
というか、たぶんもう跡をつけてるのはバレてると思う。
魔術師系はいないはずなんだけど、ヌーコというスカウトの《危機感知》か何かがやたらと高いのかも知れない。
《隠密》を発動していると、それを見破られた時に、自分が見つかっていることを感じ取ることができるんだけど、「彼らの姿が見える前の時点で」私の存在が見つかったことを感じちゃったんだよね。
魔術師がいなくても《エコー》を持ってるのかも知れない。でも、《隠密》中はスキルレベルの低い《エコー》には引っかからないはずだし、彼らの中で《エコー2》やそれ以上を持ってる人はいないだろう。
となると、ヌーコと言う娘の《危機感知》が高くて広範囲だって予想ができる。
どうしようか……この情報だけじゃヒグティさんは納得しないだろう。
んーーーー。
何か方法はないかな。
ニンニンニンニンニンニンニンニン……ピコーん!
私がつけて来てるのはバレてるんだから……それ以外の人が近付けばいい話だね。
「誰かー! 誰か助けてー!」
女性の声が通路の奥から響いてきた。
一つ、いや二つくらい先の空洞からだろうか。
「コイル、聞こえた?」
「んー、なんか聞こえたな」
「あっちの方から助けてって聞こえて来たんだよ」
二人が唐突に何について話だしたのかが分からずにキョトンとするマヨイに、ヌーコが説明してあげる。
ヌーコは知覚度が高く、なおかつ普段から周囲の変化にアンテナを張っている為、その声が聞こえたようだ。
コイルは広範囲型の《ストーンオブエコー》で定期的に周囲を確認しているので、奥の方で戦闘が始まっている事は把握していたのだった。知っていてそちら気を向けていたから聞こえたのかも知れない。
「動かないってことは大丈夫ってこと?」
「たぶんな」
「本当に?」
ちょっと待て、と手を上げて《ストーンオブエコー》を再度実行するコイル。
「あと一匹みたいだ」
だから大丈夫、とばかりに目を閉じるコイル。どうやら使った精神力を回復するために《休息》するようだ。
じゃあいっか、とばかりにコイルの隣に座り直して腕を組むヌーコ。
同じようにスススっとヌーコの反対側に座り、同じようにコイルの腕に自分の腕を絡ませるマヨイ。
静かになった空洞に、もう一度「助けてー」と言う声が聞こえて来たのだが、コイルは目を開けることはなかったし、ヌーコも聞き流すことにしたのだった。
今度の声は先程よりも大きくてマヨイにも聞こえていたのだが、彼女もまたスルーすることにしたようだった。
嘘でしょ?
呼べど叫べどアイツら来ないんだけど。
フォレストゴブリンは全部倒して、ハイオーガ一匹を残しておいた。
残しておいたというか、ハイオーガの攻撃を避けることができても、ワイハラーの火力では簡単には倒すことができないのだ。
だから、ハイオーガの攻撃を避けながら彼らに聞こえるように大声を出してるんだけど、あれから2分は経つと言うのに彼らはやって来ない。
絶対に聞こえてるはずなんだけど。
防衛戦の時の彼らを見る限り、街や人を守るタイプの人たちだと思ってたんだけど見込み違いなんだろうか。
仕方ない。
こうなったら最後の手段だ。
このモンスターを連れて彼らのいる部屋に行くしかない。
来ないならこっちから行くまでだ。
そう思って隣の空洞、そしてコイルたちのいるその奥の空洞に辿り着くと。
そこはもぬけの殻で、誰も居なかったのである。
「本気……?」
ついつい独り言が出てしまった。
もしかして私だってバレてた?
助けを呼ぶ声が聞こえてきたのに、助けに行かず別の道に進む……あの三人の強さで逃げ出す必要は無いわけだから、面倒事を避けた?
そんな人でなしのようには思えないから、私が一人で対応できることが分かってた?
つまり、助けを求めてるのがそれなりに力のある人間だと分かってたってこと?
どうやって?
それとも、自分の身かわいさのあまり逃げ出すような人でなし、クズだったってこと?
私はハイオーガの鬱陶しい攻撃を避けながら、グルグルと色々なことを考えていた。
で、結論。
私はハイオーガがついてこれないスピードで通路に入り、駆け抜け、コイルたちのいる方向へ突き進む。
アイツらが戦闘中でもそうでなくても構わない。
アイツらのパーティーに入り込んで潜入捜査するぞ!
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