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付与術師
7 エーコンワン
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出てきたのがかつての仲間、カズだったのでホッと胸を撫で下ろす。
それと同時に疑問が湧き上がった。
なんでカズがこんな時間に一人でダンジョンに?
カズラブなグッチがいない理由が分からない。
けど。
まあ、そんなことはどうでもいいか。
俺たちは既にパーティーを解散したんだし。
個人的には円満解散したつもりだし、むしろ俺は被害者側だしな。
二度と顔を見たくないとまでは言わないけど、もう二度と一緒にダンジョンに潜りたくない。
特にあれだけ尖った感情をぶつけてきたグッチとは。
「ここは……2階層への扉の部屋か」
周りを見回してから、扉を見つけて、少し震えた声で独り言を言って、それから外への戻り扉への通路に向かって歩きだしたカズだったが、その足取りは重い。
というか遅い。
向かう方向は地上に戻る扉の方のようだけど、あのペースで進まれると、カズの後ろをついてって俺の目的地に行くのは時間がかかりそうだ。
となると、今日のところはこのまま、今いる通路を奥に行った所で《付与術師》の検証をするしかないか。
そう考えて、俺は通路の奥に向かって進むことにした。
1階層で2番目に大きい空洞、別名、癒やしの部屋(またはイワシの部屋)を通り抜ける際に、せっかくなので水筒に湧き水を補充しておいた。
この癒やしの部屋は飲める湧き水が出ていることもあるけど、何より、魔物の湧き率が低いことで有名なポイントだ。
そのため、初心者はここを中心にして活動をすることが多い。
中にはこの部屋にテントを張って何日もここで過ごす人もいる。
故に初心者をイワシに見立てて、イワシの部屋と呼んだりもする、まあつまりダンジョン内のセーフティーゾーンだ。
今日も今日とて、この部屋には一人の見張りを立てつつマントにくるまって寝てるのが4人いた。
俺が部屋に入ったことで、少し緊張させてしまったようだったので、見張りで起きてる子に邪魔してすまんと片手を軽く上げて謝っておいた。
そして、そのまま部屋を出て奥に向かう。
実はこの先はそれほど分岐がなくて部屋と呼ばれる空洞は4つくらいしかない。
どれもそこそこの広さがあるので、定期的に魔物の湧きが発生する。
だから、どの空洞を選んだとしても、たぶんさっきの5人組とは後で顔を合わすことになるだろう。
「はぁ」とつい溜息が出てしまう。
いや、彼らは悪くない。
むしろダンジョンで魔物と戦う以外のことをしようとしてる俺が悪い……いや悪くはないか。
ちゃんと金を払って入ってるわけだし、中で何をしようが自由なはずだ。
とは言え、初心者の邪魔はあまりしないようにしよう。
とりあえず、癒やしの部屋から一番遠い空洞に移動した。
道中で現れたジャイアントラットは3匹とも倒しておいた。
さて。
俺の中でそもそも考えていた《付与術師》というのは、実は大きく分けて3種類あった。
1つ目は剣や盾、鎧、道具を強化する魔法だ。
RPGで言うところのロングソード+2とか、魔法の炎が消えないマジックトーチなどの、単純な魔法効果を物に付与するものだ。
2つ目は自分や仲間の身体能力を上げたり、属性を付けたり、敵を弱体化させるような、所謂バフ、デバフと呼ばれる魔法。
そして3つ目はゴーレムの作製……創造?
大雑把に言えば、ゴーレムというのは土や岩を人型に組み上げて、それに仮の命やプログラムを与えたものだ。魔法によって生み出されたゴーレムは術者の命令に従ってくれる忠実で便利な味方となる、というやつだ。
とりあえず、1つ目はクリアしている。というか、思ってたよりも高性能すぎて冷や汗をかいてるくらいだ。
付与できない事象も多いけど、今、付与が確認できている事象だけでもかなり満足できる状況だ。
不満があるとすれば、どれも一度しか効果を発動できないことだけど、これは仕方ないと諦める。
精神力に余裕がある時に、事前に予備を作っておけるだけで満足しておくべきだろう。
2つ目は擬似的に一部実現できている。
さっき使ったストーンオブインビジブルが正にそうだ。
でも、同じ効果を《付与術師》で自分に付与することはできない。
《付与術師》は消費精神力が俺にとっては大きいし、呪文を詠唱することを考えたらかなり不便なスキルだから、事前に魔法石という発動体を用意しておく今の使い方は実は好ましい。好ましいんだけど、懸念点は装備や魔法石が奪われた時のことだ。
まあ、そういった状況に陥った時点でかなり詰んでる状態なわけだから、それならば《付与術師》でどうにかしよう、ではなくて、それ以外のスキルや魔法を覚えておくことのほうが大事かもしれない。
なんと言っても、俺は《付与術師》以外には《鎚鉾3》しか持ってないわけだから。
で、3つ目のゴーレムだけど、今日はこれを試してみたくて潜ってるわけだ。
本当は自分の部屋でやるつもりだったんだけど、帰れなかったからな……今日は彼女たちが張ってたとしてもちゃんと帰ろう。
ウエストポーチから十徳ナイフ、どんぐり6個、それと紐を取り出す。
十徳ナイフは中学生の時に買った、俺の思い出のロマン装備だ。
多少強度が頼りないけど、錐でどんぐりに穴を開けるくらいはなんとかできた。
更に紐を適度な長さに切り分ける。
で、紐をどんぐりに開けた穴に紐の先端をあてがって、錐で穴の中に押し込んでいく。
「よしっ」
大した出来栄えじゃないけど、どんぐりと紐で作った人形の完成だ。
一応、頭のパーツには、顔に見えるように目の部分に穴を2個開けてある。
胴体はどんぐり1個じゃなくて、胸と腰の部分に分けてあげればよかったかな。
まあいいや、とりあえずエーコンワンの土台完成だ。
「コイルに従順なゴーレムとしてエーコンワンの名を付与する」
両手に持ったどんぐり人形に、そんな曖昧な付与内容を思い浮かべてみる。
すると、頭の中にというか瞼の裏にというか、まあとにかく呪文が浮かび上がってきたわけだけど、その文字の長さがいつもの数倍、いや、数十倍はあるようだ。
呪文の長さが消費精神力に比例してると分析してる俺にとって、これは大ピンチの状況だ。
《付与術師》は、途中で呪文を破棄、つまりスキルの実行途中でキャンセルした場合には、一定量の精神力を消費してしまうから、なるべくならしたくはなかったけど、これは致し方ない。
俺はこの呪文を破棄することにしたのだった。
それと同時に疑問が湧き上がった。
なんでカズがこんな時間に一人でダンジョンに?
カズラブなグッチがいない理由が分からない。
けど。
まあ、そんなことはどうでもいいか。
俺たちは既にパーティーを解散したんだし。
個人的には円満解散したつもりだし、むしろ俺は被害者側だしな。
二度と顔を見たくないとまでは言わないけど、もう二度と一緒にダンジョンに潜りたくない。
特にあれだけ尖った感情をぶつけてきたグッチとは。
「ここは……2階層への扉の部屋か」
周りを見回してから、扉を見つけて、少し震えた声で独り言を言って、それから外への戻り扉への通路に向かって歩きだしたカズだったが、その足取りは重い。
というか遅い。
向かう方向は地上に戻る扉の方のようだけど、あのペースで進まれると、カズの後ろをついてって俺の目的地に行くのは時間がかかりそうだ。
となると、今日のところはこのまま、今いる通路を奥に行った所で《付与術師》の検証をするしかないか。
そう考えて、俺は通路の奥に向かって進むことにした。
1階層で2番目に大きい空洞、別名、癒やしの部屋(またはイワシの部屋)を通り抜ける際に、せっかくなので水筒に湧き水を補充しておいた。
この癒やしの部屋は飲める湧き水が出ていることもあるけど、何より、魔物の湧き率が低いことで有名なポイントだ。
そのため、初心者はここを中心にして活動をすることが多い。
中にはこの部屋にテントを張って何日もここで過ごす人もいる。
故に初心者をイワシに見立てて、イワシの部屋と呼んだりもする、まあつまりダンジョン内のセーフティーゾーンだ。
今日も今日とて、この部屋には一人の見張りを立てつつマントにくるまって寝てるのが4人いた。
俺が部屋に入ったことで、少し緊張させてしまったようだったので、見張りで起きてる子に邪魔してすまんと片手を軽く上げて謝っておいた。
そして、そのまま部屋を出て奥に向かう。
実はこの先はそれほど分岐がなくて部屋と呼ばれる空洞は4つくらいしかない。
どれもそこそこの広さがあるので、定期的に魔物の湧きが発生する。
だから、どの空洞を選んだとしても、たぶんさっきの5人組とは後で顔を合わすことになるだろう。
「はぁ」とつい溜息が出てしまう。
いや、彼らは悪くない。
むしろダンジョンで魔物と戦う以外のことをしようとしてる俺が悪い……いや悪くはないか。
ちゃんと金を払って入ってるわけだし、中で何をしようが自由なはずだ。
とは言え、初心者の邪魔はあまりしないようにしよう。
とりあえず、癒やしの部屋から一番遠い空洞に移動した。
道中で現れたジャイアントラットは3匹とも倒しておいた。
さて。
俺の中でそもそも考えていた《付与術師》というのは、実は大きく分けて3種類あった。
1つ目は剣や盾、鎧、道具を強化する魔法だ。
RPGで言うところのロングソード+2とか、魔法の炎が消えないマジックトーチなどの、単純な魔法効果を物に付与するものだ。
2つ目は自分や仲間の身体能力を上げたり、属性を付けたり、敵を弱体化させるような、所謂バフ、デバフと呼ばれる魔法。
そして3つ目はゴーレムの作製……創造?
大雑把に言えば、ゴーレムというのは土や岩を人型に組み上げて、それに仮の命やプログラムを与えたものだ。魔法によって生み出されたゴーレムは術者の命令に従ってくれる忠実で便利な味方となる、というやつだ。
とりあえず、1つ目はクリアしている。というか、思ってたよりも高性能すぎて冷や汗をかいてるくらいだ。
付与できない事象も多いけど、今、付与が確認できている事象だけでもかなり満足できる状況だ。
不満があるとすれば、どれも一度しか効果を発動できないことだけど、これは仕方ないと諦める。
精神力に余裕がある時に、事前に予備を作っておけるだけで満足しておくべきだろう。
2つ目は擬似的に一部実現できている。
さっき使ったストーンオブインビジブルが正にそうだ。
でも、同じ効果を《付与術師》で自分に付与することはできない。
《付与術師》は消費精神力が俺にとっては大きいし、呪文を詠唱することを考えたらかなり不便なスキルだから、事前に魔法石という発動体を用意しておく今の使い方は実は好ましい。好ましいんだけど、懸念点は装備や魔法石が奪われた時のことだ。
まあ、そういった状況に陥った時点でかなり詰んでる状態なわけだから、それならば《付与術師》でどうにかしよう、ではなくて、それ以外のスキルや魔法を覚えておくことのほうが大事かもしれない。
なんと言っても、俺は《付与術師》以外には《鎚鉾3》しか持ってないわけだから。
で、3つ目のゴーレムだけど、今日はこれを試してみたくて潜ってるわけだ。
本当は自分の部屋でやるつもりだったんだけど、帰れなかったからな……今日は彼女たちが張ってたとしてもちゃんと帰ろう。
ウエストポーチから十徳ナイフ、どんぐり6個、それと紐を取り出す。
十徳ナイフは中学生の時に買った、俺の思い出のロマン装備だ。
多少強度が頼りないけど、錐でどんぐりに穴を開けるくらいはなんとかできた。
更に紐を適度な長さに切り分ける。
で、紐をどんぐりに開けた穴に紐の先端をあてがって、錐で穴の中に押し込んでいく。
「よしっ」
大した出来栄えじゃないけど、どんぐりと紐で作った人形の完成だ。
一応、頭のパーツには、顔に見えるように目の部分に穴を2個開けてある。
胴体はどんぐり1個じゃなくて、胸と腰の部分に分けてあげればよかったかな。
まあいいや、とりあえずエーコンワンの土台完成だ。
「コイルに従順なゴーレムとしてエーコンワンの名を付与する」
両手に持ったどんぐり人形に、そんな曖昧な付与内容を思い浮かべてみる。
すると、頭の中にというか瞼の裏にというか、まあとにかく呪文が浮かび上がってきたわけだけど、その文字の長さがいつもの数倍、いや、数十倍はあるようだ。
呪文の長さが消費精神力に比例してると分析してる俺にとって、これは大ピンチの状況だ。
《付与術師》は、途中で呪文を破棄、つまりスキルの実行途中でキャンセルした場合には、一定量の精神力を消費してしまうから、なるべくならしたくはなかったけど、これは致し方ない。
俺はこの呪文を破棄することにしたのだった。
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