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スタンピード

3 アブクマ・スタンピード3

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「ちっ、キリがないな! ワイハラーニンジャはまだ戻らないのか?」

 倒しても逃げても、前方からワラワラと魔物が現れ近付いてくる。
 俺のイライラの限界が近付いて来ていた。
 今は進行するのを止めて、交替で飯を食って休んでるところだ。
 ニンジャには先行させてダンジョンを探させてる。だからヤツが戻って来るまではここで待機状態なわけだ。
 魔物は俺らを見つけると、力量差があるにも関わらず襲い続けてくる。仲間がさっくり殺られたところで引きやしねぇ。
 さながら人間だけを対象にした狂戦士バーサーカーだ。
 死を恐れてないからめんどくせぇ。でもその分殺りやすいんだがな。
 ただ、精神力が回復し始める前に次が来やがるから、魔法を無駄打ちできねーし、だから一気に片付けてスカッとする事もできやしねぇ。

「地味にキツイですね」
「ええ、移動を開始してからもう3日目、も終わりですしね……一旦は平野部に入りましたけど、その後はまた山に入ってしまいましたから結構キますね。アブクマダンジョンからはそんなに遠くまでは来てないんでしょうけど」
「戦闘回数が多いですからね。もしかしたらまだ旧福島から出てないかも知れないですよ」

 女共がペチャクチャと喋ってやがる。
 うるせぇとは言わねーけど、キツイって言ってるわりには口はよく動くようだ。
 まあ、新しく出来たダンジョンを発見できりゃ、更にツライマッピング地獄と階層主との対戦の始まりだ。
 まあ、新たな魔道具や強力な武器防具が手に入りゃ疲れも吹っ飛ぶんだろうがよ。

「悪いが俺は先に寝させてもらう。敵が来たら頼む」

 この時間だとニンジャが帰ってきても移動は厳しいだろう。ダンジョンに長期間潜る時と同じだ。3時間ほど寝て、起きたら3時間見張りをする。
 ニンジャが3時間以内に帰ってくれば、6時間後の早朝には出発できる。
 俺は一人、眠りについた。



「ここから先、数キロはダンジョンはなかった。真剣はここより1キロくらい先行している」
「情報ありがとう。帰りも気を付けて帰ってください」
「うむ。ではまたな」

 忍者のように相手の気配が消えて無くなった。
 流石に一流の斥候スカウトだね。
 僕らを監視にしに来ていた彼と接触できたのは運が良かった。
 僕が《勇者4》で手に入れた《勇者派生・カリスマ》のおかげでギルドメンバーが順調に増えてきている。
 さっきの忍者みたいな人は、今はまだ正式には僕のギルドの人じゃないけど。
 この派生スキルは、初対面の人に与える第一印象が凄く良くなって信頼されやすくなるんだそうだ。
 勇者に対して、憧れや尊敬などの念を抱かせるらしい。
 まあ、向き合った相手に既に英雄的な存在がいる場合は効き目が薄くなるみたいだけど。

 今やギルド『勇者隊(仮名)』は僕を含めて総勢25名いる。
 一応、全員僕のカリスマ性とやらに惹かれて仲間になったらしい。
 スキルの力にカリスマって書いてあるからなー。僕自身の魅力じゃなくて《勇者》っていうスキルの力なのかも知れない。
 とはいえ、スキルを取得することも使いこなすことも実力と言えば実力だ。
 そう考えると、やっぱり僕自身が凄いってことなんだろうな、と言う至極簡単で明確な答えに辿り着く。

 いやだけど、今回、どっかのダンジョンがスタンピードを起こしたってことで、アブクマダンジョン街が魔物に襲われたのは僕にとって少しラッキーなことだった。
 だって、ダンジョンに入らない、入れない人たちは魔物の恐ろしさがまったく分かってなかったからね。それを知るいい機会になったと思うんだよ。
 で、街のみんなが改めて思い知った怖い魔物を、僕たち勇者隊が新しく出来たばかりのダンジョン諸共打ち倒してあげる。

 まあ、僕らの力を街の人に見せるって意味なら、街を襲ってくる魔物をみんなの前で倒してた方がいいんだろうけどね。
 ギルマスである僕の補佐をしてくれてる実質ナンバーツーのムナータジルが言うには、ダンジョンに攻め入った方が実入りもいいし、まだ新しくて浅い階層で終わってるようならダンジョンブレイクした方が有名になれるって話だから仕方ない。
 神剣に選ばれし者たちもダンジョンブレイクを狙ってるみたいだから負けてらんないし。

 ダンジョンブレイクってのいうのは、ダンジョンの最奥まで行ってその階層の階層主を倒すことだ。
 最奥の階層主が倒されると、そのダンジョンは消滅して一つの魔石になる。消滅するんじゃなくて、そのすべてのエネルギーを魔石に圧縮、変換するんだっていう人もいるけどどっちでもいい。
 大事なのはその魔石が物凄いエネルギーを持ってるってことと、ダンジョンを終わらせたという名誉が手に入ることだ。
 まだまだ、ぽっと出扱いの僕は、まあ、実際、ぽっと出なんだけど、とにかくまずは分かり易い実績が欲しい。

「神剣の後ろを追っかけるのもそろそろ終わりかな。彼らは今休んでるみたいだから、今のうちに少し回り道をして追い抜いちゃおう。強行軍になるけど、みんなついてきてくれるかな?」

「「「はい、もちろんです」」」

 僕は勇者補正で体力度が高いから全然疲れてないんだけどね。
 たぶん彼らにはしんどいんじゃないかな。
 でも、僕が頼めば各小隊パーティーのリーダーは喜んで気持ちのいい返事をしてくれた。

「ほら、シュゴリン行くよ?」
「あ、うん」

 疲れ気味のシュゴリンに手を差し出して立ち上がらせようとしたけど、「大丈夫」といって、僕の手を取らずに自力で立ち上がるシュゴリン。
 彼女の方が年上だから甘えにくいらしいんだけど、ちょっと悲しくなる。
 ダンジョンブレイクを成功させて、僕が頼れる男だってところを早く見せないとな。
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