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Dungeon Walkers
12 勇者と散歩をする者
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「あ、コイルさんこんにちはっ!」
「あっ……」
元気なベイガーと少し申し訳なさそうな顔をするシュゴリン。
いや、なんだか俺が振られたみたいな感じになるからやめてくれって。
簡単に立ち話しをしたあと、おれが魔道具を見周り終わるのを待っていた二人と、夜を待たずして「相談事」を聞くことになったのだった。
「まあ、ギルマスになるんならそういう判断も必要だよな」
「ということは?」
「いいよ」
喰い気味に返事を求めてきたベイガーに、俺は短くそう答えた。
まったくショックじゃないとは言わないが、予めシミュレーションしていたものの一つではあったからな。強がりとかではなく、まあ普通にそう言えたんじゃないだろうか?
「ホントですか? ありがとうございます!」
えっ、と言う顔をしているシュゴリンに、「ほらっ、コイルさんならオーケーしてくれるって言ったでしょ」とベイガーが満面の笑顔でそう言った。
「じゃあ話は終わりかな? 二人の邪魔したら悪いし俺はもう帰るわ」
そう言って自分のコーヒーの分だけ会計してアパルトマンに帰ったのだった。
ドンドンドンドンドン!
部屋のドアが強くノックされた。
まー、来るとは思ってたけど思ったよりも早かったな。
覗き穴からドアの向こうを見ると、そこにはマヨイとヌーコが立ってこちらを見ていた。
またノックしようと手を持ち上げたので慌てて返事をする。
「あーはいはいはい今開けるよ」
そう言って鍵を回し、ドアを開いて二人に顔を見せた。
「中、いい?」
「入りますよ」
いつものヌーコらしくなく、ドスドスと足音を立てながら、俺の脇を抜けて勝手に部屋に入っていく。その後を追うようにしてマヨイがついていき、それから最後に俺が部屋に戻ったのだった。
「どういうことなんですか?」
「あたしも聞きたい」
「なんだよいきなり? そっちからちゃんと話しなよ。話があって来たのは二人の方だろ?」
俺は余計な事を言わないようにする為に、俺から事のあらましを話すのは回避するべきだと思った。だから彼女たちが俺に何を聞きたいのかを聞くことにした。
「ベイガーがギルドを立ち上げるって話です。それにはコイルは入らないし、今後はヘルプも頼まないって!」
「んー、まあ、俺がベイガーと話したのはそれが全部だな。あってるよ」
「なんでそんな平気そうな顔してるんですか? シュゴリンだってベイガーだってコイルがパワーレベリングしてくれたから有名になれたのに! なんで切り捨てられたのに、なんで、なんで……悔しくないんですか!?」
「いや別に……そもそも、君らのパーティーから抜けるって提案は俺からしてた話だし」
「ほら、ね?」
「んんんんんんーーーーっ!」
「あたしは、コイルは切り捨てられたんじゃなくて、ちょうどいいと思ってると思うって言った。ヌーコに」
やたらと悔しがるヌーコに、どう話したもんかと困っていたのだが、やたらと勝ち誇った顔付きのマヨイがえらく的を得たことを言ってくれて理解できた。
「それで、コイルはこれからどうするんですか?」
「どうするって……今まで通りだよ。潜りたくなったら潜るし、のんびりしたかったら図書館に行くし。最近は金に困ることもなくなったしな」
「散歩?」
「ん?」
「潜るって、散歩?」
「ああ、まあ最近は11階層の支店付近は散歩感覚だよな、実際」
「あたしはまだ……8階層くらいまでなら散歩気分は分かる」
「私もです。8階層くらいまでなら」
「「だから、私(あたし)たちでやりましょう」」
「ん? 何を?」
「「ダンジョンウォーカーズを!!」」
えええ。
何言ってんだ二人とも。
「いやいやいや、だって二人はベイガーの……」
「抜けてきました」
「うん、抜けてきた」
抜けてきたって……え?
「はい。ベイガーとシュゴリンとはパーティーを解散してきました」
「うん。ベイガーは予想してたみたい。それに元々前衛はベイガーとシュゴリンで足りてた、から」
「なるほどね……まあ、間違ってないわな。ヌーコには残ってほしかったかも知れな、あっ、いや、マヨイがいらない子とかそういうことじゃないぞ?」
「分かってる」
「嫌ですよ。恩を仇で返すような子とはやってけないです。それよりどうですか? ダンジョンウォーカーズ! かっこよくありません?」
「散歩しながらちょちょいと魔物討伐。コイルカッコいい」
「いや、そもそも俺はダンジョンウォーカーとかじゃないんだってば」
「定着してる」
「え?」
「はい。もう定着してますよ? コイル イコール ダンジョンウォーカー」
「……嘘だろ?」
「じゃあ、確認しがてら管理局とか行ってみます?」
「行こう。散歩がてらに」
いや、ヌーコもマヨイも冗談を引っ張り過ぎだろ……って、ええ? ホントに?
二人に手を引かれて外に出て、管理局でも、レインボートラウトでも、『ダンジョンウォーカーのコイル』と呼ばれてることを知った俺は、恥ずかしさで倒れてしまいそうになった。
更に、噂話には尾ひれが付いていて、武器も持たずに1週間以上も10階層をふらついてるとか、魔物10匹に囲まれても無傷で口笛を吹きながら散歩を続けるとか……まー、そんなに間違ってないんだが、少し誇張された噂話が広まっていることをレイギスさんから聞いた俺は、その日、自棄酒をした。
そして、そのせいで、マヨイとヌーコの二人と一緒に『ダンジョンウォーカーズ』を結成することになったのだった。
「あっ……」
元気なベイガーと少し申し訳なさそうな顔をするシュゴリン。
いや、なんだか俺が振られたみたいな感じになるからやめてくれって。
簡単に立ち話しをしたあと、おれが魔道具を見周り終わるのを待っていた二人と、夜を待たずして「相談事」を聞くことになったのだった。
「まあ、ギルマスになるんならそういう判断も必要だよな」
「ということは?」
「いいよ」
喰い気味に返事を求めてきたベイガーに、俺は短くそう答えた。
まったくショックじゃないとは言わないが、予めシミュレーションしていたものの一つではあったからな。強がりとかではなく、まあ普通にそう言えたんじゃないだろうか?
「ホントですか? ありがとうございます!」
えっ、と言う顔をしているシュゴリンに、「ほらっ、コイルさんならオーケーしてくれるって言ったでしょ」とベイガーが満面の笑顔でそう言った。
「じゃあ話は終わりかな? 二人の邪魔したら悪いし俺はもう帰るわ」
そう言って自分のコーヒーの分だけ会計してアパルトマンに帰ったのだった。
ドンドンドンドンドン!
部屋のドアが強くノックされた。
まー、来るとは思ってたけど思ったよりも早かったな。
覗き穴からドアの向こうを見ると、そこにはマヨイとヌーコが立ってこちらを見ていた。
またノックしようと手を持ち上げたので慌てて返事をする。
「あーはいはいはい今開けるよ」
そう言って鍵を回し、ドアを開いて二人に顔を見せた。
「中、いい?」
「入りますよ」
いつものヌーコらしくなく、ドスドスと足音を立てながら、俺の脇を抜けて勝手に部屋に入っていく。その後を追うようにしてマヨイがついていき、それから最後に俺が部屋に戻ったのだった。
「どういうことなんですか?」
「あたしも聞きたい」
「なんだよいきなり? そっちからちゃんと話しなよ。話があって来たのは二人の方だろ?」
俺は余計な事を言わないようにする為に、俺から事のあらましを話すのは回避するべきだと思った。だから彼女たちが俺に何を聞きたいのかを聞くことにした。
「ベイガーがギルドを立ち上げるって話です。それにはコイルは入らないし、今後はヘルプも頼まないって!」
「んー、まあ、俺がベイガーと話したのはそれが全部だな。あってるよ」
「なんでそんな平気そうな顔してるんですか? シュゴリンだってベイガーだってコイルがパワーレベリングしてくれたから有名になれたのに! なんで切り捨てられたのに、なんで、なんで……悔しくないんですか!?」
「いや別に……そもそも、君らのパーティーから抜けるって提案は俺からしてた話だし」
「ほら、ね?」
「んんんんんんーーーーっ!」
「あたしは、コイルは切り捨てられたんじゃなくて、ちょうどいいと思ってると思うって言った。ヌーコに」
やたらと悔しがるヌーコに、どう話したもんかと困っていたのだが、やたらと勝ち誇った顔付きのマヨイがえらく的を得たことを言ってくれて理解できた。
「それで、コイルはこれからどうするんですか?」
「どうするって……今まで通りだよ。潜りたくなったら潜るし、のんびりしたかったら図書館に行くし。最近は金に困ることもなくなったしな」
「散歩?」
「ん?」
「潜るって、散歩?」
「ああ、まあ最近は11階層の支店付近は散歩感覚だよな、実際」
「あたしはまだ……8階層くらいまでなら散歩気分は分かる」
「私もです。8階層くらいまでなら」
「「だから、私(あたし)たちでやりましょう」」
「ん? 何を?」
「「ダンジョンウォーカーズを!!」」
えええ。
何言ってんだ二人とも。
「いやいやいや、だって二人はベイガーの……」
「抜けてきました」
「うん、抜けてきた」
抜けてきたって……え?
「はい。ベイガーとシュゴリンとはパーティーを解散してきました」
「うん。ベイガーは予想してたみたい。それに元々前衛はベイガーとシュゴリンで足りてた、から」
「なるほどね……まあ、間違ってないわな。ヌーコには残ってほしかったかも知れな、あっ、いや、マヨイがいらない子とかそういうことじゃないぞ?」
「分かってる」
「嫌ですよ。恩を仇で返すような子とはやってけないです。それよりどうですか? ダンジョンウォーカーズ! かっこよくありません?」
「散歩しながらちょちょいと魔物討伐。コイルカッコいい」
「いや、そもそも俺はダンジョンウォーカーとかじゃないんだってば」
「定着してる」
「え?」
「はい。もう定着してますよ? コイル イコール ダンジョンウォーカー」
「……嘘だろ?」
「じゃあ、確認しがてら管理局とか行ってみます?」
「行こう。散歩がてらに」
いや、ヌーコもマヨイも冗談を引っ張り過ぎだろ……って、ええ? ホントに?
二人に手を引かれて外に出て、管理局でも、レインボートラウトでも、『ダンジョンウォーカーのコイル』と呼ばれてることを知った俺は、恥ずかしさで倒れてしまいそうになった。
更に、噂話には尾ひれが付いていて、武器も持たずに1週間以上も10階層をふらついてるとか、魔物10匹に囲まれても無傷で口笛を吹きながら散歩を続けるとか……まー、そんなに間違ってないんだが、少し誇張された噂話が広まっていることをレイギスさんから聞いた俺は、その日、自棄酒をした。
そして、そのせいで、マヨイとヌーコの二人と一緒に『ダンジョンウォーカーズ』を結成することになったのだった。
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