65 / 181
Dungeon Walkers
5 勇者の勇気
しおりを挟む
みんなと一緒に食事をする度に訪れるレインボートラウト。
店名であるレインボートラウトとはニジマスのことで、つまりここはニジマス料理がメインの食堂、居酒屋みたいなものだ。
料理は美味いし、店主の人柄もいい。
まあ、その店主が客と同じテーブルに座って飲み食いしてったりするから、パーティー内だけに留めたい秘密レベルの高い話をするのには向いてないんだけどね。
「「「「「乾杯!」」」」」
三日振りに地下迷宮から無事に帰ってこれたことと、14階層のマッピングがほとんど完了したことのお祝いのための乾杯だ。
コイル兄のサポート、それからもちろんシュゴリン姉たちと僕自身の努力もあって、僕らは全員レベル30に到達していた。
まだまだコイル兄には敵わないけどーーいや、剣対ハンマーだけで戦ったら勝てるようにはなったんだけどーー僕らはかなり強くなった。
14階層に対しての感想は「僕ら5人って過剰戦力なんじゃないか?」と思えるくらい楽勝だった。
そんなことを口にしたら、たぶん怒られるから言わないけど。
コイル兄は大雑把な雰囲気とは裏腹に、実は結構な慎重派というか心配症だったりする。
自分の危険は気にしないのに、僕らのことはやたらと心配する。
油断を口にしようものなら、その考えは怪我の元だとこんこんと注意されてしまうからね。
「ベイガー、ちゃんと食べてる?」
「シュゴリン姉? あんかけのピーマンだけこっちに回さないでよ」
「ベイガー、ちゃんと飲んでる?」
「ヌーコ姉、お酒注がないでって」
「ベイガーちゃん……くすくす」
「……マヨイ姉?」
この三姉妹はいつも僕を子供扱いするんだからなー。
姉的存在ができたのは嬉しく思う部分もあるけど……いや、そのうちだ、そのうち。
いやいやいやだめだ。
この状態が長く続けば続くほどどんどん僕に不利になってく気がする。
ちなみに、14階層のマッピングが完了したことは大っぴらには言わない約束になってる。
だから、ここでは地下迷宮の話はあまりしないで、明日は武器屋に行こうとか、図書館に行こうとか、お風呂屋さんに行って神田川ごっこがしたいとか、そんな他愛もない話ばかりだ。
そう。
明日からは三日間の完全オフ。
略して完オフだ。
あまり略せてないけど。
コイル兄は個人的にやりたい事があるらしくて、明日図書館に行くってこと以外の予定は教えてくれなかった。
図書館行きにはみんなが手を上げたので全員で行く予定になってる。
実はまだ行ったことがなかったから楽しみだ。
二日目は武器屋に行きたいと言うシュゴリン姉に、マヨイ姉、ヌーコ姉と一緒に付き合うことになった。
今使ってるロングソードをバスタードソードに替えたいと思ってたからちょうどよかった。
レベルが上がって力が付いてきたのか、もうちょっと重い剣を使ってみたいんだよね。
「シュゴリン姉さ、明後日さ、武器屋行ったあと、訓練場に付き合ってくれないかな?」
「ん? いいけど? どうしたのよ」
「いや、バスタードソード買おうかと思ってさ」
「訓練? なら、あたしも参加する?」
「ちょっ、マヨ、ん゛ん゛ん゛、マヨイちゃん、ちょっと話が」
ヌーコ姉がマヨイ姉を呼んでテーブルから少し離れて立ち話を始める。
コイル兄が「ちょっとトイレ」と言って席を離れて行った。
えーと、これって……僕がシュゴリン姉を好きだってことがバレてる?
じゃ、じゃ、じゃあ、ここで思い切って行っとくしかない、のかな。
でも、それでパーティーがギクシャクしちゃったらやだな。
どうしよう。
気が付けば、いつの間にかヌコ姉もマヨ姉もいなくなってた。
ふーーーーーー、と長く息を吐いた。
「シュゴリン姉。僕はシュゴリン姉と二人きりで訓練場に行きたいんだ」
「ん。いいわよ。コイルやマヨイたちに内緒の特訓なのね?」
僕の真意は伝わらなかったけど、二人だけの時間は獲得できたみたいだ。
がっくりくる気持ちと、嬉しい気持ちでなんか変な気分だけど前向きに考えよう。
「ありがとう。約束したからね? 忘れないでよ」
僕はシュゴリン姉に念押しして、約束を確定させたのだった。
「ベイガー、うまくやってますかねー?」
「どうだろうな。頑張って欲しいところだけど……今日はこのまま帰るか?」
「それいいですね。三人とも同じ屋根の下に帰るわけですしー」
「部屋に帰る? それならもう一軒寄りたい。ヌーコは先に帰っててもいい、よ? クスクス」
「ななな、なに言ってるんですかー。二人が行くなら私も行きますからねー!」
レインボートラウトから抜け出した俺たち三人は、ケラケラと笑うマヨイの提案に乗って、女性が好きそうな清潔な飲み屋というかバーに移動した。
こんな事もあろうかと、トイレに行く振りしてレイギスさんに多めに渡してから出てきてよかった。マヨイとヌーコまで付いてくるとは思わなかったけど。
状況的には「後は若いお二人でどうぞごゆっくり」、というやつだな。
まあ、若すぎるけど。
でも、一歩間違えたら死んでしまうような世界なんだ。
悔いが残らないようにやった方がいいと思う。
後で怒られるのか、それとも後々感謝されるのか。
そんな事を酒の肴にしながら、俺たち抜け出し三人組は、ちょっとお洒落なバーみたいな店に入り、今までに見たことがないくらいに綺麗で鮮やかな色のカクテルを楽しんだのだった。
店名であるレインボートラウトとはニジマスのことで、つまりここはニジマス料理がメインの食堂、居酒屋みたいなものだ。
料理は美味いし、店主の人柄もいい。
まあ、その店主が客と同じテーブルに座って飲み食いしてったりするから、パーティー内だけに留めたい秘密レベルの高い話をするのには向いてないんだけどね。
「「「「「乾杯!」」」」」
三日振りに地下迷宮から無事に帰ってこれたことと、14階層のマッピングがほとんど完了したことのお祝いのための乾杯だ。
コイル兄のサポート、それからもちろんシュゴリン姉たちと僕自身の努力もあって、僕らは全員レベル30に到達していた。
まだまだコイル兄には敵わないけどーーいや、剣対ハンマーだけで戦ったら勝てるようにはなったんだけどーー僕らはかなり強くなった。
14階層に対しての感想は「僕ら5人って過剰戦力なんじゃないか?」と思えるくらい楽勝だった。
そんなことを口にしたら、たぶん怒られるから言わないけど。
コイル兄は大雑把な雰囲気とは裏腹に、実は結構な慎重派というか心配症だったりする。
自分の危険は気にしないのに、僕らのことはやたらと心配する。
油断を口にしようものなら、その考えは怪我の元だとこんこんと注意されてしまうからね。
「ベイガー、ちゃんと食べてる?」
「シュゴリン姉? あんかけのピーマンだけこっちに回さないでよ」
「ベイガー、ちゃんと飲んでる?」
「ヌーコ姉、お酒注がないでって」
「ベイガーちゃん……くすくす」
「……マヨイ姉?」
この三姉妹はいつも僕を子供扱いするんだからなー。
姉的存在ができたのは嬉しく思う部分もあるけど……いや、そのうちだ、そのうち。
いやいやいやだめだ。
この状態が長く続けば続くほどどんどん僕に不利になってく気がする。
ちなみに、14階層のマッピングが完了したことは大っぴらには言わない約束になってる。
だから、ここでは地下迷宮の話はあまりしないで、明日は武器屋に行こうとか、図書館に行こうとか、お風呂屋さんに行って神田川ごっこがしたいとか、そんな他愛もない話ばかりだ。
そう。
明日からは三日間の完全オフ。
略して完オフだ。
あまり略せてないけど。
コイル兄は個人的にやりたい事があるらしくて、明日図書館に行くってこと以外の予定は教えてくれなかった。
図書館行きにはみんなが手を上げたので全員で行く予定になってる。
実はまだ行ったことがなかったから楽しみだ。
二日目は武器屋に行きたいと言うシュゴリン姉に、マヨイ姉、ヌーコ姉と一緒に付き合うことになった。
今使ってるロングソードをバスタードソードに替えたいと思ってたからちょうどよかった。
レベルが上がって力が付いてきたのか、もうちょっと重い剣を使ってみたいんだよね。
「シュゴリン姉さ、明後日さ、武器屋行ったあと、訓練場に付き合ってくれないかな?」
「ん? いいけど? どうしたのよ」
「いや、バスタードソード買おうかと思ってさ」
「訓練? なら、あたしも参加する?」
「ちょっ、マヨ、ん゛ん゛ん゛、マヨイちゃん、ちょっと話が」
ヌーコ姉がマヨイ姉を呼んでテーブルから少し離れて立ち話を始める。
コイル兄が「ちょっとトイレ」と言って席を離れて行った。
えーと、これって……僕がシュゴリン姉を好きだってことがバレてる?
じゃ、じゃ、じゃあ、ここで思い切って行っとくしかない、のかな。
でも、それでパーティーがギクシャクしちゃったらやだな。
どうしよう。
気が付けば、いつの間にかヌコ姉もマヨ姉もいなくなってた。
ふーーーーーー、と長く息を吐いた。
「シュゴリン姉。僕はシュゴリン姉と二人きりで訓練場に行きたいんだ」
「ん。いいわよ。コイルやマヨイたちに内緒の特訓なのね?」
僕の真意は伝わらなかったけど、二人だけの時間は獲得できたみたいだ。
がっくりくる気持ちと、嬉しい気持ちでなんか変な気分だけど前向きに考えよう。
「ありがとう。約束したからね? 忘れないでよ」
僕はシュゴリン姉に念押しして、約束を確定させたのだった。
「ベイガー、うまくやってますかねー?」
「どうだろうな。頑張って欲しいところだけど……今日はこのまま帰るか?」
「それいいですね。三人とも同じ屋根の下に帰るわけですしー」
「部屋に帰る? それならもう一軒寄りたい。ヌーコは先に帰っててもいい、よ? クスクス」
「ななな、なに言ってるんですかー。二人が行くなら私も行きますからねー!」
レインボートラウトから抜け出した俺たち三人は、ケラケラと笑うマヨイの提案に乗って、女性が好きそうな清潔な飲み屋というかバーに移動した。
こんな事もあろうかと、トイレに行く振りしてレイギスさんに多めに渡してから出てきてよかった。マヨイとヌーコまで付いてくるとは思わなかったけど。
状況的には「後は若いお二人でどうぞごゆっくり」、というやつだな。
まあ、若すぎるけど。
でも、一歩間違えたら死んでしまうような世界なんだ。
悔いが残らないようにやった方がいいと思う。
後で怒られるのか、それとも後々感謝されるのか。
そんな事を酒の肴にしながら、俺たち抜け出し三人組は、ちょっとお洒落なバーみたいな店に入り、今までに見たことがないくらいに綺麗で鮮やかな色のカクテルを楽しんだのだった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ
もぐすけ
ファンタジー
シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。
あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。
テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる