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職業スキル
5 乾杯
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「「「「乾杯!」」」」
今日は小声で話したいことが多かったので、レイギスさんと凛子ちゃんには同席を遠慮してもらった。
そして、何に、とは口にせずとも、4人でマヨイの職業スキル獲得をお祝いの乾杯をした。
シュゴリンとヌーコが、マヨイに用意していたプレゼントを渡した。
その場でマヨイが包を開けると、出てきたのは、細くて硬い針金で作った鎖帷子だった。
袖は二部丈くらいでほとんど無い。
片方の肩と脇を紐で締めるタイプのようだ。
俺も一つ欲しくなってしまった。
後で二人に買った店が何処にあるか聞くことにしよう。
でだ。
マヨイが「お前は何をくれるのかな?」みたいな顔でこっちを見ているわけだ。
特に用意してなかったので焦るが、そうだ、と思い出して自分が試験的に使っているネックレスをあげること……いや、普通に考えたらおっさんが使ってた物を貰うのとか嫌だよな。
危ない危ない。
一旦は革紐のネックレスを外そうと手をかけたんだが、外すんじゃなくてペンダントヘッドを取り出してマヨイに見せてみた。
「悪いが今は手持ちがないんだが……こんな感じのネックレスとか、どうだ?」
で、正直に何も用意してないことを白状しておいた。
ヘタレ過ぎだが、嘘が嘘を呼ぶ状態になりそうだったので、ここは大人しく準備をしてなかったことを謝ることにしたのだった。
「それ」
「ん?」
「それがいい」
「ん?」
「後で同じのをくれるんなら、今着けてるそれがいい」
「え?」
「えっ、ちょっ? マヨイ」
「マ、マヨイちゃん、新しいのを用意してもらった方がいいよー」
「そ、そーだよマヨイ」
シュゴリンとヌーコが慌てて止めに入ってきた。
だよなぁ。
俺、まだ22とは言っても、彼女たちから見たらおっさんだからな。
流石に汗とか匂いとか付いてそうなのを、プレゼントとして渡すわけにはいかないよな。
そう思っていると、マヨイが席を立って、さっと俺の後ろに回って、ネックレスを外して持って行ってしまった。
なんて早業だよ。
「あっ!」
「あー!」
シュゴリンとヌーコが慌てる中、マヨイはニコニコして元の席に座った。
嫌じゃないならいいか。
「それな、少しだけ、だけなんだけど、装備者の気配を抑えることができる石なんだ。たぶんな」
俺はテーブルに身を乗り出して、小声で3人に説明をした。
それから、人差し指を自分の口の前に立てて、大きな声を出さないようにジェスチャーで伝える。
「「えー!」」
シュゴリンとヌーコが驚きの声を上げる。
俺は慌てて「シーッ」と言って落ち着かせる。
マヨイはツインテバージョンだからか、あたふたするものの大声は出さないでくれていた。
「ま、魔法のネックレス……ペンダントってこと?」
シュゴリンが控え目な声で確認してきた。
あ、そうか。石が付いてるのはペンダントって言うのか。
「マジックアイテムかどうかは分からないよ? 俺、鑑定とか持ってないからな。ダンジョンで見つけた不思議な石ってだけだ。でもな、それを身に着けるようになってから、敵に奇襲をかけやすくなったから、たぶんそうだろうな、ってな……まあ、お守りみたいなもんかね」
ああ、なるほど、と3人が頷く。
実を言えば、俺が付与魔術で「ダンジョン内でのみ、装着者の気配を薄める効果を永久に付与」した赤小魔石だから、その効果は、たぶん、じゃなくて、本当に発揮されてるんだけどな。
《付与術師4》になって、出来ることが増えてないか検証した中の一つの結果だ。
ただ、ここで「これは本物のマジックアイテムだ」とか言ったら大騒ぎになりかねないからな。
護符って言ってもいいくらいの効果はあるから、お守り、ってのは嘘にはならないし。
ダンジョンの奥深くには宝箱があって、その中には魔法の効果が付いたマジックアイテムや、強力な武器や防具が入ってたりするらしい。
俺はまだ見たことはないんだが。
あとは、階層主と呼ばれる魔物がマジックアイテムをドロップすることがあるらしい。
これも、俺は経験がないんだが、強い探索者パーティーが我先にと奥に進む理由の一つがこれだ、と聞いている。
強い奴は更に強くなれるってわけだな。
もちろん、死の危険はあるわけだけど。
「私も、もしもアレが取れたら何かプレゼント貰えますか?」
アレ、ってのは《占術師》か《薬術師》だよな。
《占術師》は俺とも被ってるんだけどな。
まあ、こうなったら早いもん勝ちか。
「俺も欲しいからなぁ。でも、そこは早いもん勝ちで恨みっこなしにしような。もちろん、ヌーコが先に取ったんならお祝いはするよ」
「あっ、そうでしたっ。同じのだったんですよね、ごめんなさいっ。でも、それなら私も遠慮しないですからっ。お祝い楽しみにしてますからね!」
ヌーコはすっかり忘れてたみたいだ。
でも、お互いに恨みっこなしという約束ができたし、気が楽になった。
小まめにステータスをチェックするようにしよう。
「あの……だったら私が取れた時も楽しみにしててもいい?」
シュゴリンが少し遠慮がちにそう言ってきた。
「もちろんだよ。お互いに頑張ろうな」
「だっ、だったら、私も指輪とか腕輪とか、そういうのがいいかもっ。すぐに取ってみせるから、ちゃんと用意しておいてねっ?」
「お、おう」
「えーっ、だったら私もそう言うのがいいですー」
「コイルが着けてたネックレス」
わいわい盛り上がるシュゴリンとヌーコの会話が切れた一瞬に、ボソッと、そう言ってニヤッと笑うマヨイ。
結局、俺が話したかった職業スキルの話題は出来ないままに、わーきゃー騒ぐシュゴリン達に引き寄せられてやって来たレイギスさんと凛子ちゃんを交えて、単なる飲み会になってしまったのだった。
今日は小声で話したいことが多かったので、レイギスさんと凛子ちゃんには同席を遠慮してもらった。
そして、何に、とは口にせずとも、4人でマヨイの職業スキル獲得をお祝いの乾杯をした。
シュゴリンとヌーコが、マヨイに用意していたプレゼントを渡した。
その場でマヨイが包を開けると、出てきたのは、細くて硬い針金で作った鎖帷子だった。
袖は二部丈くらいでほとんど無い。
片方の肩と脇を紐で締めるタイプのようだ。
俺も一つ欲しくなってしまった。
後で二人に買った店が何処にあるか聞くことにしよう。
でだ。
マヨイが「お前は何をくれるのかな?」みたいな顔でこっちを見ているわけだ。
特に用意してなかったので焦るが、そうだ、と思い出して自分が試験的に使っているネックレスをあげること……いや、普通に考えたらおっさんが使ってた物を貰うのとか嫌だよな。
危ない危ない。
一旦は革紐のネックレスを外そうと手をかけたんだが、外すんじゃなくてペンダントヘッドを取り出してマヨイに見せてみた。
「悪いが今は手持ちがないんだが……こんな感じのネックレスとか、どうだ?」
で、正直に何も用意してないことを白状しておいた。
ヘタレ過ぎだが、嘘が嘘を呼ぶ状態になりそうだったので、ここは大人しく準備をしてなかったことを謝ることにしたのだった。
「それ」
「ん?」
「それがいい」
「ん?」
「後で同じのをくれるんなら、今着けてるそれがいい」
「え?」
「えっ、ちょっ? マヨイ」
「マ、マヨイちゃん、新しいのを用意してもらった方がいいよー」
「そ、そーだよマヨイ」
シュゴリンとヌーコが慌てて止めに入ってきた。
だよなぁ。
俺、まだ22とは言っても、彼女たちから見たらおっさんだからな。
流石に汗とか匂いとか付いてそうなのを、プレゼントとして渡すわけにはいかないよな。
そう思っていると、マヨイが席を立って、さっと俺の後ろに回って、ネックレスを外して持って行ってしまった。
なんて早業だよ。
「あっ!」
「あー!」
シュゴリンとヌーコが慌てる中、マヨイはニコニコして元の席に座った。
嫌じゃないならいいか。
「それな、少しだけ、だけなんだけど、装備者の気配を抑えることができる石なんだ。たぶんな」
俺はテーブルに身を乗り出して、小声で3人に説明をした。
それから、人差し指を自分の口の前に立てて、大きな声を出さないようにジェスチャーで伝える。
「「えー!」」
シュゴリンとヌーコが驚きの声を上げる。
俺は慌てて「シーッ」と言って落ち着かせる。
マヨイはツインテバージョンだからか、あたふたするものの大声は出さないでくれていた。
「ま、魔法のネックレス……ペンダントってこと?」
シュゴリンが控え目な声で確認してきた。
あ、そうか。石が付いてるのはペンダントって言うのか。
「マジックアイテムかどうかは分からないよ? 俺、鑑定とか持ってないからな。ダンジョンで見つけた不思議な石ってだけだ。でもな、それを身に着けるようになってから、敵に奇襲をかけやすくなったから、たぶんそうだろうな、ってな……まあ、お守りみたいなもんかね」
ああ、なるほど、と3人が頷く。
実を言えば、俺が付与魔術で「ダンジョン内でのみ、装着者の気配を薄める効果を永久に付与」した赤小魔石だから、その効果は、たぶん、じゃなくて、本当に発揮されてるんだけどな。
《付与術師4》になって、出来ることが増えてないか検証した中の一つの結果だ。
ただ、ここで「これは本物のマジックアイテムだ」とか言ったら大騒ぎになりかねないからな。
護符って言ってもいいくらいの効果はあるから、お守り、ってのは嘘にはならないし。
ダンジョンの奥深くには宝箱があって、その中には魔法の効果が付いたマジックアイテムや、強力な武器や防具が入ってたりするらしい。
俺はまだ見たことはないんだが。
あとは、階層主と呼ばれる魔物がマジックアイテムをドロップすることがあるらしい。
これも、俺は経験がないんだが、強い探索者パーティーが我先にと奥に進む理由の一つがこれだ、と聞いている。
強い奴は更に強くなれるってわけだな。
もちろん、死の危険はあるわけだけど。
「私も、もしもアレが取れたら何かプレゼント貰えますか?」
アレ、ってのは《占術師》か《薬術師》だよな。
《占術師》は俺とも被ってるんだけどな。
まあ、こうなったら早いもん勝ちか。
「俺も欲しいからなぁ。でも、そこは早いもん勝ちで恨みっこなしにしような。もちろん、ヌーコが先に取ったんならお祝いはするよ」
「あっ、そうでしたっ。同じのだったんですよね、ごめんなさいっ。でも、それなら私も遠慮しないですからっ。お祝い楽しみにしてますからね!」
ヌーコはすっかり忘れてたみたいだ。
でも、お互いに恨みっこなしという約束ができたし、気が楽になった。
小まめにステータスをチェックするようにしよう。
「あの……だったら私が取れた時も楽しみにしててもいい?」
シュゴリンが少し遠慮がちにそう言ってきた。
「もちろんだよ。お互いに頑張ろうな」
「だっ、だったら、私も指輪とか腕輪とか、そういうのがいいかもっ。すぐに取ってみせるから、ちゃんと用意しておいてねっ?」
「お、おう」
「えーっ、だったら私もそう言うのがいいですー」
「コイルが着けてたネックレス」
わいわい盛り上がるシュゴリンとヌーコの会話が切れた一瞬に、ボソッと、そう言ってニヤッと笑うマヨイ。
結局、俺が話したかった職業スキルの話題は出来ないままに、わーきゃー騒ぐシュゴリン達に引き寄せられてやって来たレイギスさんと凛子ちゃんを交えて、単なる飲み会になってしまったのだった。
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