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それぞれの秋
全滅の秋 1
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「これでとうとう10組目か……」
10組。それはここ一ヶ月の間で、ダンジョンに入ったまま戻らないパーティーの数だ。
新人パーティー、生活探索者、10階層以降の階層の探索許可を得た中堅探索者が戻っていない。
パーティーの全滅自体はない話ではない。
寧ろ、一人がやられた為に総崩れになって全滅するパターンはよくある話だ。
全滅の場面に立ち会う機会はなかなかないし、そんな場面に遭遇すれば、通常は手助けに入るものなのだから。
ただ、時に新人パーティーの全滅の危機を、別の新人パーティーが見つけることがある。
その時のパーティーの状況次第では、その場で助けずに、逃げて管理局に助けを求めることもあり、そういった時の話をまとめていくと、前衛崩壊、それか盾を持ったものが倒れていた、というケースが多いのだ。
まあ、それはそれとして、だ。
一ヶ月という短期間での多数のパーティー全滅という事態は、魔物以外による原因を考えるには十分な事態だ。
いや、既に半月ほど前から管理局は動き出していた。
ただ、調査隊を複数潜らせて、1階層から8階層までの調査、捜査を行なっているのだが、未だにその足跡を掴むことができないでいた。
想定されている事態は、低階層で危険な魔物がポップするようになったか、探索者刈りという非道を行う者たちが現れたか、だ。
前者はなさそうだという結論に達していた。
隅なく隅々まで調査を行ったが、新たな通路も発見されないし、新種の罠も無い。新種の魔物や、深階層の魔物が上がってきている様子もないからだ。
そうなると、厄介な探索者刈りが現れたと考える他なくなるわけだ。
だが、怪しいパーティーが潜っていないかどうか、入場者記録を確認しているのだが、それらしいパーティーが見当たらない。
このニッパラダンジョン街は、他の有名なダンジョン街に比べると出来てからまだ日が浅い。
他の管理局管理ダンジョン街は比較的早くに管理が始まったのだが、ここは管理が始まってからまだ1年も経ってない。
ただその分、このニッパラダンジョン街で活動している探索者たちの情報は把握できているはずなのだ。
とは言え、ダンジョンの規模が小さいわけではないし、有力な探索者たちも増えてきて、着実に賑やかに栄えてきている。
訓練所にやって来る新人探索者も多いし、他のダンジョンで活動していた中堅どころが移籍してきたりもしている。
新たな店舗を構える為にやって来るものもいるし、人口は既に1万5千人近くまで増えている。
2か月くらい前にはソロのスペルキャスターが来たし、つい最近にも二人組の凄腕探索者がやって来た。
二人組の方はレベル棒判定でかなりの高レベルであることが分かっていたし、来てすぐに10階層に到達していた。何故偽名を使っているのかは分からないが、おそらくアブクマから情報のあった《勇者》で間違いないだろう。
「失礼します!」
ドアのノックと共に、返事を待たずに扉が開かれ、軍人じみたキレのある声と、その声の主が部屋に入ってきた。
「ダンジョン内で賊に襲われた者が生還しましたのでご報告に上がりました!」
ガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、ニッパラダンジョン管理局の管理局長は「案内してくれ」と鼻息荒く返事を返したのであった。
「そんなバカな……」
生き残った調査隊員の話はにわかには信じられないものだった。
賊はたった一人。
しかもスペルキャスター。
その風貌から、2か月くらい前にやって来たダダルーヤンというスペルキャスターだろうという所まで確認が終わっていた。
《インビジブル》で姿を隠し、《スリープ》で昏倒させ、ナイフで首を裂く。
完全なる不意打ちによる虐殺が行われていたのだろうと予測される。
《エコー》でその存在を検知されないような魔法も使っているのかも知れない。
それが生き残り、帰ってきてくれた調査隊員、ミイレークの話を元にまとめたダダルーヤンの犯行手順だった。
不意打ちでかけられる《スリープ》は非常に強力で、生き残ったスペルキャスターがそれに抵抗できたのは、彼が感応度極振りの魔法特化型だったからなのだろう。
《スリープ》で倒れなかったミイレークに対し、ダダルーヤンは追撃の《マジックミサイル》を撃ってきたそうだ。
それでダダルーヤンの存在と位置を確認したミイレークは咄嗟に《ウインドカッター》で反撃をし、ダダルーヤンはダンジョンの奥に逃げて行ったのだそうだ。
昏倒させられた他の調査隊員が目を覚ますまでに時間がかかり、その間に湧いた魔物との戦闘などもあったために、ミイレークたちは満身創痍の状態でダンジョンを脱出してきたのだという。
その後、ダダルーヤンは指名手配される事になった。
感応度の高いメンバーのいないパーティーは、ダダルーヤンが逮捕、または討伐されるまではダンジョンへの入場を禁止することになった。
基準はミイレークの感応度22だ。
そのため、ほとんどの探索者は該当しなくなってしまった。
結局、捕縛・討伐隊は管理局と一般探索者、そして中央都警備隊の混成パーティーとなることが決まった。
管理局からはスペルキャスター2名と、魔法耐性を上げるアミュレットを持たせたアタッカーが1名。
一般探索者からは、話を聞きつけて手を上げたオーバーウォーカーこと、《勇者》ベイガー。
それからもう一人、中央都警備隊からは新人スペルキャスターが派遣されることとなった。
明日の午後には中央都警備隊のスペルキャスターが到着する手はずだ。
それまでにダダルーヤンがダンジョンから出てきた場合には、この4人の他に、ここで待機している全員で押し込む予定だ。
多人数に効果のある《スリープ》とは言え、四方八方を囲む管理局員、探索者たち全員を一気に昏倒させることはできないはずだ。
念の為、少し距離をとってアーチャーとスペルキャスターを配置してある。
出てくるにせよ、中で逃げ隠れを続けるにせよ、ダダルーヤンはもう捕らえたも同然の状況だった。
10組。それはここ一ヶ月の間で、ダンジョンに入ったまま戻らないパーティーの数だ。
新人パーティー、生活探索者、10階層以降の階層の探索許可を得た中堅探索者が戻っていない。
パーティーの全滅自体はない話ではない。
寧ろ、一人がやられた為に総崩れになって全滅するパターンはよくある話だ。
全滅の場面に立ち会う機会はなかなかないし、そんな場面に遭遇すれば、通常は手助けに入るものなのだから。
ただ、時に新人パーティーの全滅の危機を、別の新人パーティーが見つけることがある。
その時のパーティーの状況次第では、その場で助けずに、逃げて管理局に助けを求めることもあり、そういった時の話をまとめていくと、前衛崩壊、それか盾を持ったものが倒れていた、というケースが多いのだ。
まあ、それはそれとして、だ。
一ヶ月という短期間での多数のパーティー全滅という事態は、魔物以外による原因を考えるには十分な事態だ。
いや、既に半月ほど前から管理局は動き出していた。
ただ、調査隊を複数潜らせて、1階層から8階層までの調査、捜査を行なっているのだが、未だにその足跡を掴むことができないでいた。
想定されている事態は、低階層で危険な魔物がポップするようになったか、探索者刈りという非道を行う者たちが現れたか、だ。
前者はなさそうだという結論に達していた。
隅なく隅々まで調査を行ったが、新たな通路も発見されないし、新種の罠も無い。新種の魔物や、深階層の魔物が上がってきている様子もないからだ。
そうなると、厄介な探索者刈りが現れたと考える他なくなるわけだ。
だが、怪しいパーティーが潜っていないかどうか、入場者記録を確認しているのだが、それらしいパーティーが見当たらない。
このニッパラダンジョン街は、他の有名なダンジョン街に比べると出来てからまだ日が浅い。
他の管理局管理ダンジョン街は比較的早くに管理が始まったのだが、ここは管理が始まってからまだ1年も経ってない。
ただその分、このニッパラダンジョン街で活動している探索者たちの情報は把握できているはずなのだ。
とは言え、ダンジョンの規模が小さいわけではないし、有力な探索者たちも増えてきて、着実に賑やかに栄えてきている。
訓練所にやって来る新人探索者も多いし、他のダンジョンで活動していた中堅どころが移籍してきたりもしている。
新たな店舗を構える為にやって来るものもいるし、人口は既に1万5千人近くまで増えている。
2か月くらい前にはソロのスペルキャスターが来たし、つい最近にも二人組の凄腕探索者がやって来た。
二人組の方はレベル棒判定でかなりの高レベルであることが分かっていたし、来てすぐに10階層に到達していた。何故偽名を使っているのかは分からないが、おそらくアブクマから情報のあった《勇者》で間違いないだろう。
「失礼します!」
ドアのノックと共に、返事を待たずに扉が開かれ、軍人じみたキレのある声と、その声の主が部屋に入ってきた。
「ダンジョン内で賊に襲われた者が生還しましたのでご報告に上がりました!」
ガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、ニッパラダンジョン管理局の管理局長は「案内してくれ」と鼻息荒く返事を返したのであった。
「そんなバカな……」
生き残った調査隊員の話はにわかには信じられないものだった。
賊はたった一人。
しかもスペルキャスター。
その風貌から、2か月くらい前にやって来たダダルーヤンというスペルキャスターだろうという所まで確認が終わっていた。
《インビジブル》で姿を隠し、《スリープ》で昏倒させ、ナイフで首を裂く。
完全なる不意打ちによる虐殺が行われていたのだろうと予測される。
《エコー》でその存在を検知されないような魔法も使っているのかも知れない。
それが生き残り、帰ってきてくれた調査隊員、ミイレークの話を元にまとめたダダルーヤンの犯行手順だった。
不意打ちでかけられる《スリープ》は非常に強力で、生き残ったスペルキャスターがそれに抵抗できたのは、彼が感応度極振りの魔法特化型だったからなのだろう。
《スリープ》で倒れなかったミイレークに対し、ダダルーヤンは追撃の《マジックミサイル》を撃ってきたそうだ。
それでダダルーヤンの存在と位置を確認したミイレークは咄嗟に《ウインドカッター》で反撃をし、ダダルーヤンはダンジョンの奥に逃げて行ったのだそうだ。
昏倒させられた他の調査隊員が目を覚ますまでに時間がかかり、その間に湧いた魔物との戦闘などもあったために、ミイレークたちは満身創痍の状態でダンジョンを脱出してきたのだという。
その後、ダダルーヤンは指名手配される事になった。
感応度の高いメンバーのいないパーティーは、ダダルーヤンが逮捕、または討伐されるまではダンジョンへの入場を禁止することになった。
基準はミイレークの感応度22だ。
そのため、ほとんどの探索者は該当しなくなってしまった。
結局、捕縛・討伐隊は管理局と一般探索者、そして中央都警備隊の混成パーティーとなることが決まった。
管理局からはスペルキャスター2名と、魔法耐性を上げるアミュレットを持たせたアタッカーが1名。
一般探索者からは、話を聞きつけて手を上げたオーバーウォーカーこと、《勇者》ベイガー。
それからもう一人、中央都警備隊からは新人スペルキャスターが派遣されることとなった。
明日の午後には中央都警備隊のスペルキャスターが到着する手はずだ。
それまでにダダルーヤンがダンジョンから出てきた場合には、この4人の他に、ここで待機している全員で押し込む予定だ。
多人数に効果のある《スリープ》とは言え、四方八方を囲む管理局員、探索者たち全員を一気に昏倒させることはできないはずだ。
念の為、少し距離をとってアーチャーとスペルキャスターを配置してある。
出てくるにせよ、中で逃げ隠れを続けるにせよ、ダダルーヤンはもう捕らえたも同然の状況だった。
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