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変化

5 銀髪のダークエルフ

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 ステーキ屋の一番奥にあるテーブルで、俺たちは店で一番高いステーキを食べいている。
 俺の奢りで。

 朝、隠密スタイル忍者モードのままでそっと自分の部屋に帰ったのだが、夜いなかったことがバレてるのだからなんの意味もなかった。
 まあ、ヌーコに「何時くらいに帰ってきたの?」と聞かれた事で、俺は小言とステーキ代に十分見合った見返りを得ることができたからいいんだけど。
 だってさ。
 つまり、ヌーコは俺が隣の部屋に何時に帰ってきたか気が付かなかった、ってことだからな。
 スカウト系の彼女に気付かれずに部屋に帰れたのは、俺にとって誇れることなんだ。
 うん。

「へぇ……エルフね」

「そう。前に神剣の戦士が呪いの装備で死んだ時にも銀髪褐色のエルフがいたらしい」

「ゲームならダークエルフってところか」

「だね。んでね? さっき話した宝箱から出た武器を使ってた子が、そのダークエルフと戦う時に麻痺状態になっちゃったらしくて。それってさ」
「神剣の時と似てる」
「あっ、マヨイちゃんってばまた邪魔して! これは私が話すってことになってたでしょ」

「そうだったっけ? ごめん」

 そう言ってステーキをモグモグと食べるマヨイ。これは絶対にわざとやったな。
 まったく、と思いながら、二人のやり取りを見てつい笑ってしまう。

「コーイールー? なあーに笑ってるの?」

「いや、別に笑ってないって。マヨイはニヤニヤしてるっぽいけど」

 バッとヌーコが左にいるマヨイの方を向くと、マヨイもプイッと左を向いた。
 モグモグしてるけど、俺の位置からはほっぺがニヤニヤしてるのが分かった。
 それを見て、また俺もプッと笑ってしまった。

「んも~……ちゃんと調べたことコイルに話したいのに二人とも~!」

「悪い悪い。まあマヨイはほっとくとして。それでその麻痺ってのは確かな情報なのか?」

 まだブータレそうな顔のヌーコだったが、なんとか落ち着きを取り戻して話を続けてくれた。

「それは確かみたいだよ。本人が生き残ってるから」

 主にヌーコが話してくれたことをまとめるとこうだ。

 最近、アブクマダンジョン内で宝箱が見つかるようになったそうだ。
 階層主のように魔物を倒すと現れる、というこことではなくて、空洞内や通路の行き止まりなんかに宝箱が置かれてるのだそうだ。
 もちろん、空洞に魔物がいれば、それを倒す必要はあるんだろうが。

 で、その宝箱には武器か防具が入っていて、それを装備すると明らかに魔法の効果と思われる力を感じるんだそうだ。
 武器なら見た目からは想像できないほどの威力を発揮するし、防具なら鋼鉄製のようなのに革製品のように軽かったりと、効果は様々らしいが。
 ただ、少なからず副作用もあるらしく、異常に疲れやすくなったり、変な無敵感を感じたりするのだそうだ。
 そしてもう一つ。
 その武器や防具を、まるで恋人のように大事に扱うようになり、決して手放さなくなるんだそうだ。

 実際、短剣しか使わないスカウトが、宝箱に入っていた長槍ロングスピアを手にした途端、それを戦士に譲ることなく自分が使うと言い出したケースがあったそうだ。

 ともかく、そんな魔法の武具を手に入れたパーティーがいくつもあるらしい。
 それらの武具は、店売りの物よりも見た目が派手で、見ればすぐに噂の魔法の武具だということが分かるらしい。
 今のところ確認されているのは10個だそうだ。

 で、さっきのヌーコの話に戻る。

「なんかね、そのダークエルフとオーガの群れとの戦いの最中に、宝箱産の戦斧を使ってたファイターが急に固まっちゃったんだって。別にダークエルフが《パラライズ》を唱えたようには見えなかったらしいんだけど、麻痺状態になって動けなくなっちゃったんだって」

 神剣のバババランが死んだ時の噂話はもっと酷い。窒息死するほどの麻痺状態になったと言う話だからな。嘘か本当か分からないけど。

「で、結局そのファイター任せで14階層まで進んでたそのパーティーはあわや全滅の危機、だったらしいんだけど、たまたま近くに来ていた神剣のメインパーティーが助けたんだって」

「へぇ……」

 その話が一番驚きの情報だよ。
 メインパーティーってことはヒグティがいたってことだろ?
 あの人というかアイツが人助けとか……人って変わるもんだなぁ。

「でね。ダークエルフには逃げられちゃったらしいんだけど、オーガを全部倒した後、つまりその戦闘が終わった後もね、戦士の麻痺が解けなかったんだって。んで、神剣の新しいヒーラーさんが《アンチパラライズ》を唱えたんだけどそれでも麻痺を解けなかったんだってさ」

 そんなことってあるの、か……?
 単なる状態異常なら魔法で回復できるはずだよな。

「それから?」

「その後のことは噂話レベルの話だけしか聞けなかったんだよねー。そのまま全身麻痺したままとか、手から戦斧がはずせないままとか、腕ごと切り離したら麻痺が解けたとか、神剣のピゼリアさんが《ディスペル》で治したとか色々」

 そう言って、肩を竦めながら手のひらを上に向けてお手上げのポーズをとるヌーコ。

「そっか……他にはどんな話があった?」

 俺たちがアブクマダンジョン街を離れていた間に起こっていた出来事について、ヌーコ(とマヨイ)が調べてきてくれた話を聞きながら食事を終わらせ、ヌーコたちのお勧めのお洒落なコーヒーの飲める店に移動したのだった。

 そして、二軒目のその店の支払いも俺が奢ったのだった。
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