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Dungeon Walkers

5 勇者の勇気

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 みんなと一緒に食事をする度に訪れるレインボートラウト。
 店名であるレインボートラウトとはニジマスのことで、つまりここはニジマス料理がメインの食堂、居酒屋みたいなものだ。
 料理は美味いし、店主の人柄もいい。
 まあ、その店主が客と同じテーブルに座って飲み食いしてったりするから、パーティー内だけに留めたい秘密レベルの高い話をするのには向いてないんだけどね。

「「「「「乾杯!」」」」」

 三日振りに地下迷宮ダンジョンから無事に帰ってこれたことと、14階層のマッピングがほとんど完了したことのお祝いのための乾杯だ。

 コイルにいのサポート、それからもちろんシュゴリンねえたちと僕自身の努力もあって、僕らは全員レベル30に到達していた。

 まだまだコイル兄には敵わないけどーーいや、剣対ハンマーだけ・・で戦ったら勝てるようにはなったんだけどーー僕らはかなり強くなった。
 14階層に対しての感想は「僕ら5人って過剰戦力なんじゃないか?」と思えるくらい楽勝だった。
 そんなことを口にしたら、たぶん怒られるから言わないけど。
 コイル兄は大雑把おおらかな雰囲気とは裏腹に、実は結構な慎重派というか心配症だったりする。
 自分の危険は気にしないのに、僕らのことはやたらと心配する。
 油断を口にしようものなら、その考えは怪我の元だとこんこんと注意指導されてしまうからね。

「ベイガー、ちゃんと食べてる?」
「シュゴリン姉? あんかけのピーマンだけこっちに回さないでよ」

「ベイガー、ちゃんと飲んでる?」
「ヌーコ姉、お酒注がないでって」

「ベイガーちゃん……くすくす」
「……マヨイ姉?」

 この三姉妹はいつも僕を子供扱いするんだからなー。
 姉的存在ができたのは嬉しく思う部分もあるけど……いや、そのうちだ、そのうち。
 いやいやいやだめだ。
 この状態が長く続けば続くほどどんどん僕に不利になってく気がする。

 ちなみに、14階層のマッピングが完了したことは大っぴらには言わない約束になってる。
 だから、ここでは地下迷宮の話はあまりしないで、明日は武器屋に行こうとか、図書館に行こうとか、お風呂屋さんに行って神田川ごっこがしたいとか、そんな他愛もない話ばかりだ。

 そう。
 明日からは三日間の完全オフ。
 略して完オフだ。
 あまり略せてないけど。

 コイル兄は個人的にやりたい事があるらしくて、明日図書館に行くってこと以外の予定は教えてくれなかった。
 図書館行きにはみんなが手を上げたので全員で行く予定になってる。
 実はまだ行ったことがなかったから楽しみだ。

 二日目は武器屋に行きたいと言うシュゴリン姉に、マヨイ姉、ヌーコ姉と一緒に付き合うことになった。
 今使ってるロングソードをバスタードソードに替えたいと思ってたからちょうどよかった。
 レベルが上がって力が付いてきたのか、もうちょっと重い剣を使ってみたいんだよね。

「シュゴリン姉さ、明後日さ、武器屋行ったあと、訓練場に付き合ってくれないかな?」

「ん? いいけど? どうしたのよ」

「いや、バスタードソード買おうかと思ってさ」

「訓練? なら、あたしも参加する?」
「ちょっ、マヨ、ん゛ん゛ん゛、マヨイちゃん、ちょっと話が」

 ヌーコ姉がマヨイ姉を呼んでテーブルから少し離れて立ち話を始める。
 コイル兄が「ちょっとトイレ」と言って席を離れて行った。

 えーと、これって……僕がシュゴリン姉を好きだってことがバレてる?

 じゃ、じゃ、じゃあ、ここで思い切って行っとくしかない、のかな。
 でも、それでパーティーがギクシャクしちゃったらやだな。
 どうしよう。

 気が付けば、いつの間にかヌコ姉もマヨ姉もいなくなってた。

 ふーーーーーー、と長く息を吐いた。

「シュゴリン姉。僕はシュゴリン姉と二人きりで訓練場に行きたいんだ」

「ん。いいわよ。コイルやマヨイたちに内緒の特訓なのね?」

 僕の真意は伝わらなかったけど、二人だけの時間は獲得できたみたいだ。
 がっくりくる気持ちと、嬉しい気持ちでなんか変な気分だけど前向きに考えよう。

「ありがとう。約束したからね? 忘れないでよ」

 僕はシュゴリン姉に念押しして、約束を確定させたのだった。



「ベイガー、うまくやってますかねー?」

「どうだろうな。頑張って欲しいところだけど……今日はこのまま帰るか?」

「それいいですね。三人とも同じ屋根の下に帰るわけですしー」

「部屋に帰る? それならもう一軒寄りたい。ヌーコは先に帰っててもいい、よ? クスクス」

「ななな、なに言ってるんですかー。二人が行くなら私も行きますからねー!」

 レインボートラウトから抜け出した俺たち三人は、ケラケラと笑うマヨイの提案に乗って、女性が好きそうな清潔な飲み屋というかバーに移動した。
 こんな事もあろうかと、トイレに行く振りしてレイギスさんに多めに渡してから出てきてよかった。マヨイとヌーコまで付いてくるとは思わなかったけど。
 状況的には「後は若いお二人でどうぞごゆっくり」、というやつだな。
 まあ、若すぎるけど。
 でも、一歩間違えたら死んでしまうような世界なんだ。
 悔いが残らないようにやった方がいいと思う。

 後で怒られるのか、それとも後々感謝されるのか。

 そんな事を酒の肴にしながら、俺たち抜け出し三人組は、ちょっとお洒落なバーみたいな店に入り、今までに見たことがないくらいに綺麗で鮮やかな色のカクテルを楽しんだのだった。
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