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Dungeon Walkers
1 勇者が街にやってきた
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ワイワイガヤガヤ
そうとしか表現のできない賑やかさで今日も繁盛してるのはレインボートラウトだ。
焼き魚のいい匂いが店内に蔓延していて料理を待つ客の腹を更に空かさせる。
外に漏れ出す匂いは新たな客を店に呼び込む。
店は大通りから少し離れているものの、一人の少年がその匂いを嗅ぎつけ、ふらふらと匂いに誘われて店までやって来た。
「いらっしゃい! ん? 初めて見る顔だね。今、カウンターが空いてないんだけど、テーブルに相席でもいいかい?」
店のおば……店をやりくりしてるレイギスが、店の入口でキョロキョロしている少年に声をかける。
威勢の良い声に、少年は少し驚きながらも頷き、レイギスが指差したテーブルに向かって歩き出す。
「あ、相席って言われたんですけどいいですか? すみません」
一応、先にテーブルにいた4人に断りを入れると、「どうぞどうぞ」と席を勧められた。
6人掛けのテーブルには、男の人が1人と、女の子3人の先客がいた。
「このお店は初めてなの? だったら私は焼き魚定食をお勧めするかな~」
席に着くと、隣のゆるふわウェーブな髪の毛のカワイイ女の子が話しかけてきた。
「そうなんですか? あ、でも、メニューも見てみたいです……」
「そうだよシュゴリン。はいメニュー。今日のお店のオススメはあっちの黒板に書かれてますよ」
向かい側の真ん中の席に座っているショートカットの、これまたカワイイ女の子がメニューを少年に渡す。
「ありがとう。あの、僕はベイガーって言います」
少年は思い切って4人に話しかける。
ここ、アブクマダンジョン街に来てはや2ヶ月。
地下迷宮管理局の運営している訓練所をようやっと卒業できたばかりだった。
同期の5人とは友達にはなれたものの、彼らは元々の友達同士でアブクマに来ており、元から5人でパーティーを組むことを約束していたので、ベイガーは一人あぶれてしまっていたのだった。
かと言って、一人でダンジョンに入る勇気もなく、訓練所を出てからは、管理局の探索者斡旋所で仲間の募集を探して過ごしていた。
結局、シュゴリンがお勧めしてくれた焼き魚定食を注文したベイガーは、注文の品が出来上がるまでの間に、彼女たちが探索者であることを願いながら、自己紹介と、もしよければダンジョンに一緒に入って欲しいことを話してみることにしたのだった。
そして、彼の願いは叶うことになる。
「コイルはどう?」
マヨイというツインテールでおとなし目の、でもやっぱりカワイイ子が向かいの端に座る男の人に確認する。この人がパーティーのリーダーなんだろうか。
「俺の意見はいらないだろ? 俺、ソロ探索者なんだし」
「またそういうこと言うー」
「もう九割くらいは固定パーティーみたいなものでしょう? 私からしたらコイルがリーダーみたいな存在なんだし」
「いやちょっと待とうか」
「待たない。コイルがリーダーであってる」
「はい。待ちませんし、間違ってないです」
そう言って、クスクス笑うマヨイとヌーコ。
「ね? 何も毎回あなたの時間をもらおうとは思ってないわよ。でも、時間がある時はって言ってくれてたでしょ?」
「いや、たまになら、だったろ……」
「同じことよ」
「同じ」
「同じですよ。ってほら、ベイガーくんを置いてきぼりにしちゃってますよ?」
だ、誰に確認するのが正解なんだろう。
ベイガーは混乱してしまっていた。
コイルという人は3人の女の子とは完全なパーティーを組んでなさそうなのに、リーダーとして認められてるってこと?
コイルがシュゴリンに答えるように促す。
「はぁ……まったく……あ、ああ、違うのよ? 溜息はベイガーくんにじゃないからね?」
溜息をついて、それからベイガーと目が合ったシュゴリンが慌ててそう言い繕う。
「んー、そうね。同じテーブルで食事をするのも何かの縁だと思うし、私達でよければとりあえず一回一緒に潜ってみる? 今更だけど私はシュゴリン。パーティーを守る盾役よ」
「あたしはマヨイ。前衛」
「私はヌーコって言います。戦闘中は後方支援かな」
4人から視線を受けて「俺も?」という感じで、頭をポリポリ掻きながら自己紹介をするコイル。
「あー、俺はコイルっていうんだ。潜る時に俺がいるか分からんけどよろしくな?」
そこにタイミングを見計らってたかの様にレイギスがやってくる。
「あたしはレイギス。この店の女将だよっ、と」
そう言いながら、ベイガーの目の前に焼き上がった大きなニジマスが乗った定食を置いた。
熱々のニジマスを見る限り、出番を待っていた訳ではなさそうだ。
そして、もはやいつもの事なのだが、そのままベイガーの正面、ヌーコの隣にドカッと座る。
「んで?」と既に自己紹介済みのベイガーに、お前はどこの何者だ、と問いかける。
そして、ベイガーは緊張気味にとんでもないことを口にしたのだった。
「ぼ、僕はベイガーです。《勇者》持ちの新人探索者です。よ、よろしくお願いします!」
そうとしか表現のできない賑やかさで今日も繁盛してるのはレインボートラウトだ。
焼き魚のいい匂いが店内に蔓延していて料理を待つ客の腹を更に空かさせる。
外に漏れ出す匂いは新たな客を店に呼び込む。
店は大通りから少し離れているものの、一人の少年がその匂いを嗅ぎつけ、ふらふらと匂いに誘われて店までやって来た。
「いらっしゃい! ん? 初めて見る顔だね。今、カウンターが空いてないんだけど、テーブルに相席でもいいかい?」
店のおば……店をやりくりしてるレイギスが、店の入口でキョロキョロしている少年に声をかける。
威勢の良い声に、少年は少し驚きながらも頷き、レイギスが指差したテーブルに向かって歩き出す。
「あ、相席って言われたんですけどいいですか? すみません」
一応、先にテーブルにいた4人に断りを入れると、「どうぞどうぞ」と席を勧められた。
6人掛けのテーブルには、男の人が1人と、女の子3人の先客がいた。
「このお店は初めてなの? だったら私は焼き魚定食をお勧めするかな~」
席に着くと、隣のゆるふわウェーブな髪の毛のカワイイ女の子が話しかけてきた。
「そうなんですか? あ、でも、メニューも見てみたいです……」
「そうだよシュゴリン。はいメニュー。今日のお店のオススメはあっちの黒板に書かれてますよ」
向かい側の真ん中の席に座っているショートカットの、これまたカワイイ女の子がメニューを少年に渡す。
「ありがとう。あの、僕はベイガーって言います」
少年は思い切って4人に話しかける。
ここ、アブクマダンジョン街に来てはや2ヶ月。
地下迷宮管理局の運営している訓練所をようやっと卒業できたばかりだった。
同期の5人とは友達にはなれたものの、彼らは元々の友達同士でアブクマに来ており、元から5人でパーティーを組むことを約束していたので、ベイガーは一人あぶれてしまっていたのだった。
かと言って、一人でダンジョンに入る勇気もなく、訓練所を出てからは、管理局の探索者斡旋所で仲間の募集を探して過ごしていた。
結局、シュゴリンがお勧めしてくれた焼き魚定食を注文したベイガーは、注文の品が出来上がるまでの間に、彼女たちが探索者であることを願いながら、自己紹介と、もしよければダンジョンに一緒に入って欲しいことを話してみることにしたのだった。
そして、彼の願いは叶うことになる。
「コイルはどう?」
マヨイというツインテールでおとなし目の、でもやっぱりカワイイ子が向かいの端に座る男の人に確認する。この人がパーティーのリーダーなんだろうか。
「俺の意見はいらないだろ? 俺、ソロ探索者なんだし」
「またそういうこと言うー」
「もう九割くらいは固定パーティーみたいなものでしょう? 私からしたらコイルがリーダーみたいな存在なんだし」
「いやちょっと待とうか」
「待たない。コイルがリーダーであってる」
「はい。待ちませんし、間違ってないです」
そう言って、クスクス笑うマヨイとヌーコ。
「ね? 何も毎回あなたの時間をもらおうとは思ってないわよ。でも、時間がある時はって言ってくれてたでしょ?」
「いや、たまになら、だったろ……」
「同じことよ」
「同じ」
「同じですよ。ってほら、ベイガーくんを置いてきぼりにしちゃってますよ?」
だ、誰に確認するのが正解なんだろう。
ベイガーは混乱してしまっていた。
コイルという人は3人の女の子とは完全なパーティーを組んでなさそうなのに、リーダーとして認められてるってこと?
コイルがシュゴリンに答えるように促す。
「はぁ……まったく……あ、ああ、違うのよ? 溜息はベイガーくんにじゃないからね?」
溜息をついて、それからベイガーと目が合ったシュゴリンが慌ててそう言い繕う。
「んー、そうね。同じテーブルで食事をするのも何かの縁だと思うし、私達でよければとりあえず一回一緒に潜ってみる? 今更だけど私はシュゴリン。パーティーを守る盾役よ」
「あたしはマヨイ。前衛」
「私はヌーコって言います。戦闘中は後方支援かな」
4人から視線を受けて「俺も?」という感じで、頭をポリポリ掻きながら自己紹介をするコイル。
「あー、俺はコイルっていうんだ。潜る時に俺がいるか分からんけどよろしくな?」
そこにタイミングを見計らってたかの様にレイギスがやってくる。
「あたしはレイギス。この店の女将だよっ、と」
そう言いながら、ベイガーの目の前に焼き上がった大きなニジマスが乗った定食を置いた。
熱々のニジマスを見る限り、出番を待っていた訳ではなさそうだ。
そして、もはやいつもの事なのだが、そのままベイガーの正面、ヌーコの隣にドカッと座る。
「んで?」と既に自己紹介済みのベイガーに、お前はどこの何者だ、と問いかける。
そして、ベイガーは緊張気味にとんでもないことを口にしたのだった。
「ぼ、僕はベイガーです。《勇者》持ちの新人探索者です。よ、よろしくお願いします!」
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