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付与術師
4 ソロ
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懐中時計は夜7時過ぎを指し示していた。
現在時刻に気が付いた途端に腹が減ったり、疲れを感じたりするのは何なんだろうね。
いつものことだけど、外に出る頃には、もう酒場くらいしかやってないな。
よし、そろそろ帰ろう。
立ち上がると腰と背中がパキっと嫌な音を立てた。
おっさん化が始まってるなあ。
そう思いながら地上に出る戻り扉の空洞まで向かった。
外に出ると既に夜だった。
当たり前のことだけど。
それほど明るくない魔道ランプに入口の扉が照らされている管理局に入る。
「コイル、戻りました」
管理局は24時間ずっと開いてて、常に二人の管理局職員がいてくれてる。
もう顔馴染みになったおじさんに、ダンジョンから戻ったことを伝える。
「おお、今日もお疲れさん」
これだけのやり取りしかしない間柄だけど、このやり取りが実は結構好きだったりする。
俺にとってちょうどいい距離感なんだ。
お互いに軽く手を上げて「また」と伝える。
俺は、何秒も経ってないのに管理局を出て、飯を出してくれる酒場に向かった。
「いらっしゃいませー」
今日、俺が選んだのはひばりの巣という店だ。
小ぢんまりとしていて、酒場というよりも居酒屋といった雰囲気だ。
居酒屋だけど、しっかり食えるメニューがある店で、常連とまでは言わないけどそれなりに通ってる所だったりする。
一番奥のカウンタ席が空いてたのでそこに座った。
トンテキ定食と烏龍茶を頼んで、今日一日で検証したことを振り返る。
取得するのに必要な技能点が多かったから、正直、レアスキルであってくれと期待はしていた。
ただ、実際に手にしたこの能力は、俺の期待を大幅に超えるものだった。
このスキルのことはうまく隠しておかないと、面倒事に巻き込まれそうな気がするくらいの代物だと思う。
「はい、お待たせっ」
目の前に、頼んだ定食と烏龍茶がどかどかと、カウンターの向こう側から置かれていく。
「ありがとう、いただきます」
店員さんはうんうんと頷いて調理に戻っていった。
まあ、起こるか分からない先のことばかり考えてても仕方ないか。
まずは目の前に置かれたトンテキを食うことが俺のやるべきことだな。
周りの客の会話をBGMにして、俺は朝から12時間以上ぶりの食事を楽しんだのだった。
「それを聞いてどうするんだ?」
私たちの質問に対して、管理局のおじさんは質問で返してきた。
「どうもしないですよ。ただ、入ってった時間によっては出てくるの待ってよーかなー、って」
「そうそう」
「いや、それはどうもしなくないってことだろう?」
あー、そう言われてしまえばそうなる、のかな。
シュゴリンと私は顔を見合わせて首を傾げた。
どうしようか。
私の家で帰りを待つ?
そんなことを小声で話してたらおじさんの追撃が来てしまった。
「あのな、パーティー申請してない人間について、管理局としては情報を教えてやるわけにはいかないんだよ。お嬢ちゃんたちがダンジョンに入ってるか聞きに来た男がいたとして、私らが勝手に答えたら嫌だろう?」
うぐっ。確かにその通りです。
「そ、そうですね。確かにそれは嫌です。すみませんでした。ヌーコ、行こっか」
「ですね。お仕事の邪魔をしてすみませんでした」
「いや、可愛いお嬢ちゃんたちが話し相手になってくれんのはいつでもオーケーだよ。いつでも来てくれていいからね」
「サイチンさんっ、職務中ですよっ」
おじさんが同僚の若いお兄さんに怒られてるのを聞きながら、私とシュゴリンは管理局を出て、私の部屋に向かうことにした。
まだ開いてるお店があったので、飲み物とお菓子を買っていく。
帰りに偶然会えたらいいね、なんて話しながら。
でも、会えることなく私の部屋に到着してしまった。
私の隣の部屋。
廊下の突き当りにあるコイルさんの部屋に、人の気配はない。別に《気配感知》を使ったわけではないけど、最近、スキルを使わなくてもそういったことをなんとなくだけど感じられるようになってきてる。もちろん、スキルを使った方がはっきりと感じられるんですけど。
期待するような目で見てくるシュゴリンに向けて首を横に振る。
とりあえず二人で私の部屋に入ることにして、それから、私たちはどうやったらコイルさんともっと仲良くなれるか、お菓子を食べながら作戦会議をしたのでした。
さて困った。
食事を終えて部屋に戻ってくる途中で、すんなりと部屋まで辿り着けなさそうな状況に陥っている。
何故かと言えば、俺の住むアパルトマンの入口の横にある花壇の前でシュゴリン、ヌーコ、マヨイの三人が立ち話をしているからだ。
自惚れてるわけじゃないけど、たぶん、俺を待ってるんだと思う。
昨日、一昨日はパーティーに入ってくれと猛プッシュされてしまい、正直なところ、かなり困っていた。
世が世なら、まだ高校生くらいの女の子たちだ。
そんな子たちからお誘いを受けるのは、やっぱりちょっとは嬉しい。みんなカワイイし。今までの人生でこんなモテ期みたいなのはなかったから、浮かれて踊りだしたいくらいだよ。
ただ、それと一緒にダンジョンに潜るのとはちょっと違うと思うわけだ。
一緒に潜れば、俺はどうしたって彼女たちの保護者のような立場になるだろう。
彼女達がそう言うつもりで無かったとしても、だ。
でも、だからといって、俺は自分以外の誰かを守りきれるとは断言できない。
ましてやそれが4人もいるとなれば完全に無理だ。
もちろん、あの4人もそれぞれ覚悟を持ってダンジョンに潜ってるんだと思うし、自己責任って言葉も知ってるとも思うんだけど。
んー、自分の中の何がダメだからパーティーを組めない、ってことがうまくまとめらない。
「はぁ」
挨拶だけで部屋に戻れる気がしなかったので、結局、俺は少し散歩して、時間を潰してから帰ることにしたのだった。
現在時刻に気が付いた途端に腹が減ったり、疲れを感じたりするのは何なんだろうね。
いつものことだけど、外に出る頃には、もう酒場くらいしかやってないな。
よし、そろそろ帰ろう。
立ち上がると腰と背中がパキっと嫌な音を立てた。
おっさん化が始まってるなあ。
そう思いながら地上に出る戻り扉の空洞まで向かった。
外に出ると既に夜だった。
当たり前のことだけど。
それほど明るくない魔道ランプに入口の扉が照らされている管理局に入る。
「コイル、戻りました」
管理局は24時間ずっと開いてて、常に二人の管理局職員がいてくれてる。
もう顔馴染みになったおじさんに、ダンジョンから戻ったことを伝える。
「おお、今日もお疲れさん」
これだけのやり取りしかしない間柄だけど、このやり取りが実は結構好きだったりする。
俺にとってちょうどいい距離感なんだ。
お互いに軽く手を上げて「また」と伝える。
俺は、何秒も経ってないのに管理局を出て、飯を出してくれる酒場に向かった。
「いらっしゃいませー」
今日、俺が選んだのはひばりの巣という店だ。
小ぢんまりとしていて、酒場というよりも居酒屋といった雰囲気だ。
居酒屋だけど、しっかり食えるメニューがある店で、常連とまでは言わないけどそれなりに通ってる所だったりする。
一番奥のカウンタ席が空いてたのでそこに座った。
トンテキ定食と烏龍茶を頼んで、今日一日で検証したことを振り返る。
取得するのに必要な技能点が多かったから、正直、レアスキルであってくれと期待はしていた。
ただ、実際に手にしたこの能力は、俺の期待を大幅に超えるものだった。
このスキルのことはうまく隠しておかないと、面倒事に巻き込まれそうな気がするくらいの代物だと思う。
「はい、お待たせっ」
目の前に、頼んだ定食と烏龍茶がどかどかと、カウンターの向こう側から置かれていく。
「ありがとう、いただきます」
店員さんはうんうんと頷いて調理に戻っていった。
まあ、起こるか分からない先のことばかり考えてても仕方ないか。
まずは目の前に置かれたトンテキを食うことが俺のやるべきことだな。
周りの客の会話をBGMにして、俺は朝から12時間以上ぶりの食事を楽しんだのだった。
「それを聞いてどうするんだ?」
私たちの質問に対して、管理局のおじさんは質問で返してきた。
「どうもしないですよ。ただ、入ってった時間によっては出てくるの待ってよーかなー、って」
「そうそう」
「いや、それはどうもしなくないってことだろう?」
あー、そう言われてしまえばそうなる、のかな。
シュゴリンと私は顔を見合わせて首を傾げた。
どうしようか。
私の家で帰りを待つ?
そんなことを小声で話してたらおじさんの追撃が来てしまった。
「あのな、パーティー申請してない人間について、管理局としては情報を教えてやるわけにはいかないんだよ。お嬢ちゃんたちがダンジョンに入ってるか聞きに来た男がいたとして、私らが勝手に答えたら嫌だろう?」
うぐっ。確かにその通りです。
「そ、そうですね。確かにそれは嫌です。すみませんでした。ヌーコ、行こっか」
「ですね。お仕事の邪魔をしてすみませんでした」
「いや、可愛いお嬢ちゃんたちが話し相手になってくれんのはいつでもオーケーだよ。いつでも来てくれていいからね」
「サイチンさんっ、職務中ですよっ」
おじさんが同僚の若いお兄さんに怒られてるのを聞きながら、私とシュゴリンは管理局を出て、私の部屋に向かうことにした。
まだ開いてるお店があったので、飲み物とお菓子を買っていく。
帰りに偶然会えたらいいね、なんて話しながら。
でも、会えることなく私の部屋に到着してしまった。
私の隣の部屋。
廊下の突き当りにあるコイルさんの部屋に、人の気配はない。別に《気配感知》を使ったわけではないけど、最近、スキルを使わなくてもそういったことをなんとなくだけど感じられるようになってきてる。もちろん、スキルを使った方がはっきりと感じられるんですけど。
期待するような目で見てくるシュゴリンに向けて首を横に振る。
とりあえず二人で私の部屋に入ることにして、それから、私たちはどうやったらコイルさんともっと仲良くなれるか、お菓子を食べながら作戦会議をしたのでした。
さて困った。
食事を終えて部屋に戻ってくる途中で、すんなりと部屋まで辿り着けなさそうな状況に陥っている。
何故かと言えば、俺の住むアパルトマンの入口の横にある花壇の前でシュゴリン、ヌーコ、マヨイの三人が立ち話をしているからだ。
自惚れてるわけじゃないけど、たぶん、俺を待ってるんだと思う。
昨日、一昨日はパーティーに入ってくれと猛プッシュされてしまい、正直なところ、かなり困っていた。
世が世なら、まだ高校生くらいの女の子たちだ。
そんな子たちからお誘いを受けるのは、やっぱりちょっとは嬉しい。みんなカワイイし。今までの人生でこんなモテ期みたいなのはなかったから、浮かれて踊りだしたいくらいだよ。
ただ、それと一緒にダンジョンに潜るのとはちょっと違うと思うわけだ。
一緒に潜れば、俺はどうしたって彼女たちの保護者のような立場になるだろう。
彼女達がそう言うつもりで無かったとしても、だ。
でも、だからといって、俺は自分以外の誰かを守りきれるとは断言できない。
ましてやそれが4人もいるとなれば完全に無理だ。
もちろん、あの4人もそれぞれ覚悟を持ってダンジョンに潜ってるんだと思うし、自己責任って言葉も知ってるとも思うんだけど。
んー、自分の中の何がダメだからパーティーを組めない、ってことがうまくまとめらない。
「はぁ」
挨拶だけで部屋に戻れる気がしなかったので、結局、俺は少し散歩して、時間を潰してから帰ることにしたのだった。
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