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イナワシロレイクダンジョン
2 ステーキを食べよう
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12時丁度にお気に入りのステーキ屋に着くと、店から少し離れた所で待っていたおっさんが駆け寄って来た。
その隣にはヤマヤーサさんもいた。
「おっさん、ご馳走してくれるんだって?」
「金持ちが貧乏人に集るなってんだよまったく……」
「コイルさん、こんにちは」
「こんにちは、ヤマヤーサさん」
「また来た」
「ヤマヤーサさんもいるってことは、おじさんとヤマヤーサさんの婚約発表とかですかね?」
「違いますっ!」
なんてやり取りをしながら店に入っていった。
昼時だったが多少値の張る店なので客付きは50パーセントくらいだ。
一応、おっさんは奥の席を予約してたらしく、俺たちはそこに案内された。
「で? いったい何の用なのさ?」
なんとなく分かってはいるのだが、早速おっさんに「なんで呼んだのか」聞いてみた。
「まあ待てよ。せっかく凄い店に入ったんだ。話は飯のあとにしようぜ?」
隣に座っているヤマヤーサさんが溜息混じりに目頭を摘んでみせた。
それもなんとなく理由が分かったから、じゃあそうするか、とその後はダンジョン攻略なんかについて5人で語ることにした。
頼んだステーキが美味そうな焼き加減で運ばれて来ると、人の注文内容に文句をつけてくるおっさんと少し口論になった。
いいんだよ。俺はほぼほぼウェルダンが好きなんだ。ヌーコにもマヨイにもせめてミディアムくらい試してみろとは言われてるんだが、俺はこの焼き加減が好きなんだって。
むしろおっさんの頼んだレアの方がステーキを冒涜しとるわ。
「ふぃー、ご馳走さんでした、と。やっぱりレアで旨いステーキはいいなあ。俺、よく焼かなきゃ危ねえような肉しか喰ってねぇからよ、普段……」
なるほどねー。
少し前までの俺もそうだったからなんとなく分かる。けど、おれは美味い肉でも良く焼きが好きなんだ。
で、食後の紅茶も出てきたことだし、話の本題に入ってもらおうかね。
「まあ分かってんだろ? あれだ、イナワシロレイクの件だよ」
「5番目の刺客はおっさんだったわけか」
「まあ無理だと思うぜ、とは言ってあるからな。断ってくれていいぜ?」
「ちょっ、ジュガガンさん?!」
「分かった。じゃあ断る」
「コイルさんまで?!」
「いや、ノリで断ったとかじゃないよ? 俺が行く必要性を全く感じないし、俺にはやりたい事があるからね。それを脇に置いてまで頼まれ事を優先したくないんだよ」
おっさんと俺にそれぞれツッコミを入れてきたヤマヤーサさんにそう説明する。
「おっさんだって断られるの分かってたからステーキを先に喰ったわけだろ? 局の金でステーキが食えただけで満足してそうだし」
「ノーコメントだよ。がははっ」
「……まあ、私も美味しいステーキを食べさせてもらったし、探索者のコイルさんに無理強いはできないし仕方ないですね」
「おじさんとヤマヤーサさんもイナワシロレイクに行くんですか?」
「いや? 俺らはこの間の防衛戦に参加したからな。今回はダンジョン内でお留守番だ」
「隠密」
「ん?」
「隠密してただけ」
「ぶっ」
おっさんが俺に向けて何かを吹き出す。おい、やめろっ。紅茶におっさんのツバフレーバーとかいらないから。
まあ、それはともかくとして、俺はマヨイが何を言いたいか分かってしまった。
「ですよね。私も言ったんですよ? 隠れてるだけとか絶対駄目ですよって」
「バカ言え。俺だって何匹かは倒してるわ」
「何匹かって……えええ、そういうことですかぁ? えええ? 当初の目的だって一人50体討伐だったじゃないですかぁ」
ヌーコが話の流れを理解して、テーブルに少し身を乗り出しておっさんに文句を言う。
そう、おっさんは戦闘が始まった途端、おそらく隠密系のスキルを発動してずっと隠れてたんだ。
あんな何時間もの戦いの中で、一人だけ楽することを選択できる図太さには思わず拍手を贈りたくなってしまうくらいだ。
「私だって《ヒール》の合間に20匹は倒したって言うのに……ジュガガンさんはまったく……」
「あーやめやめやめ。とにかく、だ。俺はせっかくステーキを御馳走したってのに、コゾーにイナワシロレイク行きを断られたって事で話は終わりだ、な? な? な?」
と言うことで、それ以上の追及を避けたいおっさんが話をまとめたことで、この食事会はお開きとなったのだった。
「暫く休養できたし、明日から潜りに行こうかと思うんだけどどうかな?」
「うん、行く」
「ですね。この間たくさん戦った分はもう休めましたね!」
「すぐに37になるかも」
「ですね……って、マヨイちゃんは私の3倍以上は倒してましたもんね。私だけレベルに差がついちゃいますかねー……」
「いや大丈夫だろ? 俺らはパーティーなんだから同じだけ貯まってんじゃないか?」
「それはそれで心苦しいものがあるというか……いはっ、いはいれう、マオイはん!」
マヨイがヌーコのほっぺを両側に引っ張る。
「ヌーコはいつも頑張ってる。そんなことは言ったらダメだから」
「そうだぞ? 俺もマヨイもヌーコに助けられてるんだ。そんな風に自分を下げるなっていつも言ってるだろ?」
「ホイウはん……ふぁい! っへ、ほろほろはなひれよ~」
「ぷぷっ」
「はははっ」
「んもー! 笑いすぎです! 結構痛かったんですからねー!」
「「はははははっ」」
「もーーー!」
俺たちは笑いながら、いくつかの店を周って明日からの探索のための買い物をしたのだった。
その隣にはヤマヤーサさんもいた。
「おっさん、ご馳走してくれるんだって?」
「金持ちが貧乏人に集るなってんだよまったく……」
「コイルさん、こんにちは」
「こんにちは、ヤマヤーサさん」
「また来た」
「ヤマヤーサさんもいるってことは、おじさんとヤマヤーサさんの婚約発表とかですかね?」
「違いますっ!」
なんてやり取りをしながら店に入っていった。
昼時だったが多少値の張る店なので客付きは50パーセントくらいだ。
一応、おっさんは奥の席を予約してたらしく、俺たちはそこに案内された。
「で? いったい何の用なのさ?」
なんとなく分かってはいるのだが、早速おっさんに「なんで呼んだのか」聞いてみた。
「まあ待てよ。せっかく凄い店に入ったんだ。話は飯のあとにしようぜ?」
隣に座っているヤマヤーサさんが溜息混じりに目頭を摘んでみせた。
それもなんとなく理由が分かったから、じゃあそうするか、とその後はダンジョン攻略なんかについて5人で語ることにした。
頼んだステーキが美味そうな焼き加減で運ばれて来ると、人の注文内容に文句をつけてくるおっさんと少し口論になった。
いいんだよ。俺はほぼほぼウェルダンが好きなんだ。ヌーコにもマヨイにもせめてミディアムくらい試してみろとは言われてるんだが、俺はこの焼き加減が好きなんだって。
むしろおっさんの頼んだレアの方がステーキを冒涜しとるわ。
「ふぃー、ご馳走さんでした、と。やっぱりレアで旨いステーキはいいなあ。俺、よく焼かなきゃ危ねえような肉しか喰ってねぇからよ、普段……」
なるほどねー。
少し前までの俺もそうだったからなんとなく分かる。けど、おれは美味い肉でも良く焼きが好きなんだ。
で、食後の紅茶も出てきたことだし、話の本題に入ってもらおうかね。
「まあ分かってんだろ? あれだ、イナワシロレイクの件だよ」
「5番目の刺客はおっさんだったわけか」
「まあ無理だと思うぜ、とは言ってあるからな。断ってくれていいぜ?」
「ちょっ、ジュガガンさん?!」
「分かった。じゃあ断る」
「コイルさんまで?!」
「いや、ノリで断ったとかじゃないよ? 俺が行く必要性を全く感じないし、俺にはやりたい事があるからね。それを脇に置いてまで頼まれ事を優先したくないんだよ」
おっさんと俺にそれぞれツッコミを入れてきたヤマヤーサさんにそう説明する。
「おっさんだって断られるの分かってたからステーキを先に喰ったわけだろ? 局の金でステーキが食えただけで満足してそうだし」
「ノーコメントだよ。がははっ」
「……まあ、私も美味しいステーキを食べさせてもらったし、探索者のコイルさんに無理強いはできないし仕方ないですね」
「おじさんとヤマヤーサさんもイナワシロレイクに行くんですか?」
「いや? 俺らはこの間の防衛戦に参加したからな。今回はダンジョン内でお留守番だ」
「隠密」
「ん?」
「隠密してただけ」
「ぶっ」
おっさんが俺に向けて何かを吹き出す。おい、やめろっ。紅茶におっさんのツバフレーバーとかいらないから。
まあ、それはともかくとして、俺はマヨイが何を言いたいか分かってしまった。
「ですよね。私も言ったんですよ? 隠れてるだけとか絶対駄目ですよって」
「バカ言え。俺だって何匹かは倒してるわ」
「何匹かって……えええ、そういうことですかぁ? えええ? 当初の目的だって一人50体討伐だったじゃないですかぁ」
ヌーコが話の流れを理解して、テーブルに少し身を乗り出しておっさんに文句を言う。
そう、おっさんは戦闘が始まった途端、おそらく隠密系のスキルを発動してずっと隠れてたんだ。
あんな何時間もの戦いの中で、一人だけ楽することを選択できる図太さには思わず拍手を贈りたくなってしまうくらいだ。
「私だって《ヒール》の合間に20匹は倒したって言うのに……ジュガガンさんはまったく……」
「あーやめやめやめ。とにかく、だ。俺はせっかくステーキを御馳走したってのに、コゾーにイナワシロレイク行きを断られたって事で話は終わりだ、な? な? な?」
と言うことで、それ以上の追及を避けたいおっさんが話をまとめたことで、この食事会はお開きとなったのだった。
「暫く休養できたし、明日から潜りに行こうかと思うんだけどどうかな?」
「うん、行く」
「ですね。この間たくさん戦った分はもう休めましたね!」
「すぐに37になるかも」
「ですね……って、マヨイちゃんは私の3倍以上は倒してましたもんね。私だけレベルに差がついちゃいますかねー……」
「いや大丈夫だろ? 俺らはパーティーなんだから同じだけ貯まってんじゃないか?」
「それはそれで心苦しいものがあるというか……いはっ、いはいれう、マオイはん!」
マヨイがヌーコのほっぺを両側に引っ張る。
「ヌーコはいつも頑張ってる。そんなことは言ったらダメだから」
「そうだぞ? 俺もマヨイもヌーコに助けられてるんだ。そんな風に自分を下げるなっていつも言ってるだろ?」
「ホイウはん……ふぁい! っへ、ほろほろはなひれよ~」
「ぷぷっ」
「はははっ」
「んもー! 笑いすぎです! 結構痛かったんですからねー!」
「「はははははっ」」
「もーーー!」
俺たちは笑いながら、いくつかの店を周って明日からの探索のための買い物をしたのだった。
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