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イナワシロレイクダンジョン

16 報酬の取り分

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 その日の内に3階層までの階層主を倒すことに成功し、ここまでやっておけば魔物が外に出てくることはないだろう、という判断のもと、俺たちは地上に戻ってきた。

 2階層の階層主は赤いゴブリン5体だった。
 おそらくだが、ウォリアー3、キャスター2だったんじゃないかと思う。
 と言うのも、1階層でまともに戦えなかったマヨイが、10秒でいいから自分に時間をくれとわがままを言い出してしまい、まあ、ボードボーダルの「今日の俺らはサポートだ」というオーケーの言葉も貰えてしまい……その10秒でマヨイが5匹とも片付けてしまったのだった。
 だから、ゴブリンの動き出ししか見れてないので「おそらく」としか言えないという。

 戦闘後に現れた宝箱もヌーコがさっくりと開けてしまい、中からはやはり宝石が出てきた。
 それと指輪が5つ入っていた。



 3階層の階層主は大型の狼だった。
 やはり毛の色は赤く、異様な迫力を持っていた。
 のだが。
 1階層で手に入れた黒刀――柄のない黒い短刀――の能力を使ったヌーコが、即時にその前足を切り落とした為に、戦闘はほとんど動けない狼をいじめるだけのものとなってしまった。

 黒刀は「柄頭に精神力を捧げてから振ると斬撃を飛ばす」ことができるという、魔法のような効果を持っていたのだ。
 もちろん、普通に使ってたらただの黒く塗ったドスだ。
 俺が《付与術師》を持ってるからこそ使い方が分かったというね……しかし1階層から出たとは思えない程の性能で驚いた。

 3階層の宝箱からはやはり宝石が数個と、本気小さなショートクロスボウが出てきた。
 矢は入ってなかったのだが、チャッキーンとノマヴーヴルが物欲しそうに見ていた。



 外に出て来た時には既に真夜中になっていた。
 管理局の人たちは半分の5人が起きて待ってくれていて、夜食を作ってくれたので、探索の話をしながらありがたくいただいた。

 そして、宝の分配なわけだけど、その話が始まるとすぐに、チャッキーンとノマヴーヴルが小さなクロスボウを欲しがったのだった。
 ボードボーダルがそれを諌めたのだが、「旦那はサイクロプス殺しの称号と凄えハルバードを手に入れてっからそんな事が言えるんだ」と反撃を食らってしまい、そして、仲間たちが今回の遠征では仇討ちを達成した以外には何も手に入れてないことにようやっと気が付いたようだった。

 サイズの合う矢がないのでまだ試し撃ちもしてないアイテムだが、俺はこれが魔道具だと言うことを知っている。
 だが、俺のスキルバレを防がなければならない為、彼らにその具体的な説明をしてやることはできない。

 俺はヌーコとマヨイを見た。
 彼女たちにもまだこのアイテムの能力について話してないが、この段階で彼女たちがオーケーを出すのなら渡してしまってもいいと思っている。
 ただ、このイナワシロレイク・ダンジョンが次の4階層で終わってしまう可能性もあるわけだ。
 そうなった場合、彼らは少なくとも4分の1の成果を持っていくことになるわけだ。

 ま、いいか。

 甘いかも知れないけど、こういった物を俺自身が作れる可能性がある、って分かっただけでも結構満足しているのだ。

「最初に戦神の方々での話がちゃんとされてなかったのかも知れないですけど、この一つをお渡ししたら最後になりますか? コイルはこういった話に甘いところがあるからはっきりさせておきたいです」

 そう言ったのはヌーコだった。

「仇討ちをお手伝いしたくて、ミノタウロスのハルバードを取ってきて無償でお渡ししました。だからサイクロプスのとどめも譲りました。その魔石を管理局に譲ったのも別にいいと答えました。……もう一度言いますがゼルサンの仇討ちをお手伝いしたかったから、です」

 戦神のメンバーが黙りこくった。

「その代わりに、ダンジョン探索の権利を譲ってくれるという話になったんじゃないんでしょうか? それは私たちから「そうしたい」とお願いしたのではなくて、戦神の弟子というギルドからのお返しだと思っていたんですけど……ごめんなさい。別にがめつく全部私達のものだって言いたいわけじゃないんです。ただ、ここでコイルの甘さを通してしまうと、これからずっとそこを利用されてしまうんじゃないかと思ってしまって……長々とごめんなさい」

 これには俺も黙らざるを得なかった。
 俺は確かに、相手に何かを望まない代わりに、俺に面倒ごとを持ってきてほしくないって思ってるところがあるし。
 面倒ごとになるくらいなら、今みたいにこっちが引いてもいいかな、とか思うこともあるし。

「いや、俺も先走り過ぎてた部分があって迷惑をかけた。すまん。仲間の仇討ちができたことでみんなスッキリしてるかと思ったんだが、確かに俺だけが仇討ち以外のものを手に入れてたってことに気が付いた……みんなのことを考えずに勝手に色々決めちまって悪かった。すまん」

 そして戦神の4人はテントから出ていって暫く彼らだけで話し合ってから戻ってきた。

 俺も、彼らがいない間に、ヌーコから謝られたり注意されたりしていた。
 マヨイはヌーコが話している間は何も言わず、話が終わるとすぐ俺のそばに来て座って「あたしはコイルの味方」と言った。
 ヌーコがそういう話をしてたわけじゃないよと、今度はマヨイに色々と話し始めた。

 結局、小さいクロスボウを含め、ここまでの取り分は全て、俺らダンジョンウォーカーズの物にしてくれ、ということで話がついた。

 ただ、「次の4階層が行き止まりじゃなかったなら、そこの階層主との戦闘と、その宝箱の中身を譲ってもらえないか」と言う言葉が続いたのだが。

 彼らも知名度のあるパーティー、ギルドではあるが、これまでに階層主と戦った経験がないのだそうだ。
 4階層が最終階層だった場合は俺たちに譲るから頼む、そう言われて、俺は頷きそうになって……その直前にヌーコの顔色を見たのだった。
 舌の根も乾かぬうちに、と言うやつをやるところだった。危ない危ない。

 ヌーコ、マヨイと相談し、「それ以降の階層は何階層あってもダンジョンウォーカーズが単独で挑めるか」どうかを確認し、彼ら全員がそれに頷いたのを確認して、それを了承したのだった。

 ヌーコが。

「おめぇ、あの子の尻に敷かれるな、ぜってぇに」

 チャッキーンが俺に小声でそう言って「へへへ」と笑ったのだが、ヌーコの視線に気が付いて「おーこわっ」と慌ててテントの端に移動していったのだった。

 ああ、そうだな。
 俺もなんだか怖いと思うわ。
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