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お試しパーティー
5 ハンマー
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部屋に戻ると、なにやらよろしくない匂いが鼻に届いた。
それほど強烈ではないけど、何かが腐ったような……
「あっ」
すっかり忘れていた。
お弁当に魔法を付与してどうなるか検証中だったんだった。
うげえ。
慌てて駆け寄った机の上には、どう見ても腐ってる3つのお弁当が鎮座ましていたのだった。
「状態保存を付与」してあったモノは、触っても既に温かさもなく、その中身は他の2つよりも腐り具合が進んでいるように見えた。
「防腐を付与」してあったモノも腐ってはいるが、これが1番なんとかなりそうに見えた。
何か喰わなきゃもう餓死する、という状況なら、もしかしたら食べるかも知れない。
何も付与しなかったモノは普通に腐ってる。
これはまあ、予想通りだ。というか、これが腐るのを前提にしてたからな。当たり前の結果だ。
ゴミ出しの日は……明後日か。
どうするかね、これ。
とりあえず、「ごめんなさい」と謝りながら腐ってしまったお弁当たちを紙袋に入れた。匂いが漏れそうだったので3枚重ねにしておいた。
寝る前の精神力消費のための《付与術師》で、石に「空気の浄化を1ケ月間続ける魔法を付与」してみた。
3時間ほどして目が覚めると、部屋には清浄な空気感が漂っていた。
腐った匂いは部屋のどこにも漂ってない。
これで精神力の消費がたったの5点。本当に1ケ月も効果が保つなら目茶苦茶リーズナブルだな。
一応、石に「空気」の文字と今日の日付を書いておいた。
で、気がついた。
「防腐を付与」じゃなくて、「防腐効果を1ケ月間続ける魔法を付与」してみればいいんじゃないかと。
今回の失敗は、発動条件も期間も指定してなかったのが原因な気がしてきた。
後でおにぎりを買ってきて試してみよう。
お弁当で試すのは勿体無さ過ぎる。
そんな風に部屋で試行錯誤しているとドアがコンコンとノックされた。
誰だろうか。
そ~っとドアに近付き、覗き穴から見てみれば、そこにはツインテールバージョンのマヨイがいたのだった。
「どうした?」
俺はマヨイにぶつからないようにそっとドアを開けて、声をかけたのだった。
相談したいことがある、とのことだったのでマヨイと二人で図書館のそばにある公園に移動した。
さすがに俺の部屋で二人きりは嫌だろうし、俺も誰かから誤解を受けるような状況は避けたかったしな。
俺はブランコに座って、ここに来る途中で買ったコーヒーを啜りながらマヨイが話しだすのを待っていた。
マヨイもブランコに座り、少し揺らしながら、オレンジジュースの入った紙コップを両手で持っている。
「あのさ。私、どうしたら強くなれるかな」
俺の方を見ずに、唐突にマヨイはそう呟いた。
そんなことは俺には分からんよ。
とりあえずは勝てる魔物と戦ってレベルアップしてくしかないだろ。
もっと深い階層にいる魔物には、俺だって全然歯が立たなくなるかも知れないし、そうなったら、俺もどうやったらそいつに勝てるようになるか考えなきゃならないわけだし。
自分一人じゃ勝てないってことになれば仲間を探すかも知れないし、一人でもレベルアップや新しいスキルでどうにかできそうならそうするし。
「そっか……」
マヨイには仲間がいるだろ?
確かにマヨイにはアタッカーとしての火力を求められるとは思うけどさ、刃が通らない魔物には別の方法で攻撃すればいい話だろう?
だいたいさ、管理局が発表してる適正レベルってのはさ、パーティー用の数字じゃなくて、ソロ用の数字で見たほうがいいと思うんだよな。
そういった意味だと、マヨイたちはまだ4階層は早いってことになるんだよ。
「うん……じゃあ、3階層でもう少しレベルアップしてみる。でも、それでも先に進める強さが手に入らなかったらどうしたらいいかな」
それこそ俺には分からんよ。
「そっか……」
だいたいさ、マヨイは何の為にダンジョンに潜ってるんだよ。
なんのために、どこまで強くなりたいんだよ。
「コイルは?」
俺?
俺はダンジョンってものが何となく気になったから、だよ。
でも、今は少し変わって来たかな。せっかくこんな世界になったんだから、どこまでやれるか挑戦してる、って感じかね。
まあ、なんか目標があるわけじゃないかな。
「私は……私も。小さい頃からおじいちゃんに教えられた剣術がどこまで通用するのか、それを知りたいの」
だから刀なのか。
……探索者の主流は西洋剣だもんな。
ダンジョン産の武器もショートソードとかロングソードばっかりだって聞くし。
俺が拾うのもそういう武器ばかりだし。
「うん、そう。いい刀が何処にも売ってないし手に入らないの」
そしたら、いい刀が手に入るまでは別の武器を……いや、俺が軽々しく言っていい話じゃないな。
「ううん。私も本当は分かってる、から。でも後押しが欲しくて」
そんなの、パーティーの仲間に頼めよな。
2回しか組んでないやつなんかにそんな仕事を振るなよ。
「違うの。コイルに言って欲しかったの……でも、そんな責任を負わせるのはずるいよね。うん、分かった。私、自分で決断した、から!」
お、おう。
で、何を決断されたんですかね……
「私、刀を封印して、ハンマーデビューするっ!」
それほど強烈ではないけど、何かが腐ったような……
「あっ」
すっかり忘れていた。
お弁当に魔法を付与してどうなるか検証中だったんだった。
うげえ。
慌てて駆け寄った机の上には、どう見ても腐ってる3つのお弁当が鎮座ましていたのだった。
「状態保存を付与」してあったモノは、触っても既に温かさもなく、その中身は他の2つよりも腐り具合が進んでいるように見えた。
「防腐を付与」してあったモノも腐ってはいるが、これが1番なんとかなりそうに見えた。
何か喰わなきゃもう餓死する、という状況なら、もしかしたら食べるかも知れない。
何も付与しなかったモノは普通に腐ってる。
これはまあ、予想通りだ。というか、これが腐るのを前提にしてたからな。当たり前の結果だ。
ゴミ出しの日は……明後日か。
どうするかね、これ。
とりあえず、「ごめんなさい」と謝りながら腐ってしまったお弁当たちを紙袋に入れた。匂いが漏れそうだったので3枚重ねにしておいた。
寝る前の精神力消費のための《付与術師》で、石に「空気の浄化を1ケ月間続ける魔法を付与」してみた。
3時間ほどして目が覚めると、部屋には清浄な空気感が漂っていた。
腐った匂いは部屋のどこにも漂ってない。
これで精神力の消費がたったの5点。本当に1ケ月も効果が保つなら目茶苦茶リーズナブルだな。
一応、石に「空気」の文字と今日の日付を書いておいた。
で、気がついた。
「防腐を付与」じゃなくて、「防腐効果を1ケ月間続ける魔法を付与」してみればいいんじゃないかと。
今回の失敗は、発動条件も期間も指定してなかったのが原因な気がしてきた。
後でおにぎりを買ってきて試してみよう。
お弁当で試すのは勿体無さ過ぎる。
そんな風に部屋で試行錯誤しているとドアがコンコンとノックされた。
誰だろうか。
そ~っとドアに近付き、覗き穴から見てみれば、そこにはツインテールバージョンのマヨイがいたのだった。
「どうした?」
俺はマヨイにぶつからないようにそっとドアを開けて、声をかけたのだった。
相談したいことがある、とのことだったのでマヨイと二人で図書館のそばにある公園に移動した。
さすがに俺の部屋で二人きりは嫌だろうし、俺も誰かから誤解を受けるような状況は避けたかったしな。
俺はブランコに座って、ここに来る途中で買ったコーヒーを啜りながらマヨイが話しだすのを待っていた。
マヨイもブランコに座り、少し揺らしながら、オレンジジュースの入った紙コップを両手で持っている。
「あのさ。私、どうしたら強くなれるかな」
俺の方を見ずに、唐突にマヨイはそう呟いた。
そんなことは俺には分からんよ。
とりあえずは勝てる魔物と戦ってレベルアップしてくしかないだろ。
もっと深い階層にいる魔物には、俺だって全然歯が立たなくなるかも知れないし、そうなったら、俺もどうやったらそいつに勝てるようになるか考えなきゃならないわけだし。
自分一人じゃ勝てないってことになれば仲間を探すかも知れないし、一人でもレベルアップや新しいスキルでどうにかできそうならそうするし。
「そっか……」
マヨイには仲間がいるだろ?
確かにマヨイにはアタッカーとしての火力を求められるとは思うけどさ、刃が通らない魔物には別の方法で攻撃すればいい話だろう?
だいたいさ、管理局が発表してる適正レベルってのはさ、パーティー用の数字じゃなくて、ソロ用の数字で見たほうがいいと思うんだよな。
そういった意味だと、マヨイたちはまだ4階層は早いってことになるんだよ。
「うん……じゃあ、3階層でもう少しレベルアップしてみる。でも、それでも先に進める強さが手に入らなかったらどうしたらいいかな」
それこそ俺には分からんよ。
「そっか……」
だいたいさ、マヨイは何の為にダンジョンに潜ってるんだよ。
なんのために、どこまで強くなりたいんだよ。
「コイルは?」
俺?
俺はダンジョンってものが何となく気になったから、だよ。
でも、今は少し変わって来たかな。せっかくこんな世界になったんだから、どこまでやれるか挑戦してる、って感じかね。
まあ、なんか目標があるわけじゃないかな。
「私は……私も。小さい頃からおじいちゃんに教えられた剣術がどこまで通用するのか、それを知りたいの」
だから刀なのか。
……探索者の主流は西洋剣だもんな。
ダンジョン産の武器もショートソードとかロングソードばっかりだって聞くし。
俺が拾うのもそういう武器ばかりだし。
「うん、そう。いい刀が何処にも売ってないし手に入らないの」
そしたら、いい刀が手に入るまでは別の武器を……いや、俺が軽々しく言っていい話じゃないな。
「ううん。私も本当は分かってる、から。でも後押しが欲しくて」
そんなの、パーティーの仲間に頼めよな。
2回しか組んでないやつなんかにそんな仕事を振るなよ。
「違うの。コイルに言って欲しかったの……でも、そんな責任を負わせるのはずるいよね。うん、分かった。私、自分で決断した、から!」
お、おう。
で、何を決断されたんですかね……
「私、刀を封印して、ハンマーデビューするっ!」
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